つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

古語辞典比較〜項目の有無

各古語辞典の項目の有無を『な』から100項目程度で比較してみたい。

対象とする古語辞典は以下の通リ。

岩波書店
❂岩波古語辞典/初版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月初版1刷)⇒《岩波古初》と略す
❂岩波古語辞典/補訂版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月初版1990年2月補訂版初版2013年1月補訂版21刷)⇒《岩波古補》と略す

【旺文社】
❂旺文社古語辞典/中型新版(守随憲治・今泉忠義監修、編集責任:鳥居正博、1965年2月初版1965年3月重版)⇒《旺古中新》と略す
❂旺文社古語辞典/新版(松村明今泉忠義・守随憲治編、1960年2月初版1981年10月新版初版1982年新版重版)⇒《旺古新版》と略す
❂旺文社高校基礎古語辞典/第二版(古田東朔監修、旺文社編集部編、1987年10月初版1997年第二版初刷1999年重版)⇒《旺高基二》と略す
❂旺文社古語辞典/第九版(松村明・山口明穂・和田利政編、1960年2月初版2001年10月第九版2006年重版)⇒《旺古九版》と略す
❂旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、1990年11月初版2003年10月第三版2010年重版)⇒《旺全古三》と略す

角川書店
❂角川古語辞典/改訂版(武田祐吉久松潜一編、1958年3月初版1963年1月改訂初版1964年1月改訂35版)⇒《角古改A》と略す
❂角川古語辞典/改訂版(武田祐吉久松潜一編、1958年3月初版1963年1月改訂初版1966年1月改訂85版)⇒《角古改B》と略す
❂角川新版古語辞典(久松潜一・佐藤謙三編、1958年3月初版1972年12月新版初版1987年1月新版194版)⇒《角川新版》と略す
❂角川最新古語辞典/増補版(佐藤謙三・山田俊雄編、1975年1月初版1980年1月増補版初版1998年1月増補版64版)⇒《角新古増》と略す
❂角川必携古語辞典(山田俊雄・吉川泰雄編、1988年11月初版1990年10月再版)⇒《角川必携》と略す
❂角川全訳古語辞典(久保田淳・室伏信助編、2002年10月初版)⇒《角川全訳》と略す

学習研究社
❂学研新古語辞典(市古貞次編、1986年12月初版1994年4月9刷)⇒《学研新古》と略す
❂要語全訳必修古語辞典(平田喜信編、1992年2月初版1993年3月2刷)⇒《要語全訳》と略す
❂全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版(金田一春彦監修、菅野雅雄・中村幸弘編、1996年12月初版2002年12月第二版2005年1月第二版2刷)⇒《全訳用例》と略す
❂学研全訳古語辞典(金田一春彦監修、編者代表:小久保崇明、2003年12月初版2008年2月初版5刷)⇒《学研全訳》と略す

講談社
講談社古語辞典(佐伯梅友・馬淵和夫編、1969年12月初版1994年11月19刷)⇒《講談社古》と略す
講談社キャンパス古語辞典(馬淵和夫編、1995年11月初版)⇒《講キャン》と略す

三省堂
❂明解古語辞典/初版(金田一京助監修、編修主任:金田一春彦、1953年4月初版1953年7月初版2刷)⇒《明解初版》と略す
❂明解古語辞典/改訂版(金田一京助監修、編修主任:金田一春彦、1953年4月初版1958年4月改訂初版1958年12月改訂2版)⇒《明解改訂》と略す
❂時代別国語大辞典上代編(上代語辞典編修委員会編、代表:澤瀉久孝、1967年12月初版1983年9月3刷)⇒《時代上代》と略す
三省堂古語辞典(佐伯梅友監修、小松英雄編、1971年1月初版1972年1月初版7刷)⇒《三省古初》と略す
❂新明解古語辞典/第二版(金田一京助監修、編者代表:金田一春彦、1972年12月初版1977年12月第二版1979年1月第二版7刷)⇒《新明解ニ》と略す
❂新明解古語辞典/第三版(金田一京助監修、編者代表:金田一春彦、1972年12月初版1995年1月第三版2001年1月第三版12刷)⇒《新明解三》と略す
❂例解古語辞典/第二版(佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編著、1980年1月初版1985年1月第二版1986年2月第二版8刷)⇒《三省例ニ》と略す
三省堂セレクト古語辞典(編者代表:桑原博史、1987年12月初版1988年3月3刷)⇒《三省セレ》と略す
三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2000年1月初版)⇒《三省詳説》と略す
❂全訳読解古語辞典/第二版(編者代表:鈴木一雄、1995年11月初版2001年1月第二版1刷2003年3月9刷)⇒《全訳読解》と略す

小学館
❂新選古語辞典/新版(中田祝夫編、1963年4月初版1974年2月新版1978年4月新版10刷)⇒《新選古新》と略す
❂古語大辞典(中田祝夫・和田利政・北原保雄篇、1983年12月初版1985年初版6刷)⇒《小古語大》と略す
❂全訳古語例解辞典/第三版(北原保雄編、1987年1月初版1998年1月第三版2002年2月第三版9刷)⇒《小訳例三》と略す

【大修館書店】
❂基本古語辞典/改訂版(小西甚一著、1966年3月初版1969年11月改訂初版1973年3月改訂4版)⇒《大基改訂》と略す
❂古語林(林巨樹・安藤千鶴子編、1997年11月初版2010年4月初版7刷)⇒《大古語林》と略す

【中文舘書店】
❂參考古語辭典/學生版(松下大三郎監修、江波煕編著、1940年2月初版)⇒《参考古語》と略す

【東京書籍】
❂東書最新全訳古語辞典(三角洋一・小町谷照彦編、2006年1月初版2011年2月初版4刷)⇒《東書最新》と略す

【文英堂】
❂全訳全解古語辞典(山口堯二・鈴木日出男編、2004年10月初版)⇒《全訳全解》と略す

ベネッセコーポレーション
❂ベネッセ全訳古語辞典(中村幸弘編、1996年11月初版2002年3月初版13刷)⇒《ベネ全訳》と略す
❂ベネッセ古語辞典(井上宗雄・中村幸弘編、1997年11月初版2007年1月初版6刷)⇒《ベネ古語》と略す
❂ベネッセ全訳コンパクト古語辞典(中村幸弘編、1999年11月初版)⇒《ベネコン》と略す

明治書院
❂詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月初版1976年2月再版)⇒《詳解古語》と略す
❂新訂詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月初版1982年10月新訂版1985年1月新訂7版)⇒《新訂詳解》と略す
❂最新詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月初版1991年10月最新版1995年1月最新版5版)⇒《最新詳解》と略す

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小学館「古語大辞典」の『な』から100項目を挙げ、他の古語辞典にその項目があるかどうかをチェックする。
「古語大辞典」に無くて他の古語辞典にある項目は[20a]などとして挙げる。


[1]な【名】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[1a]名有り……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》

[1b]名立つ……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》

[1c]名流る……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》

[2]名に負ふ……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[3]名に聞く……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[4]名にし負ふ……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[5]名に立つ……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[6]名に流る……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[6a]名を揚ぐ……《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》

[7]名を得……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[8]名を腐(くた)す……《小古語大》

[9]名を立つ……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[10]名を取る……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[11]名を流す……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[11a]名を残す……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》

[12]名を惜しむ……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[13]名を折る……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[14]な【字】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[15]な【肴】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《小古語大》

[16]な【菜】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[17]な【魚】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[18]な【儺】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[19]儺遣らふ……《旺古新版》《旺古九版》《小古語大》

[20]な【汝】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[20a]な【己】……《岩波古初》《岩波古補》

[20b]な【中】〈ナカの古形〉……《岩波古補》

[21]な【無】……《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[22]な〈副詞〉……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[23]な〈完了の助動詞「ぬ」の未然形……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[24]な〈断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の撥音便「なん」の撥音無表記……《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[25]な〈打消の助動詞「ず」の古い形の未然形……《岩波古初》《岩波古補》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[26]な〈格助詞〉……《岩波古初》《岩波古補》※岩波古初・岩波古補は連体助詞とする《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《小古語大》

[26a]な〈格助詞、格助詞「に」の東国方言〉……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《旺全古三》

[27]な〈係助詞、「は」の連声〉……『旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《小古語大》

[28]な〈終助詞、終止形接続、禁止〉……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[29]な〈終助詞、未然形接続〉……《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[30]な〈終助詞、終止形・体言・助詞に接続、詠嘆〉……《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[31]な〈間投助詞〉……《小古語大》

[31a]な〈接尾語、親愛〉……《岩波古初》《岩波古補》

[32]なあて【名当て】……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《小古語大》

[33]ない〈形容動詞活用語尾「なり」「なる」の転〉……《岩波古初》《岩波古補》※岩波古初・岩波古補は断定の助動詞「なり」とする《小古語大》

[34]ない〈感動詞〉……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[35]ないいん【内印】……《岩波古初》《岩波古補》《角古改A》《小古語大》

[36]ないえん【内宴】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[36a]ないえん【内縁】……《岩波古初》《岩波古補》

[37]ないがしろ【蔑】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[37a]蔑にす……《旺古新版》《旺古九版》

[38]ないがま【薙い鎌】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[39]ないき【内記】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[40]ないぎ【内議・内儀】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》※旺文社・角川書店の古語辞典は「内儀」と「内議」を別語として項目を立てている《小古語大》

[40a]ないきゃく【内客】……《旺古中新》

[41]ないきよげ【ない清げ】……《角古改A》《小古語大》

[42]ないぐ【内供】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[43]ないくう【内宮】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[44]ないぐぶ【内供奉】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[45]ないくゎん【内官】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[45a]内官の除目……《角古改A》

[46]ないげ【内外】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[47]内外の文……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[48]ないけう【内教】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[49]ないけうばう【内教坊】……《岩波古初》
《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[50]ないげてん【内外典】……《岩波古初》《岩波古補》※岩波古語辞典は「ないげでん」《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》※旺古新版・旺古九版は「ないげでん」《角古改A》《小古語大》

[51]ないけん【内検】……《小古語大》

[52]ないけん【内見】……《小古語大》

[53]ないし【内侍】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[54]ないし【乃至】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[54a]ないじ【乃時・廼時】……《旺古中新》

[55]ないしせん【内侍宣】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[56]ないしつ【内室】……《岩波古初》《岩波古補》《小古語大》

[57]ないしどころ【内侍所】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[58]内侍所の御神楽……《小古語大》

[59]ないしのかみ【尚侍】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[59a]ないしのかんのきみ【尚侍君】……《岩波古初》《岩波古補》

[60]ないしのじょう【掌侍】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[61]ないしのすけ【典侍】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[62]ないしのつかさ【内侍司】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[62a]ないしゃう【内象】……《旺全古三》

[63]ないしゃく【内戚】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》※旺文社の古語辞典は「ないじゃく」《小古語大》

[64]ないじゃくり【泣いじゃくり】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[65]ないじゅ【内豎・内竪】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[66]ないじゅどころ【内豎所・内竪所】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[67]ないしょ【内所】……《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[68〕ないしょ【内書】……《小古語大》

[69]ないしょう【内證】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[69a]内證あつかひ……《角古改A》

[69b]内證金……《角古改A》

[69c]内證手代……《角古改A》

[70]内證に尾が見える……《小古語大》

[71]内證は張り物……《岩波古初》《岩波古補》《角古改A》《小古語大》

[72]内證は締む……《小古語大》

[73]ないしょうかんだう【内證勘当】……《岩波古初》《岩波古補》《小古語大》

[74]ないしょうちゃう【内證帳】……《小古語大》

[75]ないしょうづかひ【内證使ひ】……《小古語大》

[76]ないしょうづく【内證尽く】……《小古語大》

[77]ないしょうてだい【内證手代】……《小古語大》

[78]ないしょうれうり【内證料理】……《角古改A》《小古語大》

[79]ないしょもの【内所者】……《角古改A》《小古語大》

[79a]ないしん【内心】……《旺全古三》

[80]ないしんわう【内親王】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[81]ないせき【内戚】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《小古語大》

[82]ないぜん【内膳】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[83]ないぜんし【内膳司】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[84]ないぜんのかみ【内膳正】……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[85]ないそう【内奏】……《岩波古初》《岩波古補》《小古語大》

[86]ないそん【内損】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[87]ないだいじん【内大臣】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[88]ないだう【内道】……《小古語大》

[89]ないだうぢゃう【内道場】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[90]ないだん【内談】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[91]ないぢん【内陣】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[92]ないつうじ【内通事・内通詞】……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《小古語大》

[92a]ないづ【無い図】……《岩波古初》《岩波古補》

[93]ないてん【内典】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》※旺古中新・旺古新版・旺古九版は「ないでん」《旺高基二》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[93a]ないとうぢゃうさう【内藤丈草】……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》

[93b]ないとがり【鳴鳥狩り】……《角古改A》

[93d]ないな【無い名】……《角古改A》

[94]ないない【内内】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[95]ないはう【内方】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[96]ないはら【ない腹】……《小古語大》

[97]ない腹を立つ……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[97a]ないふ【内府】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺高基二》『旺古九版》《旺全古三》《角古改A》

[98]ないぶん【内分】……《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》

[99]ないべん【内弁】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《旺全古三》《角古改A》《小古語大》

[99a]ないます〈「なさいます」の約〉……《角古改A》

[100]ないみゃうぶ【内命婦】……《岩波古初》《岩波古補》《旺古中新》《旺古新版》《旺古九版》《角古改A》《小古語大》



100……《小古語大》
86……《旺古九版》《角古改A》
85……《旺古新版》
79……《旺古中新》
69……《岩波古補》
68……《岩波古初》
40……《旺全古三》
19……《旺高基二》

知恵袋の回答

知恵袋の質問への回答の一部です。


伊勢物語23段(現存する伊勢物語写本中最古の写本の一つと考えられる国立歴史民俗博物館蔵伝二条為氏筆本〈通称「大島本」〉による)
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むかしゐ中わたらひしける人の
ことも井のもとにいてゝあそひ
けるをおとなになりにけれは
おとこもをんなもはちかはして
ありけれとおとこはこの女を
こそえめとおもひ女はこのをと
こをこそと思ひつゝおやのあ
はするをもきかてなんありけ
るさてこのとなりのをとこの
もとよりかくなん
 つゝ井つのゐつゝにかけしまろかたけ
 すきにけらしもいもみさるまに
  返し女
 くらへこしふりわけかみもかたすきぬ
 きみならすしてたれかあくへき
かくいひ\/てつひにほいのこと
あひにけりさてとしころふる
ほとに女はをやなくなりたより
なくなるまゝにもろともにいふ
かひなくてあらむやはとてかう
ちのくにたかやすのこほりにい
きかよふところいてきにけりさり
けれとこのもとの女あしと思へる
けしきもなくていたしやりけ
れはおとこことこゝろありて
かゝるにやあらむと思ひうたかひ
てかくかうちへいぬるかほにて
せさいのなかにかくれてゐてみ
れはこの女いとよくけさうして
うちなかめてかくなん
 かせふけはをきつしらなみたつた山
 よはにやきみかひとりゆく覧
とよみけるをきゝてかきりなく
かなしと思てかうちへもゆかす
なりにけりまれ\/かのたかや
すにいきてみれははしめこそ
こゝろにくもつくりけれいまは
うちとけてつくしくしをさし
かけてかみをまきあけてをも
なかなる女てつからいゐかひとり
てけこのうつは物にもりけるを
みてこゝろうかりていかすなりに
けりさりけれはかの女やまとの
かたをみやりて
 君かあたりみつゝをゝらんいこま山
 くもなかくしそあめはふるとも
といひてみいたすにからうしてやま
と人こむといへりよろこひてま
つにたひ\/すきぬれは
 きみこんといひしよことにすきぬれ
 はたのまぬ物のこひつゝそふる
といひたれとをとこすますなり
にけり

大和物語149段(桂宮本系統の永青文庫細川幽斎奥書本による)
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むかしやまとの國かつらきのほとりにすむ男女あり
けりこの女かほかたちいときよらなりとしころおもひか
はしてすむにこの女いとわろくなりにけれはおもひ
わつらひてかきりなく思ひなからめをまうけてけり
この今のめはとみたる女になんありけることに
おもはねといけはいみしういたはり身のさう
そくもいときよらにさせけりかくにきはゝしき所
にならひてきたれはこの女いとわろけにてゐて
かくほかにありけりとさらにねたけにも見えすなとあ
れはいとあはれと思ひけり心ちにもかきりなく
ねたく心うくおもひをしのふるになんありけるとゝ
まりなんと思夜もなをいねといひけれはわかかくあ
りきするをねたまてことわさするにやあらむさ
るわさせすはうらむる事もありなと心のうちにお
もひけりさて出ていくと見えてせむさいのなかに
かくれておとこやくるとみれははしにいてゐて月の
いといみしうおもしろきにかしらかいけつりなとし
てをり夜ふくるまてねすいといたううちなけ
きてなかめけれは人待なめりと見るにつかう人の
まへなりけるにいひける
 風ふけはおきつ白波たつ田山夜はにや君か獨こゆらん
とよみけれはわかうへをおもふなりけりとおもふにいと
かなしうなりぬこのいまのめの家はたつた山を越
ていくみちになんありけるかくてなをみをりけれ
はこの女うちなきてふしてかなまりに水をいれて
むねになむすへたりけるあやしいかにするにかあら
んとて猶みるされはこの水あつゆにたきりぬ
れはゆふてつ又水をいるみるにかなしくてはしり
出ていかなる心ちし給へはかくはし給そといひて
かきいたきてなんねにけるかくてほかへもさらに
いかてさとゐにけりかくて月日おほくへておもひ
やるやうつれなきかほなれと女のおもふ事いと
いみしきことなりけるをかくいかぬをいかにおもふ
らむと思ひ出てありし女のかりいきけりひさし
くいかさりけれはつゝましくてたてりけりさてかいま
めは我にはよくて見えしかといとあやしきさまな
るきぬをきておほくしをつらくしにさしかけてをり
手つからいゐもりをりけりいといみしとおもひてき
にけるまゝにいかすなりにけりこの男はおほきみ
なりけり


古今和歌集 巻18・雑歌下・994(宮本家蔵清輔本による)
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  たいしらす  よみ人しらす
かせふけはをきつしらなみたつた山
よはにや君かひとりこゆらん
 ある人この哥はむかしやまとのくにな
 りける人のむすめにある人すみわ
 たりけりこの女をやもなくなりて
 いへもわろくなりゆくほとにこのをとこ
 かうちのくにゝ人をあひしりてかよひ
 つゝかれやうにのみなりゆきけりさり
 けれともつらけなるけしきもみえて
 かうちへゆくことにをとこの心のことく
 にしつゝいたしやりけれはあやしと思
 ひてなきまにこと心もやあるとうたか
 ひて月のをもしろかりけるよかう
 ちへいくさまにてせさいのなかにかく
 れてみ侍けれはよふくるまゝにことを
 かきならしつゝこのうたをよみてね
 にけれはこれをきゝていとあはれなり
 とおもひてそれより又ほかへもまからす
 なりにけりとなんいひつたふる

古語辞典比較〜前書・後書(4)基本古語辞典/改訂版〜最新詳解古語辞典

❄基本古語辞典/改訂版(小西甚一著、1966年3月初版1969年11月改訂初版1973年3月改訂4版、大修館書店)

【はじめに】
 古文の勉強にほんとうの意味で役だつ辞書がほしい━━ということを、高校の先生がたから、ずいぶん承った。古語辞典としていくつも刊行されている。しかし、高校生の学習にかならずしも最適とはいえないのだそうである。その理由は、第一に、不要な古語が多すぎることだという。つまり、つまり、専門の国文学者だってことによれば生涯ぶつからないかもしれない語の満載された辞書を高校生に推奨するのは、ほしくもない品まで抱き合わせで押しつけるようなもので、不当な浪費をしいる結果になるのではないか━━という苦情は、もっともだと思われる。
 第二の理由は、もっと重要である。それは、現在おこなわれている古語辞典では、質的に不足だというのである。つまり、古文教科書には、くわしい語釈が付けられており、ひとわたり通釈するためなら、わざわざ古語辞典なんか引く必要はない。しかも、引いてみたら、辞典の説明は教科書の脚注と同じだった━━というのでは、何のために辞典を持たせるのか、わけがわからない。脚注に示されている意味が、どこから出てくるのか、あるいは、よみかたや解釈に異説があるとき、ある説がなぜ正しいのか等を考えるため、積極的に拠り所を与えてくれるような辞書こそ、学習者にとって必要なのではないか。
 辞書というものは、一般に、語義と用例をできるだけ正確に示せばよいのであり、なぜこうよみ、こう解釈するかという議論まで持ちこむにはおよばない。しかし、学習辞典としては、必要な知識をなるべく親切に提供するのが、むしろ義務なのであって、「なるほど、そうなのか」という理解への協力こそ、辞書のいちばん眼目となるべきだろう。こんなふうに考えてくると、量的には適切な規模を、質的には豊富な解説を━━というのが、学習辞典としてどうしても無くてはいけないはずである。そんなことを考えたり話したりしているうち、自分がそれを実行しなくてはならない事態となり、この辞典が生まれた。着手したのは昭和三七年五月だから、あしかけ四年になる。
 その間、悪戦苦闘の連続であった。なぜそんなに苦労したかというと、すべてを根本からやり直したからである。参考のため、いくつかの古語辞典を調べてみたが、驚いたことに、語釈・用例ともに大部分は先行辞書のまる写しというのが多い。前の辞書が誤っていると、あとは右へならえ、同じ誤りがいつまでも写し継がれてゆく。「多くの辞書にこうなっているから……」ということは、残念ながら、拠り所にはなりえないようである。そのなかで、さすがに良心的だなと感心させられた古語辞典が、ひとつだけ存在する。わたくしは、その辞典に高い敬意をはらい、用例はすべてそれと違ったものをあげ(他に用例のない語は別として)、語釈も新しい言いまわしで押しとおした。
 これは、容易なことでなかったけれど、結果において、わたくしの辞典をかなり独創的なものにしてくれたらしい。従来のあらゆる古語辞典に見られない解釈が、そういったプロセスから生まれた。だから、学習辞典であるけれど、学術的には最高レベルから半ミリもさがっていないことを、あえて断言する。
 昭和四〇年一二月
著者しるす

古語辞典比較〜ならなくに

なるべくどの辞書にも載っていて、解釈が分かれる語を比較するのが面白かろうと思い、『ならなくに』を比較してみる。


❄參考古語辭典學生版(江波煕編著、1940年2月、中文舘書店)

★ならなくに 「でないのに」
[例]絲によるものならなくに別れ路の心細くもおもほゆるかな(古今集、羇旅歌)=絲によるものは皆細いが、私の心は絲によるものでないのに、故郷に別れて遠く旅路に出るのは、心細く思はれることよ。


❄明解古語辞典/初版(金田一春彦編修主任、1953年4月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに
㈠……ナイノニ。「み山には松の雪だに消え━━、(ソレニヒキカエ)都は野辺の若菜摘みけり」〔古今〕。
㈡……ナイ以上ハ。……ナイノダカラ。「誰をかも知る人にせん高砂の松も昔の友なら━━(=友デハナイ以上ハ)」〔古今〕。
㈢……ナイノダナア。「もろこしの吉野山にこもるとも、おくれんと思ふ我なら━━」〔古今〕


❄明解古語辞典/改訂版(金田一春彦編修主任、1958年12月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに[ほぼ初版に同じ]
吉野山」を「吉野の山」に変更。


❄新明解古語辞典/第二版(金田一春彦編修主任、1977年12月、三省堂

★ならなくに(連語)
❶……デハナイノニ。「つれづれと空ぞ見らるる、思ふ人天降(あまくだ)り来むもの━━」〔和泉式部集〕
❷……デハナイ以上ハ。……デハナイカラ。「誰をかも知る人にせむ、高砂の松も昔の友━━」〔古今・雑上・909〕
❸……デハナイノダナア。……デハナイモノヲ。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我━━」〔伊勢・1〕


❄新明解古語辞典/第三版(金田一春彦編修主任、1995年1月、三省堂

[第二版に同じ]


❄角川古語辞典/改訂版(武田祐吉久松潜一編、1963年1月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ぬ」の未然形「な」+準体助詞「く」+終助詞「に」〙そうではないのに。それではないのに。「なでしこが花のみ訪(と)はむ君━━」〔万・4447〕「住吉(すみのえ)の松━━久しくも」〔大和〕


❄角川新版古語辞典(久松潜一・佐藤謙三編、1972年12月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞の未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙そうではないのに。それではないのに。「なでしこが花のみ訪(と)はむ君ならなくに」〔万20・4447〕「住吉の松ならなくに久しくも」〔大和11〕


❄旺文社古語辞典/中型新版(今泉忠義・守随憲治監修、鳥居正博編集責任、1965年2月、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。「みちのくのしのぶもぢずり(=序詞)誰ゆゑに乱れそめにし我━━(=アナタ以外ノ人ノセイデ心ガ乱レ始メタ私デハナイノニ)」〈伊勢〉「たれをかも知る人にせむ(=ダレヲ友ニシヨウカ)高砂の松も昔の友━━(=昔カラノ友デハナイノニ)」〈古今・雑上〉[語法]断定の助動詞「なり」の未然形に打消しの助動詞「ぬ」未然形+接尾語「く」がつき、さらに接続助詞「に」がついたもの

❄旺文社古語辞典/新版(松村明今泉忠義・守随憲治編、1981年10月、旺文社)

★ならなくに〔[組成]断定の助動詞「なり」の未然形に、打消の助動詞「ず」のク語法「なく」、接続助詞「に」のついたもの〕……ではないのに。……ではないから。「みちのくの信夫もぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4〉

❄旺文社古語辞典/第九版(松村明・山口明穂・和田利政編、2001年10月、旺文社)

★ならなくに〔[組成]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法「なく」+「に」〕……ではないのに。「みちのくの信夫もぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4〉


❄時代別国語大辞典上代編(沢瀉久孝編者代表、1967年12月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに⇒【項目ナシ】


❄基本古語辞典/改訂版(小西甚一編、1969年11月、大修館書店)

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに〘連語〙
㋑……ないことだのに。……ないのに。「安積山影さへ見ゆる山の井の(ヨウニ)浅き心をわが思は━━(=浅イ心デアナタヲ思ッテハイナイノニ)」〔万葉・巻16〕
㋺……ないことだから。……でない以上は。「今さらに君はい行かじ(=帰ロウトハナサルマイ)春雨の(アナタヲ帰サナイタメ降ッテイル)心を人の知らざら━━(=アナタハゴ存ジナイワケデアリマセンカラ)」〔万葉・巻10〕
㋩……ないことだなあ。「風吹けば黄葉散りつつ(=シキリニ散ッテ)すくなくも(=スコシバカリノ)吾の松原(ハ)清から━━(=美シサデハナイコトダ)」〔万葉・巻10〕〘「すくなくも」は「清からなくに」を修飾する〙


講談社古語辞典(佐伯梅友・馬淵和夫編、1969年12月、講談社

★ならなくに(連語)〔「なら」は断定の助動詞「なり」の未然形、「な」は否定の助動詞「ず」の古い未然形、「く」は接尾辞、「に」は詠嘆の終助詞〕ではないのに。ということはないのに。「一年(ひととせ)に二たびかよふ君━━」〈万・2077〉


❄詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月、明治書院

★ならなくに(連語)〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞の古い未然形「な」+名詞をつくる接尾語「く」+間投助詞「に」〕……ではないことなのになあ。……ではないのになあ。「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友━━」〈古今・雑上〉


❄新訂詳解古語辞典(佐藤定義編、1982年10月、明治書院

[初版に同じ]


❄最新詳解古語辞典(佐藤定義編、1990年10月、明治書院

★ならなくに(連語)〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞の古い未然形「な」+名詞をつくる接尾語(一説、準体助詞)「く」+間投助詞「に」〕……ではないことなのになあ。……ではないのになあ。「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友━━」〈古今・雑上〉◎文中に用いて「……ではないのに」という逆接条件を表すこともあり、これを接続助詞ととる説もある。


❄新選古語辞典/新版(中田祝夫編、1974年1月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」、打消の助動詞「ぬ」の未然形「な」、準体助詞「く」、助詞「に」より成る。「に」はもと格助詞。文末にある時は、特に詠嘆の意をもつので、終助詞〙……ではないのに。「よそにのみ見てや渡らも(=日ヲ過ゴスノダロウカ)難波潟雲居に見ゆる島━━」〈万・4355〉。「かくしつつ世をやつくさむ高砂の尾上にたてる松━━」〈古今・雑上〉。


❄岩波古語辞典/初版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月、岩波書店

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに〘連語〙《打消の助動詞ズのク語法ナクと助詞ニとの複合》……でないのに。「明日香川川淀去らず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあら━━」〈万325〉。「花だにもまだ咲か━━うぐひすの鳴く一声を春と思はむ」〈後撰36〉


❄岩波古語辞典/補訂版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1990年2月、岩波書店

[初版に同じ]


❄角川最新古語辞典/増補版(佐藤謙三・山田俊雄編、1980年1月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙上代・中古の和歌に用いられる。体言・準体言、活用語の連体形に付く。……ではないことだなあ。……ではないことよ。……ではないのに。「幣(まひ)しつつ君がおほせる撫子(なでしこ)が花のみ訪(と)はむ君ならなくに(=アナタデハナイコトダナア)」〔万葉20・4447〕「物思ひの深さ比べに来て見れば夏の茂りも(=夏草ノ茂リノ深サモ)物ならなくに(=問題デハナイコトヨ)」〔蜻蛉・中・天禄二年〕「めづらしき声ならなくに(=声デハナイノニ)ほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀・359〕


❄古語大辞典(中田祝夫・和田利政・北原保雄編、1981年12月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」の未然形「な」+準体助詞「く」+接続助詞「に」〙……ではないのに。「磐畳かしこき山と知りつつも我は恋ふるか同等(なみ)━━[不有爾]」〈万葉・7・1331〉。「幣(まひ)しつつ君がおほせるなでしこが花のみ訪はむ君━━[奈良奈久爾]」〈万葉・20・4447〉。「白妙の浪路を遠く行き交ひて我に似べきはたれ━━」〈土左・12月26日〉


❄例解古語辞典/第二版(佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編、1985年1月、三省堂

★ならなくに〈連語〉……ではないことだ。……ではないのに。
[用例]
(a)「陸奥の忍綟摺(=ココマデ序)誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〔伊勢・一段〕
[解]あなた以外の誰のために思い乱れはじめた私ではありませんよ、の意。ただあなたのためなのですと訴えている。
(b)「めづらしき声ならなくに、ほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀〕
[解]「ここら」は、数の多いこと。
[語形]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+上代の助詞「く」+間投助詞「に」。


❄学研新古語辞典(市古貞次編、1986年12月、学習研究社

★ならなくに{[成立ち]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消しの助動詞「ず」のク語法「なく」+「に」}……ではないのだが。……ではないのに。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4・724〉


三省堂セレクト古語辞典(桑原博史編者代表、1987年12月、三省堂

★ならなくに(連語)
「なら」は断定の助動「なり」の未然形、「な」は打消しの助動「ず」の古い未然形、「く」は上代の準体助、「に」は間投助。
❶……ではないのに
[用例]「誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢〉
[訳]あなたのほかの誰のために、心乱れようとする私だろうか、そうではないのに(=あなたのために乱れているのだ)。


❄角川必携古語辞典(山田俊雄・吉川泰雄編、1988年11月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙上代・中古の和歌に用いられる。〔接続〕体言・準体言、活用語の連体形に付く。〔意味・用法〕……ではないことだなあ。……ではないことよ。……ではないのに。「陸奥のしのぶもぢ摺(=ココマデ「乱れ」にカカル序詞)誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〔伊勢・1〕「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀〕


❄要語全訳必修古語辞典(平田喜信編、1992年2月、学習研究社

★ならなくに 連語 {断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消しの助動詞「ず」の古い未然形「な」+体言化する接尾語「く」+間投助詞「に」}……ではないことよ。……ではないのに。「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我━━(⇨忍綟摺り)」〈伊勢・1〉


講談社キャンパス古語辞典(馬淵和夫編、1995年11月、講談社

★ならなくに(連語)〘断定の助動詞「なり」の未然形に打消の助動詞「ず」の古い未然形、接尾辞「く」、助詞「に」の付いた形〙……ではないのに。……ということはないのに。「乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉


❄ベネッセ全訳古語辞典(中村幸弘編、1996年11月、ベネッセコーポレーション

★ならなくに ……ではないのに。……ではないのだから。……ではないのだなあ。
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに[百人一首]〈古今集・雑上・909〉
[発展]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」。


❄ベネッセ全訳コンパクト古語辞典(中村幸弘編、1999年11月、ベネッセコーポレーション

[ベネッセ全訳古語辞典に同じ]


❄旺文社高校基礎古語辞典/第二版(旺文社編集部編、1997年、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我ならなくに」〈古今・恋4〉
[なりたち]なら(断定の助動詞「なり」の未然形)+な(打消の助動詞「ず」の未然形の古い形)+く(接尾語)+に(間投助詞)。


❄ベネッセ古語辞典(井上宗雄・中村幸弘編、1997年11月、ベネッセコーポレーション

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」〙……でないのに。……でないのだから。「幣(まひ)しつつ君がおほせる石竹花(なでしこ)花のみ訪はむ君ならなくに」〈万20・4447〉


❄古語林(林巨樹・安藤千鶴子編、1997年11月、大修館書店)

★ならなくに〔助動―助動―接尾―接助〕
❶〜ではないことなのに。〜ではないのに。〜ではないことなのになあ。
[例]糸によるものならなくに別れ路の心細くも思ほゆるかな〈貫之・古今・羇旅〉
❷〜でないのだから。〜ではないからには。
[例]高砂の松も昔の友ならなくに〈古今・雑上〉
❖「なら」は断定の助動詞「なり」の未然形。「なくに」は、打消の助動詞「ず」を名詞化したク語法の語「なく」に接続助詞「に」が付いたもの。▶「に」を格助詞とする説もある。


❄全訳古語例解辞典/第三版(北原保雄編、1998年1月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消しの助動詞「ず」の古い未然形+準体助詞「く」+助詞「に」〙
❶〘文末に用いて〙……ではないことだなあ。……ではないのだよ。
[例]「陸奥のしのぶもぢ摺り誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉
[訳]陸奥で産するしのぶもぢ摺りの乱れ模様のように、(あなた以外の)誰かのせいで思い乱れ始めた私ではありません(みんなあなたのせいなのです)。
❷〘文中に用いて〙……ではないのに。
[例]「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〈古今・賀・359〉
[訳]目新しい声ではないのに、ホトトギスは長年にわたって飽きずに鳴き続けているものだなあ。
[参考]❷の用法の「に」は接続助詞と考える説もある。


三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2000年1月、三省堂

★ならなくに ……ではないのに。
[例]「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈古今・恋4・724〉
[訳]陸奥の信夫のしのぶ草ですり染めした模様が乱れているように、あなた以外のだれのせいで心が乱れはじめた私ではないことですのに。
[語構成]
なら(断定の助動詞「なり」の未然形)なく(打消の助動詞「ず」・名詞化)に(格助詞)
        

三省堂全訳読解古語辞典/第二版(鈴木一雄編者代表、2001年1月、三省堂

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い形の未然形「な」+接尾語「く」+終助詞「に」〙
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[要説]上代平安時代の和歌に用いられた表現。
体言や活用語の連体形に接続し、詠嘆・感動の気持ちを表して、文末で終助詞的に(❶)、文中で接続助詞的に(❷)用いられる。
1.……ではないことだなあ。……ではないことよ。……❶
2.……ではないのに。……❷
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
❶(文末に用いられて)……ではないことだなあ。……ではないことよ。
[例]「もの思ひの深さくらべに来て見れば夏の茂りもものならなくに」〈蜻蛉・中〉
[訳]私のもの思いと夏草の繁茂と、どっちが深いか比べてみようと思って(鳴滝に)やって来ましたが、夏草の茂りなど物の数ではなかったことです。
❷(文中に、また倒置法の場合は文末に用いられて、接続助詞的に)……ではないのに。
[例]「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉
[訳]陸奥で産するしのぶもじずりの乱れ模様のように、あなた以外のだれのために心が乱れはじめた私ではないのに。


❄角川全訳古語辞典(久保田淳・室伏信助編、2002年10月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法+格助詞「に」〙❶(逆接を表し)……ではないのに。[例]住の江の松ならなくに久しくも君と寝ぬ夜のなりにけるかな〈大和・11〉[訳](久しいことの例の)住の江の松ではないのに、久しいあいだ、あなたと寝ない夜となってしまったなあ。❷(文末にあって、詠嘆の意を添える)……ではないのだなあ。……ではないことよ。[例]唐土の吉野の山にこもるとも遅れむと思ふ我ならなくに〈古今・雑躰・1049〉[訳](あなたが)唐の国の吉野の山にこもるとしても、あとに取り残されようと思うわたしではないのだなあ。


❄全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版(菅野雅雄・中村幸弘編、2002年12月、学習研究社

★ならなくに[連語]
❶……でないことだなあ。……ではないのだよ。▷文末に用いる。[古今集]恋4「誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」
❷……ではないのに。▷文中に用いる。[古今集]賀「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」[訳]目新しい声ではないのに、ほととぎす(の声)は長年(聞いても)飽きないものだなあ。
[なりたち]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+体言化する接尾語「く」+助詞「に」


❄学研全訳古語辞典(小久保崇明編者代表、2003年12月、学習研究社

[全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版に同じ]


❄旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、2003年10月、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。
[古今]恋4「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」
[なりたち]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」のク語法「なく」+助詞「に」
[参考]「に」は格助詞、断定の助動詞「なり」の連用形、接続助詞などの諸説がある。


❄全訳全解古語辞典(山口堯二・鈴木日出男編、2004年10月、文英堂)

★ならなくに〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法+接続助詞「に」〕
❶文末に用いる。〜でないのだなあ。〜ではないことよ。
[例]陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに〈伊勢・1〉
❷文中に用いる。〜ではないのに。〜でないにかかわらず〜なのは残念である。
[例]めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を(=毎年聞いても)飽かずもあるかな〈古今・賀〉


❄東書最新全訳古語辞典(三角洋一・小町谷照彦編、2006年1月、東京書籍)

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」〙
❶……ではないのだなあ。
[例]「もの思ひの深さ比べに来てみれば夏の茂りもものならなくに」〈蜻蛉・中〉
[訳]「(私の)もの思い(の深さ)と(夏草の)深さを比べに来てみると、夏草の繁茂などたいしたことではないのだなあ」
❷……ではないのに。また、……ではないのだから。
[例]「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〈古今・賀・359〉
[訳]「珍しい声ではないのに、ほととぎすは、長い年月の間(私はよく)聞き飽きないものだなあ」

古語辞典比較~前書・後書(3)旺文社古語辞典/中型新版~旺文社全訳古語辞典/第三版

❄旺文社古語辞典/中型新版(守随憲治・今泉忠義監修、鳥居正博編集責任、1965年2月初版1965年3月重版、旺文社)

【監修者のことば】
 古典を原文で読むことはもちろん容易でない。しかし、困難な古語を克服して読む古典は時代を越えてわれわれの共感を呼ぶ。時の試練にたえぬいてきた古典の力づよさ、それはときに人間の心を正す鑑ともなり、情をいやすいこいの場ともなり、あすへ向かう人間の精神的糧ともなる。古語を学ぶことは古人の心にじかにふれる道であり、古典の精神を読みとる要件である。
 古典を通じてひとりでも多くの人に古の心に触れてもらいたい。━━そうした願いから古典を学び、鑑賞するうえに真に役立つ古語辞典として五年前に「旺文社古語辞典」(小型版)が世に出され、私どもも校閲の責任と労苦と、さらには喜びを共にしたのであった。幸い高校では「古典」学習の必携辞典として使われ予想以上に多数の活用を受けた。その間、古典の研究もむろん一所にとどまっていようはずもない。今まで正しいとされてきたことが否定されたり、幾多の新しい事実の解明もあった。当初から古語辞典の校閲に携わってきた私どもはそれに無関心ではいられない。そのつど、編集部に連絡することを怠らず、また内容・形式に関して気づいた点や読者からの批判なども随時メモして、最も理想的な「古語辞典」のあり方を頭に描きつづけてきた。
 このたび中型新版刊行に当たり、監修の任を再び求められたので、ここに日ごろの考えをすべて結集して、学習者が本当に満足することのできる古語辞典を作ろうと努力してきた。まず、なによりも古典を愛し古典を学ぼうとする人達の立場にたって、いよいよ正確にいよいよわかりやすくなるよう常に念頭におき、現在の学界の成果もじゅうぶんに取り入れた。すなわち、型を中型化して内容の収容力を全面的に高めるとともに、助詞・助動詞を含めた重要語の徹底した詳解に入念な配慮を加え、語感欄によって古語の微妙なニュアンスまでも説明するなど、随所に創意工夫を凝らし、真に学習に活用することのできる新しい辞書編纂の労を惜しまなかった。さらに有職故実を中心として学習・教育ならびに鑑賞上意義のある参考資料をできうる限り大幅に増補し、古典の背景をも広く学ぶことができるよう考慮した。
 いまこの新しい辞典の誕生をみることは、たとえようもない喜びと感慨にたえない。この辞典が高校生諸君をはじめ、大学生にも一般人にも広く利用されて、古典学習や研究の良き伴侶となることを祈ってやまない。
 なお、企画の作成から、資料の準備、文献出典の調査にいたるまで監修者の陰になって日夜奮闘せられた編集部の方々の労を多とするとともに、執筆の面で御協力いただいた学友諸氏に深甚の謝意を表する次第である。
昭和三十九年 初冬
守随憲治
今泉忠義

【刊行にあたり】
 ルネサンスの目標となり原動力となったものは古典であり、古典に驚異と感激とをもって人間性の真実と自由を発見した。長い年月と歴史の批判に堪えてきた古典には無類の人間的な暖かみがあり、調和と安定があってわれわれに安らぎと生きる力を与えてくれる。幸いにわが国も万葉・源氏・古今を初め、他国に誇り得る幾多のすぐれた古典に恵まれている。わが古典に宿る知性や情趣にふれて自己をゆたかにし、現代に生きる知恵を学びとることこそ古典を生かす道であろう。
 私は五年前、多年の宿願を果たして、日本古典の道しるべとして「旺文社古語辞典」を世に出した。中心的指導者として守随・今泉両博士の全面的な御指導のもとに多数のベテラン執筆陣の献身的な御協力によって、当時としては幾多の新機軸を打ち出し、辞典界に新風を吹き込んだ。しかし、何事も永久に完全であることはあり得ない。初版発刊以来、数年の間における国語・国文学界の進歩は著しく、加えて高校新指導要領による古典重視の傾向などを考え合わせるとようやく不備が目につくようになった。そこで思いきって改訂にふみきり、高い活用性と学習性を色こく打ちだし、古典学習を能率化する辞典として新時代の要望に応ずべく、次の諸点に新たな配慮を加えた。すなわち、学界の成果に応じ字音かなづかいの改正、語源・語史の指示、語義の修正等を十分にとり入れ、用例を新採厳選すること、および古語学習の要である助詞・助動詞ほか基本古語には重点主義による徹底的詳説を加えることなどを根本方針とし、他方においては後述のように編集面にいくつかの新機軸を出し、学習者の立場を考えて細心の配慮を加え、また型を中型化して紙面にゆとりをもたせ、盛るべきことを十分に盛ってここに「旺文社古語辞典(中型新版)」として刊行する運びとなったのである。
 次に、この辞典の特長とする主要な点をあげてみよう。
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一、教科書や主要古典から広汎に語句約四万一千語を収録し、重要見出し語には星標指示をした。
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高校・大学における古典学習に十分な約四万一千語を採録したが、古典の学習研究や入試対策上特に重要な語約五千を選び、古語辞典としては初めての二段階の星標指示を行ない、能率学習に直結せしめた。また特に重要語、漢熟語の語根には現代かなづかいにもとづく見出し語を掲げて検索の便をはかり、さらに読めない語も引けるように、巻末には総画引き漢字難音訓表を付して、検出をいっそう容易にするよう工夫した。
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一、見出しには、地名・人名・作品名・作中人名のほか和歌・俳句などを積極的に収録して、古語辞典に立体的な活用性を与えた。
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一般古語のほかに国文学史上における人名・地名・作品名・作品中の登場人名などの固有名詞約三千五百余、さらに、高校教科書および過去の大学入試に二度以上出題された和歌・俳句・狂歌・川柳など約一千二百も見出しとして取り上げ、これに全釈を施すなど、古典学習に万全の利便を考慮した。
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一、語義解説は簡潔・正確・平易を期したことはもちろん、活用度の高い重要語には徹底的詳説を施し、辞典の学習性を高めた。
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解説は最近の学界の成果を十分にとり入れ、適確で平易をモットーとし、特に助詞・助動詞・補助動詞・敬語動詞、その他の重要な基本古語には、あくまで「重点主義」を貫き、詳細で相当突込んだ語釈を施すとともに、必要に応じて語法欄を創設して学校文法に即した実際的文法解説を添え、語感欄を新設して語義理解の一助とし、さらに補説欄や参考欄を充実させて補足説明および語義比較、関連事項の解説その他の有用参考記事を掲げるなど、あらゆる角度から検討を加え語義理解の徹底をはかった。
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一、用例は適切で典型的なものを厳選して新採し、同意語・対語も示して、語いの理解や対照に便ならしめた。
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語義分類に応じて、教科書・有名古典から適切な用例を厳選し、助詞・助動詞その他の重要語には一語義につき二つ以上の用例を挿入し、実際の用例を示す一方、典拠は詳記して原典照合の便も計り、やや難解と思われる用例には注釈も添え、同意語・対語なども随所に指示するなど、対照理解の指針とした。
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一、豊富なさし絵と図鑑により、視覚的・有機的解説を目指し、また俳句学習上の手引きも完備させた。
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本文中六百五十個以上に及ぶさし絵と二十頁にわたる付録の参考図鑑、巻頭には六色刷りで襲(かさね)や鎧(よろい)の縅(おどし)、古典にあらわれる色や絵巻物、また写真版による古写本や行事・風俗などの参考資料により、視覚的・総合的学習を完璧ならしめたほか、季題となる語にはすべて季を示し、季語集を付録に添えて歳時記の役も果たせるなど、俳句学習にも配慮を怠らなかった。
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一、古語・古典の学習に際して、必要で欠くことのできない実用記事を積極的に採りいれ、これを付録に掲げた。
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一八五頁にわたる多大のスペースをさいて、古語・古典理解の道しるべとなる「古語解釈の要領」「歴史的かなづかい一覧」などを掲げ、巻末には「国語・国文法用語解説」「主要文法事項」「主要文飾語句」「古典の背景」「季語集」「有職故実参考図」「総画引き漢字難音訓表」、その他の有益な付録を設け、古語・古典理解に必須の基礎的、背景的知識の習得にそなえた。
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 以上に特長をしるしたが、最後に監修者として立案から校正に至る長い期間適確な後指導と御労苦を賜った守随・今泉両博士をはじめ、秋山茂・阿辻見知子・渥美かをる・乙葉弘・金田弘・黒瀬崇・小林元江・佐合和子・笹岡洋一・三条西公正・竹松宏章・寺田泰政・中山崇・原道生・平賀幸五郎・待井新一・村上保夫・森昇一・矢島房利・山極圭司の各先生(五十音順)、および貴重な資料を提供下さった長谷章久先生に心からの謝意を表したい。
一九六四年 初冬
旺文社社長 赤尾好夫


❄旺文社古語辞典/新版(松村明今泉忠義・守随憲治・山口明穂・和田利政編、1960年2月初版、1981年10月新版1982年重版、旺文社)

【編者のことば】
 ここ数年来、一般社会人の間で古典を学ぼうとする人たちの数がふえているようである。わが国には、「万葉集」「源氏物語」など民族の文化遺産ともいうべき多くの古典がある。時の試練にたえぬいてきたそれらのすぐれた文学にじかに接したいと願うのは、私たち日本人にとって、きわめて自然な感情であり、古典に親しむ人々の層が厚くなることはまことに喜ばしいことといわねばならない。
 ところで、古典を原文で読むことは容易ではない。現代人は、ある意味で古語に対して外国語と同様の隔たりを感じる。古典を読むためにはそれ相応の修練が必要である。そして、古典とのことばの隔たりをとり除くための手引き書として古語辞典は不可欠である。学校教育ではいうに及ばず、生涯教育が叫ばれる今日、正確でわかりやすい、学習者の立場に立った古語辞典の必要性はますます増大している。
 古典を学ぶために真に役だつ辞典をめざして「旺文社古語辞典」をはじめて世に出してから、もう二十余年になる。私共はその間、学生をはじめ多くの読者が古語辞典に求めるものは何かを探り、教育の現場や多くの読者諸氏からの助言に絶えず耳をかたむけ、考え得るあらゆる配慮を加えてきた。一方、学問上の研究成果を積極的にとり入れ、資料を整備し、いく度もの改訂を通じて、心をこめてこの辞典を磨き上げてきたつもりである。
 本辞典は、幸いにして学生諸君をはじめ広い層から絶大な評価を頂き愛用されてきた。これまで頂いてきた広範の読者諸氏のご支持に対し、心から感謝し、厚くお礼を申し上げる次第である。
 さて、過去四度にわたる改訂で、内容の充実をはかってきたが、今回、さらに全面改訂を行うことにより、本辞典のすみずみまで、検討、改善を加え、学問的により正確に、学習者により親切に、わかりやすくする努力を結集させた。創刊以来の特色にさらに磨きをかけて出すわけであるが、「旺文社古語辞典〈新版〉」が、これまで以上に高校生、大学生、また古典を学ぶ一般社会人の皆さんに受け入れられ、利用されることを願って止まない。
 このたびの新版編集に当たっては、新たに山口明穂氏と和田利政氏の参加を得た。両氏の献身的なご尽力に対し厚くお礼を申し上げるとともに、執筆にご協力をいただいた学友諸氏ならびに、私共を督励してくれた編集部の方々に深甚の謝意を表したい。
一九八一年 初秋
編者

【刊行にあたり】
 旺文社古語辞典を初めて刊行したのは一九六〇年のことである。今までの約二十一年間に四回の改訂を経、今回が五度目の全面改訂ということになる。ほぼ四年間に一度の割の改訂回数で、これは類書中最多であろうと思う。それには二つの理由がある。年ごとに見るべきものの多い国語国文学関係の研究成果をいち早く適切に反映させようとしたことがまずその一つ。もう一つは、創意・工夫のあくなき追求・取り入れである。時代とともに利用者の望むところも変わるから、それに応じた諸々の要素を盛り込む必要がある。この積極的な編集態度が幅広い方々の賛同を得、長年にわたって多数の愛用者に迎えられた最大の因ではなかろうかと考える。まことにありがたいことで、辞典を編集・出版する者にとって、これにすぎる喜びはない。
 さて、今回の改訂で最も力を入れた点は次の四つである。㈠、最新の研究成果を適切に踏まえて学問的な正確さを期したこと。㈡、活用本位の充実した内容と学習直結の行きとどいた解説を徹底させたこと。㈢、初めて古語辞典を手にする方々の身になって考え、引きやすさ・見やすさ・わかりやすさを十分に勘案したこと。㈣、とかく古典敬遠に傾きかねない現代の高校生の心を古典の世界へ誘い入れるべく、随所に興味深い参考学習記事を挿入したこと。以上の四点をさらに具体的に述べると、左記のとおりである。
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一、上代奈良時代)から近世(江戸時代)までの古典の中から語句四万三千を見出し語として採録し、重要語には星印をつけて示した。
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高校・大学での古典の学習や研究に十分役立つよう、有名古典を中心に、基本古語から難解な語句までを幅広く収めた。また、見出し語全部を学習上の重要度に基づき、大活字使用と星印とによって三段階に分けて標示し、重点学習が能率的になされるよう工夫した。なお、現代かなづかいによる見出しをも多く掲げて、歴史的かなづかいに不慣れな場合でも楽に引けるよう配慮した。
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一、古典にかかわりの深い地名・人名・作品名や、著名な和歌・俳句なども積極的に見出しに収録して解説した。
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一般古語のほかに、古典に出る人名・地名・作品名などの固有名詞約二千余を採録して解説し、また、教科書・大学入試問題によく出る和歌・俳句・狂歌・川柳ほぼ一千三百を全釈・補注つきで収めた。なお、見出し語で俳句の季語となるものにはその季を明示して俳句学習の一助とした。
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一、語義解説は的確・平明をむねとする一方、語の組成・語感を示し、重要語には関連事項の解説や掘り下げた詳説を付した。
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訳語や説明文では学問的な正しさとわかりやすさを第一義に考えた。また、ことばの成り立ちや構成を「組成」欄で、その語本来の意味・ニュアンスを「語感」欄で明らかにし、「参考」欄で語義の補足説明や関連事項の説明を行った。今回新たに設けた枠囲み記事の「学習」では、古文解釈上まちがえやすいところやわかりにくい点、覚えていると学習に便利なことなどを記した。
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一、文法に関する項目は特に目立たせて詳細な解説を施し、語の歴史的変遷にも言及した。
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文法上の解説は一般の教科書に載るいわゆる学校文法にのっとった。「接続」「語法」「語史」欄では、その語の接続関係や文法機能、時代による語の移り変わりを詳述した。形式の上では、今回、主要な助詞・助動詞を特別の大活字で目立たせ、さらに上部に飾りけいをつけた。助動詞には活用表を組み入れた。敬語にも十分なスペースを割いて詳しく説明した。
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一、用例には、語義の理解を助け、深める、適切でわかりやすい短文・短句を精選し、難しい部分には注釈や補足を添えた。
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見出し語の用例は、語義の区分に応じて、教科書・有名古典を軸に適切な例文を採用した。助詞・助動詞やその他の最重要語には、一語義に二つ以上の用例を掲げて、実際の用法がよくわかるよう配慮した。また、難解な用例には補説・部分訳を加え、引用箇所だけでは意味のとりにくいものには適宜語句を補足して文意をつかみやすくした。出典はつとめて詳しく示し、原典照合の便を図った。なお、今回、用例中の和歌・俳句が見出しとしても採録されている場合は、例えば、(歌意は987ページ)のように記し、理解の深化と関連学習に意を払った。
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一、本文中の挿絵や付録の図鑑、カラー版の口絵等を豊富に掲げた。
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視覚による理解を重視し、本文中に挿絵六百八十個、付録に二十五ページにわたる参考図鑑を収めた。また、カラーでなければ表すことのできない「古典にあらわれる色」「襲の色目」「鎧の縅」や絵巻類を口絵に、「旧国名地図」「万葉大和地図」「京都・伏見付近図」を見返しに掲げた。
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一、古典学習全般にかかわる実用記事や各種の表を付録に網羅し、別冊「古典学習の手引き」(四十八ページ)を特別付録とした。
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巻頭に「歴史的かなづかい一覧」、巻末に「国語・国文法用語解説」「主要文法事項一覧」「古典の背景」「国文学史年表(付、時代別文学概観)」「画引き 古典難読語一覧」「和歌・俳句索引(付、歌謡・狂歌・川柳・百人一首)」、その他の有益な内容を充実させた。今回新たにつけた特別付録「古語学習の手引き」は、初心者のための古語辞典入門書であり、また、古語・古文の効果的能率的学習法をコンパクトにまとめたものでもある。
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 おわりに、新版の刊行にあたり、立案から校正までの長い期間、熱心なご指導とご労苦を賜った編者の先生方に心から謝意を表したい。また、執筆・校正に多大のご協力をいただいた方々を左に記して、厚くお礼を申し上げる次第である。

 青木一男・荒木雅実・安西廸夫・飯塚幸司・伊原昭・岩下裕一・宇田零雨・大野邦男・加藤裕一・川口祥子・河鰭実英・小泉淳子・幸村武・小久保崇明・三条西公正・島田耕治・瀬戸由美子・平館英子・千葉豊・坪内正紀・寺田純子・中野沙恵・花輪茂道・細川修・堀川昇・待井新一・松下進・森昇一・森澄夫・山崎一穎・山下富雄・吉野辰男(敬称略、五十音順)

なお、この辞典の編者である今泉忠義先生が先年お亡くなりになった。初版以来、先生には絶大なご尽力を賜ってきた。あらためて深く感謝するとともに、心からご冥福をお祈りする次第である。
旺文社社長 赤尾好夫


❄旺文社古語辞典/第九版(松村明・山口明穂・和田利政編、1960年2月初版2001年10月九版、旺文社)

【編者のことば】
 二十一世紀を迎え、本辞典も新たな第九版を刊行することとなった。本書がこのように版をくり返すことができたのは、多くの読者という支えがあったからであり、本書を編集した者として感謝の念を強くすると共に、大きな喜びを感じている。本書はこれまでの版において、既に高い段階にまで達した内容を持っていた。にもかかわらず、ここで版を新たにするのは、ここ数年の学問の進歩はめざましく、従来、見えていなかった事が見えてきたことなどがあり、それを取り込む必要に迫られたからである。新たな学問的発見によって、古典の読み方は今まで以上に正確なものとなった。それは、古典を読む楽しさを今まで以上に大きなものとしたということである。本書を活用し、古典を読む楽しさを味わう人が更に増えるならば、編者としてこれに優る喜びはない。
 古典は我々の心の故郷である。我々よりも前の時代の人たちが何を、どのように考えたか、それを知る手がかりが古典にあるといってよい。最近の社会では新しい文物を求め、古典とは無縁な生活をおくることが多い。確かに、古典を読んだからといって、生活が便利になるということはない。新しい物を手に入れ、便利で経済的にも富んだ生活は楽しい。しかし、それだけに満足していくならば、物質的な豊かさは手に入ったとしても、心の豊かさは欠け、真の意味での豊かな生活とはほど遠いものになると言わざるを得ない。古典を楽しみ、その上に立って人とのふれ合いを楽しむ、そういうことがあって、初めて楽しく豊かな生活を享受できたというべきである。古典を楽しもう。そして、生活を豊かなものとしよう。
 古典の中の言葉は、今の我々にとって、別の言語かと思えるほどに日常の言葉とかけ離れつつあり、さながら外国語と思えるという意見さえしばしば耳にする。そのかけ離れた距離を埋める手がかりが古語辞典にある。今回の改訂により、本書は、これまで以上に読者の希望にこたえられる内容を備えたと確信する。
 古典の中の言葉を自分たちの身近なものとする。それによって、何気なく使っている日常の言葉の中に、これまで気付かなかった深い意味のあることに気付くこともあるであろう。その経験を積み重ねることで日本語に対する理解も深まる。そして、毎日の言語生活は一層内容の濃い、味わいのあるものとなり、充実した毎日となるはずである。古語を知り、古典を楽しみ、正活を豊かなものとしたい。
 既に以前より、我々と海外各地の人たちとの交流が盛んになっている。その際、我々が自分自身を理解し、自己を確立することが最も重要なこととして求められる。その一助となるのが古典であることを考え、その点からも古典を読むことを続けたい。本書は古典理解に大いに役立つ書となるに違いない。
 ここで第九版の刊行にあたり、執筆・校正等に多大のお骨折りをいただいた方々を左に掲げ、心からの感謝を申し上げる。

秋元誠・安達雅夫・新井一夫・飯塚幸司・五十嵐一郎・池田匠・石井正己・伊東昭彦・伊東達矢・岩下裕一・岩田秀行・大野一志・大野邦男・小田勝・小野利長・金子一彦・熊谷春樹・佐多芳彦・佐藤雅通・鮫島満・澤邊侃・高熊哲也・高橋正幸・瀧康秀・多比羅拓・土淵知之・冨岡豊英・中野沙恵・長尾直茂・永由徳夫・西井邦紀・長谷川康子・花部英雄・春田裕之・堀川昇・丸山哲哉・宮崎弘一・村上秀夫・森澄夫・若林孝輔(敬称略、五十音順)

平成十三年初秋
編者



❄旺文社高校基礎古語辞典/第二版(古田東朔監修、旺文社編集部編、1987年10月初版1997年2版、旺文社)

【はじめに】
 『枕草子』に「八つ、九つ、十ばかりなどの男児(をのこご)の、声はをさなげにてふみ読みたる、いとうつくし」とありますが、この「うつくし」を「美しい」と訳してはまちがいです。作者清少納言は「いかにもかわいらしい」の意味で使っているのです。このように昔と今とで意味の異なることばがあります。古文を学ぶときは、そうしたことばを理解する必要があります。同じく大切なのが文法です。例えば、「花咲きなむ」とあれば「花が咲いてしまうだろう。マタハ、花がきっと咲くだろう」、「花咲かなむ」とあれば「花が咲いてほしい」と訳し分けることになりますが、そうした力を養うことも肝要です。さらに欠かせないのが古典に関する一般常識です。『枕草子』に「方違へに行きたるに、あるじせぬ所(「方違え」に行ったたところ、ごちそうをしてもてなしてくれない家がおもしろくない)」と言っていますが、この部分をしっかりと理解するためには、当時の「方違へ」の慣習について知らなければなりません。
 本書は、古文学習に必要なことばと文法と一般常識が、本文の中に網羅されている辞典です。“はじめて古典を学ぶ人にもよくわかる内容にする”という点を第一義に考えて編集しましたから、初心者に使いやすいように必修知識を融合の形でまとめたわけです。この基本路線は、改訂版においても初版と同様です。
 今回の改訂では、特に教科書に即した内容の充実と見やすさを重視し、次のような特長を加えました。
 一、教科書に採られている単語・複合語・連語(古文独特の“言いまわし”を含む)、和歌(長歌)・俳句、名言などを幅広く増補した。
 ◯古語の関連学習を考慮し、「御覧じー」「ー 出づ」「ー渡る」などの基本動詞に他の語がついてできた複合動詞を新たに「学習」欄に掲げた。
 ◯教科書に頻出する長歌を新たに増補し、全訳をつけた。
 ◯古文に出てくる有名な名言を新たに用例に加え、そのことばの解説を施した。
 一、まぎれやすい語の「区別」欄を新設した。
 一、助動詞の活用・意味・接続を表組みで掲げた。
 一、係り結び・副詞の呼応のポイントを表組みで掲げた。
 一、有名古典(一六作品)の冒頭文を訳文つきで掲げた。
 一、付録の「文法のまとめ」を大幅に増補した。
 なお、この辞典の特長として好評であった「古典の常識」欄および「学習」欄は、増補したりわかりやすく整理しなおしたりして掲げました。
 この度の改訂では、新たに杉浦克己先生、肥爪周二先生にお加わりいただき、特に助動詞・助詞、敬語動詞を全面的に見ていただきました。次に、初版編集のさい執筆・校正に御尽力を頂いた先生方、今回新たに御協力を賜った先生方のお名前を記し、心から謝意を表する次第です。
 芦田川康司、東節夫、飯塚幸司、井上久美、岩佐美代子、上原信義、大木淑子、日下力、小室善弘、近藤泰弘、坂梨隆三、鈴木泰、鈴村一成、高沢健三、千葉千胤、鳥羽田重直、樋田賢二、中村一基、中村悟郎、中山崇、原田貞義、福田応彦、武藤元昭、望月善次、柳沢良一、渡辺剛志(五十音順、敬称略)
 この「高校基礎古語辞典」が、初版に引き続いて皆さんに活用され、大いに学習の実を上げられますよう心から期待しております。
一九九六年 初秋
監修者



❄旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、1990年11月初版2003年10月3版2010年重版、旺文社)

【編者のことば】━━第三版の刊行にあたって━━
 日本には、一千年以上の歳月の風化に耐えて、読み継がれてきた古典があります。追体験ではあっても、自分の目で一語一語を追い、一千年以上の人生を味わうことができるとしたら、すばらしいことではありませんか。古典の学びはじめは、この一千年以上にも及ぶ人生の扉を開く瞬間だと言えましょうか。
 古典の学びはじめに、引きやすく、わかりやすく、覚えやすい古語辞典がほしい━━。こんな切実な声に応じて『旺文社全訳古語辞典』が生まれたのは、一九九〇年十一月のことであります。引きやすさ、わかりやすさ、覚えやすさに徹した、私どものさまざまな工夫が認められ、幸い、驚くほど多くの方々にご利用いただくことができました。たいそうありがたいことであります。
 初版の刊行以来、直ちに改訂の作業に着手しました。一語一語を吟味して筆を加え、補うべき語を新たに執筆しました。一九九六年十月刊行の第二版は、収録語数が二二、〇〇〇語になりました。
 今回の改訂では、次のことに意を用いました。見やすさを重視し、より引きやすく、よりわかりやすく、より覚えやすい古語辞典にすることをめざしたものであります。
 第一に、全編にわたって見出し語の一語一語を吟味して筆を加えただけでなく、差し替えが適切な語は差し替え、第二版刊行後の教科書・大学入試問題調査等に基づいて選び出された語などを補いました。その結果、新たに五〇〇語が加わり、収録語数が二二、五〇〇語になりました。また、形容詞・形容動詞については全活用形を{ }に示しました。
 第二に、カラー口絵を全面改稿し、色・服装・武具・地図・古典文学の展開など二一項目を巻頭にまとめました。
 第三に、語義パネル・意味用法ガイド・類語パネル・図解学習・発展などの囲みを設けました。
 今回の改訂の執筆にあたっては、青木俊明・伊東昭彦・大野一志・佐多芳彦・瀧康秀・多比羅拓・丸山哲哉・吉村逸正の諸先生のお力をお借りしました。お名前を記して、御礼申し上げます。
 初版以来お力尽くしをいただき、第二版に向けての改訂作業の半ばに急逝なさった桜井満先生に代わり、石井正己小田勝の両先生を編者にお迎えしました。
 末尾ながら、この辞書のために、惜しみなくお力をお貸しくださった諸先生、困難な編集作業に校正にとがんばってくれた辞書編集部の皆さんに心より御礼申しあげる次第であります。

 この『旺文社全訳古語辞典 第三版』が古典を学ぶ多くの方々に活用され、豊かな古典の扉を開く助けとなることを願っております。

 二〇〇三年 初秋
宮腰賢

[初版・第二版 校閲] 近田孝雄 野本寛一 林田孝和
[図版作成] 石垣栄蔵 神谷一郎 松原巖樹 さくら工芸社
[デザイン] 山下智子 吉田正子(中デザイン)   (敬称略 五十音別)
                                                                         

古語辞典比較~前書・後書(2)角川古語辞典/改訂版~角川全訳古語辞典

❄角川古語辞典/改訂版(編集:武田祐吉久松潜一・佐藤謙三・三木孝・橋本研一、1958年3月初版1963年1月改訂初版、角川書店

【改訂にあたって】
 古典は日本人の心のふるさとであり、古語はそのふるさとをたずねる道しるべである。敗戦後、その衝撃による虚脱と、相次いで行なわれた国語・国字の改革に伴う国語の混乱という事態から、古典に対する関心が、一般から失われ去ったかのようなひとときがあった。「角川古語辞典」が企画されたのは、まさにそのころのことである。その目的は、遠ざかりつつある心のふるさとを、できるだけ身近なところに引きもどすための古典読解の足場を築くことにあった。正確でわかりよい解説を目ざし、著名な古典から適切な用例をあげるよう努力したのはそのためである。なかでも有職故実をはじめ動植物その他について、本文や付録にさし絵を入れて、現代人の理解に遠いことがらを簡便に理解できるようにしたが、これはこの種の小型辞典としては画期的な試みであった。昭和三十三年初版刊行以来、世に好評をもって迎えられ、多くの版を重ねえたのは、これらの努力と創意にあずかること大きかったものと思う。
 それから四年、ここに改訂版を送り出す運びとなった。この間の国語、国文学界の発展とその成果はめざましいものがある。すぐれたテキスト・注釈書・索引の類が続々と刊行され、研究の面で従来不明におおわれていたものが多く明らかにされた。一方、辞典を一度編集して客観的に見ると、意外に必要な語彙や解説のもれていることを発見した。私どもは刊行以来、常に学界の動向をうかがい、辞典の内容を検討して、着々と改訂の準備を押し進めてきた。この改訂版で、従来このような小型辞典では不可能とされた四万一千語の収録に成功し、その全体にわたり適切な解釈を加ええたことを喜びとする。他に内容の面で俳諧季語に留意してみた。季語が古くより日本人の美意識を代表して、文芸に独特の地位を占めてきたものである以上、辞典としておろそかにしえないのは当然のことである。
 旧版「古語辞典」の刊行の直後、武田祐吉博士の突然の逝去に遭遇した。武田博士はこの辞典の改訂になみなみならぬ熱意を示されて、みずから朱筆を加えて完璧を期せられていたが、初版を送り出して大方の批判を聞かれることなく幽明境を異にされた。博士の遺労を尊重して改訂の事業に従ってきた編者にとって、改訂版の刊行は感無量である。博士の御霊前にその成功を報告し、冥福を祈るばかりである。
 改訂にあたり、旧版に寄せられた多くの人々の御助言に感謝し、今後ますます御指導をたまわり、いっそう完全な辞典とすることを期したい。
 また、この改訂事業には学界・教育界の多くの方々の御協力を得たが、特に編集から刊行まで、千勝重次・吉川泰雄・松井栄一・田中新一・杉崎一雄荻久保泰幸・室伏信助の諸君の終始変わらぬ援助あったことを付記し、感謝の意を表する。
昭和三十七年十一月
編者

❄角川新版古語辞典(久松潜一・佐藤謙三・山田俊雄・吉川泰雄・室伏信助・鷺只雄・秋葉直樹・小林祥次郎・岡崎正継編、1972年12月、角川書店

【編者のことば】
 わたくしどもが、「角川古語辞典」(初版)を刊行したのは、昭和三十三年一月のことであった。その後、昭和三十八年、その改訂版を公にして今日に至ったが、いま「角川古語辞典」の新版を世に送り出すにあたり、長い間、この辞典を支持し、愛用して下さった方々に心から感謝する次第である。
 さて、現在では、「古語辞典」は古典学習に欠かすことのできない伴侶である。辞典のよしあしが、古典理解の深浅にかかわるところが大きいとすれば、編者の側の責任は重大である。
 「新版角川古語辞典」の編集にあたり、特に留意したのは次のような点である。まず第一に解説の面で、いっそう正確な語義記述を目ざし、最新の研究成果を平易な用語で十分に盛り込むように心がけた。また、同時に用語例についても、より適切なものを紙面の許すかぎり、豊富にとり入れることに努力した。次に付録の面では、いっそう機能的なものを目ざし、古典読解の実際にはば広く適応できるものを数多く収録するよう心がけた。
 「新版角川古語辞典」が、古典と現代という時代の差をのりこえる道しるべとしての役割を果たすことができれば編者としてこの上ないよろこびである。
 最後に、この辞典の編集から刊行までには、数多くの人々の献身的な御協力をいただいた。初版以来改訂版まで、この新版の基礎固めに御尽力下さった方々に謝意を表すると同時に、新版編集の内部にあって執筆・校閲につとめられた人々を左に記して感謝の微意を表したい。
 さらにまた、改訂版までの編者であられた武田祐吉博士の御霊前にこのたびの壮挙を報告し、心から御冥福をお祈りする次第である。
昭和四十七年十一月
編者

■執筆編集協力者■
青木幹雄・浅原恒男・有川章子・飯島正裕・石井徳子・石坂昌圀・遠藤和夫・柏原司郎・川崎千鶴・貴志正造・北沢瑞史・小林吉一・小松淑子・小室善弘・佐々木巧一・佐々木久彦・須見明代・妹能孝昌・高橋六二・武市真弘・武田友宏・田尻嘉信・只腰宏子・靏岡昭夫・中島繁夫・中野猛・中村幸弘・西田絢子・藤木久志・藤本憲信・松島英明・松本寧至・村田代子・森田兼吉・山崎孝雄・湯沢質幸・吉沢中正・和気照子・渡辺政司
(五十音順 敬称略)



❄角川最新古語辞典/増補版(佐藤謙三・山田俊雄・室伏信助・小林祥次郎・青木幹雄・吉沢中正・藤本憲信・武田友宏編、1975年1月初版1980年1月増補版、角川書店

【編者のことば】
 ここに『最新古語辞典』を、あらたに世に送り出すにあたって、編者の側から一言述べて、この一冊の成り立ちを明らかにしておきます。
 日本語で書かれた文学はそれこそおびただしい数に上ります。それをすべて読み切ってしまうなどということは、生涯をかけても、なかなかできることではありません。教室で読み習う古文の時間にいくら熱心に身を入れてみても、中学三年間、高校三年間を合わせた年月のすべてを打ち込んで勉強しても、とても及ぶものではありません。しかし、その後の長い年月を含めて生涯の折々に、そして思い立った時々に、どんな場所ででも、もし楽に読むことができる力さえあったら、世の中に生きてゆく人間として、文学とのかかわりを保つことができてどんなに豊かな人生を過ごすことになるか、それはここであらためて言うまでもなかろうと思います。
 春の旅の宿で「万葉集」をひもといて古き大らかな抒情を味わう、時には秋の海辺で「徒然草」の人生への鋭い風刺をかえりみるというような風流を願う日が、今の若い人々の上にもやがてはきっと訪れるに違いありません。
 この辞典は、その日のための長いアプローチをととのえるものでありますが、さしあたっては、まだうらわかい人々が、過去の日本語でつくられた魅惑の世界を少しでも体験できるようにとの、ひそかな願いによって作られたものであります。
 日本人にとっての日本文学は、現代のも古代のも、いずれも同じ日本語という共通の記号によって作り出された作品であります。古い日本語は、現代の日本人のことばと同じ日本語であって、そこから不死鳥のようにたえず新しい生命を喚びもどして、日本の心が発展してゆくこよなき財産であります。古典がその生命を現代に保つのは、その古典を形づくる古いことばの生命の躍動を知る現代の心があるからにほかならないのです。
 文学は過去をふり返るよすがであると同時に、現代を生きてゆく尊い糧であります。また考える葦としての人間の、おのずから帰り着く家でもあります。もし、その文学が近づきがたいものになったら、おそらくその時人間はわびしさの極みに行き着いてしまうことでしょう。そこに帰るために必要なことといえば、それは現代のことば、古代のことばを問わず、自分のはぐくまれた社会のことばによく通じること、ただそれだけであります。
 この辞典は、むかしいまのことばの不思議なからくりを身につけてゆくための第一歩を若い人々に示して長く助言を続けようという、ひかえめな望みによって作られたものなのです。
 こうしてことばのあやなす文学の世界は、すぐ隣にまた広い別の世界をも持っています。日本人の精神のすぐれた営みがどんなものであったか、日本人の生活の実況はどんなものであったか、その他さまざまの歴史の世界が、文学の世界を大きく包みながら展開してきているということに、思いをいたしてほしいと思います。歴史を知るにも、古いことばを通してこそ確実なことがわかるということを。文字という痕跡を借りて、躍動する証言者として古いことばを十分に働かせてみるとき、初めて過去の日本の姿が明らかになってゆくということを。
 古典は古文・古語という、美しく犯しがたい装いにつつまれて、静かに人々の前に立ちつくしています。そのために近づきがたいと思わせるものがあります。しかし、その美しいたたずまいを支えていることばの成り立ちに、また犯しがたい装いのうちにこめられた精神に、じかにせまることができたら、その冷ややかにさえ見える端正な姿にもかかわらず、古典は一転して、きわめて身近にその魅力のすべてをあらわにすることになります。
 この辞典は、みずから求めて古典をわがものとし、心の豊かさを身につけようとする人々のために、古文・古語のいかめしさを少しでもやわらげることができるように、さまざまの工夫をこらしてあります。
 若い人々が読む著名な作品のすべてについて、必ず助言を与えようと準備してあります。文法にかかわること、また紛れやすい語の識別にかかわること、どれから先に身につけてゆくべきかということなどに気を配ってあるばかりではありません。用例について現代語訳の一例を添えてみるところまで手を尽くしてみました。
 ことばは、情報を運ぶものの中で、やはりもっともすぐれたものというべきですが、編者は古文・古語についての重要な情報を、必要にして十分なだけ若い人々に届けることができたと思っています。それは古語と同じ日本語である現代語によって。この辞典では、すべて現代のわかりやすいことばによって解決が与えられます。そして、ことばを知る人が、日本をよく知ることになるのであります。
昭和四十九年十月三十一日
佐藤謙三
山田俊雄

 なお、次に編者とともに編集の中心となって協同された人々の名と分担区分とを掲げます。また、さらに後に列挙した方々から多くの援助を得たことを記しまして、深い感謝の意を表すものであります。
 原稿校閲・基本語執筆=室伏信助 基本語・固有名詞執筆=小林祥次郎 助詞、助動詞執筆・敬語校閲青木幹雄 敬語執筆・助詞、助動詞校閲=吉沢中正 原稿校閲・基本語執筆=武田友宏 基本語・一般語執筆=藤本憲信
〔編集協力者〕(五十音順・敬称略)
赤坂映治・有川章子・犬飼隆・大畑とき子・岡崎和夫・岡嵩・川手真実・木村はるか・久保昭雄・小松淑子・竹内頼夫・谷脇理史・靏岡昭夫・西田絢子・野沢勝夫・村尾元忠・百瀬渡・森田兼吉・山崎孝雄・山本昌弘・湯沢質幸・吉原英夫・渡辺政司



❄角川必携古語辞典(山田俊雄・吉川泰雄・室伏信助・小林祥次郎・吉澤中正・武田友宏編、1988年11月、角川書店

【編集にあたって】
⦿ことばには二面の働きがあります。一つには、自分でそれを使って語り、書き、述べるという、伝達と創造とを主にする働きです。もう一つは、他の人が語り、書き、述べたことを、理解し継承することを主にする働きです。
⦿また、ことばは、人間の思うこと、考えることと密接な関係があって、順を追ってはっきり考えることが、ことばを整えることになり、逆に、ことばを精確に読み、使うことによって考えが明快になるものです。
⦿古文を学び、古語に親しむという、若い人々の勉強は、正しく右に述べたような、理解と継承とに、もっぱら努めることであります。人間の思想や感情は、科学のもたらす大きな進歩や革新とともに微妙に変化してゆくものですが、変化しない、恒常的な部分も多くあります。古文を正しく読解したとき、この変わらぬ思考や感情を見出すことが多くあります。
⦿つまり、兼好が言っているように、「見ぬ世の人を友とする」ことの喜び、共感共鳴できるものに出合う楽しさが至る所に生まれてきます。人生の糧としての金言や名言を拾うことができるばかりでなく、物語や詩歌の中に展開するドラマを共有し、感じ、考えることは、古文を学ぶ楽しみの大きなものです。また、古語の一つ一つがその中にもっている雰囲気を味わうことは、現代の日本語を再生する力ともなります。

⦿この辞典は、初めて本格的に古文を学ぼうとする人たちを対象に編集したものです。したがって、基本語・基本事項を中心にしましたが、それぞれについて、深く掘り下げるとともに、広く関連領域に目配りしてありますので、既習者にとっては知識を整理する上で、よきアドバイザーとなるはずです。わたくしどもが、編集にあたって最も心をくだいたことは、どうすれば、読者が自分自身で知識に命を吹きこむことができるような辞典をつくれるか、ということです。そのために、時代の感覚や読者の環境などを充分に顧慮しました。
⦿第一に、視覚を重視しました。現在、われわれの情報の八〇%以上が、視覚によって獲得されると言われています。そこで、ハンディ版の辞典としては他に類を見ないほど、カラー口絵・カラーページを増加しました。特に、本書独自の試みとして、古典文学という建物の構造が一目でとらえることができるように、絵巻を用いて物語・説話……の部屋を設けました。なお、本文も、必要事項を探しやすいように二色刷りにしてあります。
⦿第二に、コラム欄を大幅に増やしました。ことばに関するもの、文法に関するもの、作品の背景に関するもの、の三種に分け、あいまいでわからない点、入りくんでわからない点、ぜひ知りたい事柄などを、やさしく丁寧に解説しました。ここには、一目でわかる表覧や楽しい読み物ふうの記事を盛り込んであります。
⦿第三に、重要語は、精細でしかも明確な解説を施しました。用例は重要古典から採り、例文からその場面を心に描くことができるように、平易明快な訳文を付けました。
⦿第四に、人名・書名などの固有名詞や文芸用語・文法用語などを、本文中に見出し語として立てました。漢字表記にしましたので、検索しやすくなっています。
⦿第五に、付録は実用性に富んだものにしました。単なる付録ではなく、独立して活用できるように、本文に匹敵する内容を備えています。

⦿これまで述べてきたように、本書は、辞典というよりもむしろ古典小百科にふさわしい内容をもっています。どのページをめくっても、古典の世界に誘う魅力の香が漂うよう、丹精をこめて編集しました。読者の皆さんから、幾久しく、古典をひもとく伴侶として、愛されることを祈念してやみません。
⦿最後に、この辞典の執筆・校閲にご尽力をいただいた左記の方々に、心から感謝の意を表します。

植田恭代・大軒史子・木越秀子・小池清治・坂本修一・佐竹久仁子・鈴木重寿・鈴木泰則・保坂博子・松下則之・渡辺政司
口絵監修=高田倭男 口絵=須貝稔 〈敬称略〉
一九八八年九月
編者



❄角川全訳古語辞典(編者:久保田淳・室伏信助、編集委員沖森卓也鉄野昌弘・保坂博子・室城秀之、2002年10月初版、角川書店

【この辞典のねらい】
 この辞典は高等学校の古文学習に役立つように、無駄な言葉を省き、必要なことは懇切に説明するということを常に念頭において編纂されました。
 古典は受験や成績のために勉強するものではありません。難しそうな古文の後ろにある、我々の文化遺産の宝庫を楽しみ、次の世代へ文化を継承するという役割をもった科目です。しかし、実際問題としては、まず目の前にある古文を読みこなすことができなければ楽しめるわけもありません。
 実際の授業、教科書に採られた教材、大学入試へ出題される古典作品は、そう多岐にわたるものではありません。平安朝の古典を中心にした、各時代・各ジャンルの「主要出典」の占める割合が著しく高く、また、これらの古典を勉強することで、自然にほかの古典も読めるようになってくるものです。
 特殊な言葉が入学試験に出題される場合には、必ず、その語に注がついているように、特殊なことは必ずしも覚える必要はありません。大切なことを確実に押さえておくことこそ、高校生の勉強にとって重要なことです。
 いたずらに語数の多い辞典を使って神経を擦り減らすよりも、必要なことばかりを要点を絞って親切に解説した辞典で勉強するほうが効率よく勉強できるでしょう。
 この辞典は、「引いたことで得をする」ということを目指しています。宿題だから、予習が必要だから、しかたなく引く辞典ではありません。
 この辞典を引いたことで、教科書の古典に書かれた文章がいきいきと立ちあがり、「やはり引いて良かった」という思いを皆さんにもってもらえるならば、こんなに嬉しいことはありません。

【古典の面白さ━━散文から━━】 室伏信助
 『竹取物語』の中で、かぐや姫は、八月十五夜、いよいよ地上の恩愛を断って月世界に昇天するとき、帝に手紙を書き置く。かぐや姫は帝の求婚を退けて月世界へ戻っていくのである(原文・訳は拙著、角川ソフィア文庫『新版竹取物語』による)。

 かくあまたの人を賜ひて留めさせ給へど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。①宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、②かくわづらはしき身に侍れば、心得ず思しめされつらめども、④心強く承らずなりにしこと。なめげなる者に思しめし留められぬるなむ、心にとまり侍りぬる。
(このように大勢の人をお遣わしくださって、わたしを引き留めなさいますけれど、とどまることを許さない迎えがやってまいりまして、わたしを捕えて連れて行ってしまいますので、残念で悲しいことでございます。①宮仕えをいたさぬままになってしまったのも、②このように厄介な身でございますので、③納得できないとお思いあそばされたでしょうけれども、④強情に仰せに従わずじまいになってしまったのです。無礼な者だとお心にとどめあそばされたことが、とても心残りでございます。)

 右の文中、「宮仕へ……」から「……なりし〈ママ〉こと」まで、句読点の打ち方が主な注釈書をみるとまちまちである。「①、②。③、④。」(岩波書店日本古典文学大系)「①、②。③。④、」(小学館・日本古典文学全集)「①、②。③、④心強く、承らずなりにしこと。」(新潮日本古典集成)、「①、②、③、④。」(角川ソフィア文庫)と四通りあり、内容の理解にも微妙な差異が生じる。試みに前記の文庫の訳文を使えば、

「①宮仕えをいたさぬままになってしまったのも、②このように厄介な身だからでございます。③納得できないとお思いあそばされたでしょうけれども、④強情に仰せに従わずじまいになってしまったのです。」

「①宮仕えをいたさぬままになってしまったのも、②このように厄介な身だからでございます。③納得できないとお思いあそばされたでしょう。④強情に仰せに従わずじまいになってしまいました。」

「①宮仕えをいたさぬままになってしまったのも、②このように厄介な身だからでございます。③納得できないとお思いあそばされたでしょうけれども、④強情で、仰せに従わずじまいになってしまいました。」

のように理解されていることになる。

 古典にはもともとは句読点がついていないのであるから、倒叙や挿入句を交錯させた表現をどう見るかについては、各自で考えてみる楽しみがある。
 この手紙の文面は、ことさら、取り乱したふうには見えないが、文脈が不思議に乱れて、この世で受けたさまざまな恩愛を断ち切って月世界へ帰る折の心の乱れが、途切れ途切れの文章を放置して一文脈に取り押さえられない動態として描かれている。と見ることもできる。『竹取物語』には解釈を含めた表現の理解に、読者の積極的な参加を期待する意図も感じられるのである。
 『竹取物語』の文章は、もとが漢文表記ではなかったかという説もあるくらい、主語述語の関係が整い、簡明で理解しやすい一面をもつ。しかし、この手紙の文章などは、決して簡明とは言えないだろう。でもこの簡明でない文章が、心の乱れを表現するかけがえのないすがただとしたら、その機微を精妙にことばに託す手だてとして、漢文表記ではない一字一音式の仮名表記がここに選ばれた必然を理解することができるのである。
 古文を読む楽しさは、その豊かな日本語の表現に秘められている。

【古典詩歌の勧め】 久保田淳

 よくみれば薺(なづな)花さく垣ねかな  芭蕉

 なずなは春の七草の一つである。冬を越したその葉を正月七日、七草がゆにして食べる。春、すみれやたんぽぽが咲くころになると、なずなも白いこまかな花を咲かせる。菜の花の仲間だから、花びらは四枚だ。しかし、とても小さいから、よほど注意しないと気づかない。芭蕉は垣根をのぞきこんで、その下に咲いているこの小さな花を見つめている。芭蕉の目は小さな存在を見過ごさず、そこにも備わる美しさを見いだす目である。

 あかあかやあかあかあかやあかあかやあかあかあかやあかあかや月

 「あかあかや」とは、明るいなあという驚きのことばだ。「明るい」という形容詞を昔は「あかし」といった。この歌は「明るいなあ、明るいなあ」という感嘆の声をくりかえして、月の明るさを讃えているのである。月はきっと満月であろう。
 この歌の作者は明恵上人である。平安時代の末に生れて鎌倉時代の初め、日本の歴史の激動期を生きた。その間源平動乱や承久の乱などの内戦があったが、彼はひたすら信仰に励んだ。修行の合間に歌を詠んでいる。
 それらは身のまわりの自然に対して有情な存在に対すると同じような態度で接したものが多い。おそらくこの歌でも、明恵は夜空にくまなく満ち満ちているまどかな月の光に、仏の慈悲の光を感じているのであろう。すなおな心で自然と向かいあう時、自然は思いがけない神秘な顔を見せてくれる。

 うつそみの人なる我や明日よりは二上山をいろせと我(あ)が見む

 「うつそみ」は「うつせみ」と同じで、この世の人という意味、「いろせ」とは母親が同じ兄弟のことをいうことばである。「この世の人であるわたしは、明日からは、弟の葬られた二上山を弟として見るのだろうか」。
 この歌は突如弟を失った姉の悲しみの歌である。弟というのは天武天皇の皇子である大津皇子、歌の作者である姉は大伯皇女(おおくのひめみこ)という。
 大津皇子は謀反を企てたとされて命を断たれ、二上山に葬られた。死に際して、

 ももづたふ磐余(いはれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

と詠んだと伝えられる。あるいは皇子の死を悼んだ人々が歌ったものかもしれない。
 この皇子は山の中で恋人の石川郎女(いらつめ)を待って、

 あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに

とも歌っている。堂々とした体格で、文才もあった。人望も高かったという。
 二上山は頂が二つに分かれている。変った形の山で、大和平野のあちこちからよく見える。美しい山だ。
 これらの歌を収めている『万葉集』をひもとくと、古代の人々の愛や悲しみ、そしてまた喜びがいきいきと伝わってくる。
 いろいろな花が咲く。さまざまな鳥が囀る。日本の自然は美しい。古(いにしえ)の歌人俳人は三十一文字や十七文字という短いことばでその美しさを的確に表現してきた。それらの和歌や俳句を読むことによって、わたくしたちは改めて自然の美しさに気付かされ、自然の中で生きることの有難さを知るであろう。
 いろいろな人がいる。一人として同じ人はいない。しかしまた、だれしもが他を愛し、また愛されることを願い、喜びを求め、愛する者の死を悲しむ。そのような人の心は、昔から今まで変ることはない。そのことも昔の人々の残した和歌や歌謡などを読むことによって、確かめられ、納得されるのである。そしてそういう経験は励ましとなり、慰めとなって、わたくしたちに生きる力を与えるであろう。
 古典を読むこと、それは自然の不思議さを知ること、人間の心を知ること、そして人間として生きることを意味するのである。
 古典の詩歌を読もう。

古語辞典比較~前書・後書(1)參考古語辭典/學生版・明解古語辞典/初版~新明解古語辞典/第三版

私が所持する各古語辞典の前書・後書等を比較してみる。


❄參考古語辭典/學生版(松下大三郎監修、江波熈編著、1940年2月、中文舘書店)

【緖言】
 現今、中等學校上級に於て、教授者の立場から、適當なものとして薦め得る國語辭典があらうか。國語教科書に載せられてゐる多種多様に亘る教材に對しては、現代語・各時代語・方言・俗語・佛語・外來語等、凡そあらゆる辭典の内容を網羅したゞけのものでなければならない。而もこの要求を滿すものは、現存二三の大國語辭典であるが、勿論數十金の負擔は、專門の者に非ざるかぎり能うところではなく、假に求め得たとしても、充分活用することは困難である。英語教科書に出る單語數が五六千を出でず、從つて簡單な一冊の英和辭典があれば譯解にさして不便を感ぜぬ狀態に比して、學習の困難は當然である。こゝにも中等學校に於ける國語教育不振の原因が存すると考へられる。然しこの實情をあるがまゝに放置することは、學習者に對して極めて不親切であるばかりでなく、國語教育界の恥辱でなくて何であらう。
 さて翻つて考へて見るに、現在、漢和辭典は多數手頃のものが出てをり、國語辭典にしても、現代語・外來語・佛語・俗語等ならば小規模のもので間に合はう。が、生徒として最も飽足らないのは、各時代語の採錄不足、語義解説の不充分な點である。元來、中等學校の上級に於ては、近古以降の作品が可成多數教科書に収載せられてをり、又、上級學校の入學試驗問題としても、最も多く提出せられるのであるが、豫習、自習用としての辭書めいたものは未だ世に出てゐない。爲に教授者としても頗る不便であり、生徒も闇夜に手探りで歩行するやうなもので、終には古典そのものを毛嫌ひするに至るであらう。こゝに稚いながら本書の生れた意義が存するのである。
 其名は辭典と言ふものゝ、單に語彙を索引して其意義を知るに便するだけでなく、進んで其語を含んだ例文を引いて解釋し、國分解釋の參考書をも兼ねる様にした。この書を活用することによつて、國語に對する興味を喚起し、國語教育の上に幾分でも稗益するところがあれば幸である。

著書識



❄明解古語辞典/初版(金田一京助監修、金田一春彦編修主任、石垣謙二・大野晋・永野賢編修協力、吉沢典男編修幹事、1953年4月、三省堂

【序】
 古典の言葉を漏れなく載せた、簡明な手ごろの辞典が計画されたのは、戦争の終った直後のことだった。
 はじめ、三省堂の平井四郎氏から相談があって、適当な人を推薦するようにと言われ、だれがよいかと二三の人を物色中、たまたま春彦が横合から私にやらせてみてください、と申し出たので、どうかと危ぶんだが、とにかく任せることにした。辞典の編修は、何の辞典でも骨の折れる仕事であるが、特に、古語辞典に至って至難がきわまる。幸にして新進の少壮学徒、故石垣謙二氏・大野晋氏・永野賢氏の熱心な協力、中村通夫氏・松尾拾氏・島田勇雄氏・斎藤正氏の有力な後援を得、さい先よいスタートを切った。
 各位は、それぞれ専門的な言葉について、未発表の新研究を、惜しみ無く、会議に持ち寄って討議した。その編修会議の楽しかったことは、同席の私も時のたつことを覚えず、夜がふけて初めて驚き散ずるほどだったので、今に忘れかねるところである。
 今や祖国は敗戦のきずようやくいえて、新生日本への出発をせんとしている。古典の手引は、いつの代にも必要だが、今の世ほど必要とする時も少ない。しかも、漢字制限と、新かなづかいの断行で、青少年がいよいよ古典に遠ざかると嘆かれる時である。
 本辞典はすなわち、あらゆる古典に見える単語・熟語を、古典にあらわれて来るそのままの形で捕らえ、これを解き明かすに、現代感覚、現代表現で、懇切に、わかりやすく説いたつもりであるから、大学の勉強に、一般教養に、はた、かじを失った魂に祖国の伝統を取り返し、平和の光のうちに新たな力を養うために、どうか本辞典の役立つように祈る。これが、今回本辞典の世に送られる最大の目的である。
 私は本辞典の編修には、編修会議に議長格として出席し、全部の原稿に目を通して心付いた語を補ったに過ぎず、実際の仕事は春彦に当らせたが、永野賢氏・吉沢典男氏がその両腕となって補佐してくれたことを銘記しておきたい。また、この辞典の成るについては原稿の作成に前記の諸氏、原稿の整備に桐原徳重氏・築島裕氏・佐藤謙三氏・芦沢節氏・寺田泰政氏・片山貞美氏など、資料の採録に都竹通年雄氏・平尾美都子氏・今川梅子氏など、また、この種の仕事で最もめんどうとされる形式の整頓、辞句の校正、附録の作成等には、編修所のかたがたの心のこもった助力のあったことを逸してはならない。なお、手のいる時には、東大・早大・国大・実践および、お茶の水女子大出身その他の、直接・間接に知る若いかたたちの援助もあった。
 ここに大方の恩義を叙して、深厚の謝意を表するものである。
昭和二十八年三月三日
金田一京助 

❄明解古語辞典/改訂版(金田一京助監修、金田一春彦編修主任、石垣謙二・大野晋・永野賢編修協力、吉沢典男編修幹事、1958年4月、三省堂

【改訂にあたって】
 先に「明解古語辞典」を世に問うたところ、予想外の反響があって、広く御愛顧いただいたことは、編者として大変光栄なことだった。しかし何分にも時間に追われて作ったものゆえ、思わぬ過ちもあり、多くの読者各位から適切きわまる御指摘・御批正をいただいたことは、まことに感謝・恐縮にたえない。特に、初版の折に御協力下さった各位ならびに、青島徹氏・稲垣正幸氏・辻村敏樹氏・寿岳章子氏・宮地敦子氏・川上蓁氏・田島光平氏から多くの御指示を得たが、中でも、青島氏からは、平安朝以前の語彙に関する用例に関して、全巻に亘って目を通して不備を補正していただき、ありがたかった。
 ここに、それらの御教示にもとづき、組版その他の事情の許す限りにおいて、字句の訂正を試み、御好意に報いることにした。編者としては気がかりだった個所は一応解決し得たつもりであるがいかがであろうか。
 この辞典を一層完備したものにするために、今後とも、厳正な御批判をお待ち申し上げる。
昭和三十三年三月三日
編者

❄新明解古語辞典/第二版(監修:金田一京助、編者代表:金田一春彦、編修参与:石川徹、編修委員:辻村敏樹・永野賢・西宮一民・秋永一枝、編修事務:三省堂編修所、1972年12月初版1977年12月第二版、三省堂

【序】
 姉辞書『明解国語辞典』が装を新たにして『新明解国語辞典』として脚光を浴びたのに従い、妹辞書『明解古語辞典』も『新明解古語辞典』としてお目見えすることを、産みの親として嬉しくまたおもはゆく思う。
 『明解古語辞典』がこの世に呱々の声を挙げたのは昭和二十八年で、その後、行き届かなかったところを三十七年に改訂して『明解古語辞典 新版』の名で世に送った。今度の版は、生を受けてから二十年、まことに娘盛りになったわが子を送り出す母親の心境である。長いことひいきにして御愛用くださった方々にその成長ぶりを見ていただきたいとともに、ここに至る間にたえず有益な御忠言・親身の御叱正をくださった各位に厚く御礼申し上げる。
 この辞書はもともと専門の学者を相手としたものではなかった。古典を勉強する高校以上の学生諸君や、古典に親しもうとする一般社会人の方々に、利用・活用していただくための辞書として誕生した。今度はその個性を一層はっきり打ち出してみた。用例を広く高校以上の古典の教科書から集めたこと、また名歌・名句と言われる作品は、その全体の解釈をもそえたこと、語釈は今まで以上に現代向きに、平易にと改めたことなど、それである。もちろん、学界での研究の進展とともに新しい解釈・訓み方が定説となったもの、用例にあげた本文が訂正されたものは、すべて取り入れる労を厭わなかった。
 今度の全面改定に当たっては、平安朝の語彙については、その方面の第一人者、石川徹氏に重要語はすべて改めて稿を起こしていただいたことを特記する。また、上代語は、新たに委員として西宮一民氏の参加を得たのは幸せだった。辻村敏樹・永野賢・秋永一枝三氏の協力は従前どおりである。なお、基本的な語彙については、特に高校古典教育に詳しい堀内武雄氏をわずらわして適切な表現に改めた。また、めんどうな幹事の役は、今度は新進気鋭の関谷浩君が寝食を忘れてつとめてくれた。ここに感謝の意を表する。
 最後に、辞書がいよ\/出来上がるに当たり、三省堂の方々のお世話になることが大きかったことを銘記しておきたい。ことに、この前の『新版』の時もこの辞書を担当され、辞書作りにかけてはベテランである倉島節尚氏がその経験をフルに生かして辞書の出来上がりに尽力してくださったことは、永く忘れまい。
 巻頭に掲げた見事な色刷りの口絵は、その語句の理解に絶好のものと思うが、編修に関係された多くの方々の苦心の配慮になるもので、私にとっては、成人式に臨む娘のお祝いに豪華な晴着を贈られたような思いがする。
昭和四十七年十二月
編者代表 金田一春彦

【あとがき】
 古語辞典などというものは、毎日のように発生する新語・流行語を追って採録する現代語の辞典とはちがい、一度作れば、二十年でも三十年でも使用に堪えられそうなものである。それが、この辞典は、昭和二十八年に旧版を出してから、ほぼ十年目の昭和三十七年に『新版』を出し、今度また十年目でこの『新明解版』を世に送ることになった。
 この前の改訂の時は旧版の不備が目立ったからだった。今度また版を改めるのは、それよりも、学界の研究の進歩についていこうということである。また、このところ、高校教科書の類にとられる古典教材が大体安定したように見える、そこでそれに合うようにという配慮もあった。『新版』をお買いくださった方に申し訳ない気持もするが、お許しいただきたい。

 今度の版の成るについては、原稿執筆に関しては、序文に名をあげた、石川徹・辻村敏樹・永野賢・西宮一民・秋永一枝・堀内武雄の諸氏のほか、稲垣正幸・新井智・神保五弥・内山美樹子・雲英末雄・谷脇理史・五味充子・木藤久代・都竹通年雄・
中島繁夫および平野健次の諸氏のお世話になった。ここに謝意を表する。
 巻頭に掲げた見事な口絵については、五味充子氏の丹念きわまりない考証に基づき、川上成夫アートディレクター、与志田章二イラストレーターの尽力によって出来上がったもので、これは有難かった。「付図1・2 襲の色目」は社団法人日本流行色協会刊「日本伝統色」を参考にさせていただいた。また、大東急記念文庫および築島裕氏からは得がたい資料の提供を受けた。

ところでこの新明解版の編修の出発は、実は、ちょっとまごついた。全共闘学生による大学騒動の矢先に、私の両腕にも等しい辻村・永野両委員が勤め先の大学で文学部長や学生部長の任をふりあてられ、そちらに手を取られてしまった。か細い女性の秋永一枝氏まで、学園封鎖の折りは、助教授であるという名目から駆り出されて、夜の警備に当たったというから無茶苦茶な話だった。そうして、幹事をつとめてくれるはずの若い人材が見つけにくかったことも出航を遅らせた。
 この時、国学院大学国文科出身の関谷浩君の出現は、この仕事のために天から降った神の使者に接した思いがあった。かれは大学を卒業したばかりという若年であったが、寝食の時間をもつめて、執筆依頼、原稿の整備、用例・出典の検討から校正というめんどうな仕事を全部引き受けてくれた。私は彼を知り、これならば新明解編修の仕事は成功するという自信を得、改訂の出発に踏み切った。平野多恵子・関谷三佐子・神崎洋子の諸君も、よくその仕事を助けて、和気あい\/のうちに、辞典の完成に尽力してくれた。本書の刊行を前にして、これらの方々に深い感謝をささげる。

 が、この新明解版の完成には、もう一つ大きくお蔭を蒙った向きがある。出版社である三省堂の編修部で、倉島節尚氏という優秀な編集者が、この新明解の担当責任者になってくれたことである。
 かれは、この辞典に愛情を注ぐこと私たち著者と変わらず、ひたすら原稿の辞句の推敲・参照項目の呼応整備に心を労し、ために、会社の帰りはいつも夜の八時、九時に及んだ。同じこの辞典を担当していた持田孝男氏はいつ見ても笑顔をたたえながら黙々とかれと同じように仕事に精出しておられた。あとで聞くと、この辞典の最終段階には、倉島氏のグループの全員が、休日も返上してその完成に協力してくださったという。また、こういう型の辞典では、組版が非常に複雑でよほどの熟練を要するが、製版関係者の皆さんの努力により、著者の希望通リに実現してくださった。しかも四校・五校に亘る書き込み・訂正を許された。
 これらの隠れた各位にも慎んで御礼申し上げる。

 私はこの新明解版を世に送るに当たり、一つの本を作るのには、著者側と出版社側との協力ということがいかに大切なものであるかということをつく\゛/思う。「和を以て貴しと為す」とは千古の名言である。
 こんなことはい読者各位は、想像のほかであろうが、著者と出版社との関係は、その本その本により、百様百態である。中には、著者と出版社とが意見の衝突の連続で、互いに争いあい、憎みあいながら、それでもその敵意が精力の根源になって完成させるものもある。中には出版社側がすべて著者に任せ、文句をつけない代りにまことに機械的でそっけなく、出来上がっても、著者と出版社とが別々に喜ぶという場合もある。
 こういう中にあって、著者と出版社とが完全に気持を一致させ、その出来上がりまでを共に苦しみ、共に喜ぶという例は、実は暁の星のように少ない。

 この明解古語辞典は、この前の版の時は、幹事の秋永一枝氏の超人的な働きがあって出来上がったが、会社側にもう少し理解があったらという感が深かった。
 それに引き換え、今度の新明解は、会社側が著者側と完全に一体となって作ったもので、著者側はその持っている実力をフルに発揮することができた。多年編修の仕事に関係してきた私としては、理想に近い状態で出来た数少ない仕事の一つとして、いつまでも懐しく思い起こすことであろう。先日仕事が終ったことを祝って、ささやかな集まりを開いたが、倉島氏の手を握ったとき目がしらが覚えず熱くなった。それは、決して、そろ\/老境に入るもののセンチメンタリズムによるものではない。
 このような編修の状況は、かならずやこの辞典の出来上がりに反映しているに違いない。ぱらぱらと見られて、前の版とあまり変わっていないじゃないか、とつぶやかれる方があるかもしれないが、二度・三度お使いいただくうちに、隅々まで思いがけない細かい配慮のあることを知って、なるほどと思っていただけることを信じてやまない。
四七・一二・一〇
春彦生記

【第二版序】
 新明解版を世に送ってから五年、教育界・学界の進歩に応じて、この辞書も多少の改訂を施さざるを得なくなった。今回の改訂は、本文では、基本語の解説の整備、重要語彙の指示、参考事項の注記などが主で、付録では「枕詞一覧」「掛け詞一覧」の新設、「用例出典一覧」「古典文法事項一覧」の充実が主なものであるが、全般に亘り、新しい学説の尊重すべきものを大幅に取り入れた。意のあるところを汲まれ、活用していただくことをお願いする。今度の改訂に当たっては、辻村・西宮・秋永の三委員のお力にすがることが大きく、また幹事を設けることをしなかったので、その分三省堂編修所の倉島節尚氏に労力奉仕を強いた。ここに慎んで感謝の意を表する。
昭和五二年一〇月一日
編者代表 金田一春彦

【第二版付記】
 今度の版が出るにあたり、辻村委員を助けて力のあった桑山俊彦氏、用例出典一覧の充実に御助力いただいた井上宗雄・谷脇理史の両氏、三省堂で倉島氏に成りかわってこの辞書関係の雑務を処理された加賀山悟氏の名をあげて、感謝の意を表明する。
五二・一〇・一
春彦生記

❄新明解古語辞典/第三版(監修:金田一京助、編者代表:金田一春彦、編修参与:石川徹、編修委員:辻村敏樹・永野賢・西宮一民・秋永一枝、編修協力:桑山俊彦、編修事務:三省堂編修所、1995年1月第三版2001年1月12刷)

【第三版序】
 『新明解古語辞典』が世にお目見えしてから、はや二十年。社会情勢も大きく変わり、辞典の内容も改めなければいけなくなった。
 何より学界の進歩である。従来の語彙の解釈があやまりとなって、訂正しなければならなくなったものも多く、文法的説明のし方の変わったものが多い。これらはすべてこの版で訂正して掲げることにした。
 時世の変化でことに著しいものは、古典の文章が一般の人、ことに高校生諸君にとって縁の遠いものになったことである。衣食住の生活が変わり、機械文明が進歩した今日は、私ども老人の知らないような言葉を若い諸君はたくさん使っている。マルチメディア、グローバル、デジタル何とか、ドコサヘキサエン酸、等々。これでは、昔の言葉「小春日」「五月やみ」「日だまり」「村雨」「野分」「しののめ」「花野」「尾花」「帰雁」などという言葉は忘れ去られてもしかたがない。
 また、文語体そのものが今の若い人たちには外国語のように響いているようだ。「夏は来ぬ」や「いかにいます父母」のような言い方は、自分らの言葉とは受け取られないだろう。そういうわけで何より、歴史的仮名遣いというものがうとましく、「蝶(ちょう)」とか「葵(あおい)」とかいう言葉を古語辞典で探し出すことは大変であろう。
 それを思い、まず古典語の基本的な単語に親しんでいただくために、重要語の解説の形に工夫をこらし、その内容も一層の充実をはかった。助詞・助動詞については、重要なものには大きな活用表を掲げたり、どのような語や活用形に接続するかということを、特別に欄を設けて詳細に述べるようにした。また、古典語が現代仮名遣いから、容易にひけるようにしたつもりであるがどうであろうか。和歌や歌謡、また俳句は別に初句の五十音順にまとめて、本文の「あ」の部、「い」の部…のはじめに掲載して全訳を添えたのも、古典に親しんでいただきたいという念願からである。
 私は今までこの辞典の改訂に当たっては、原稿の作成をしていたが、今回は全面的に桑山俊彦氏に中心になって差配していただいた。
 最後に、今回の改訂に当たり執筆をはじめ、さまざまな御協力をいただいた方々のお名前をあげ、深甚の謝意を表する。

執筆・編修協力者(敬称略、五十音順)
《本文執筆》
川岸敬子・桑山俊彦・小林千草・染谷裕子・森野崇・若林俊英・鷲山茂雄
《「名歌名句全釈」執筆》
井實充史・市村栄理・宇都宮譲・梅原章太郎・纓片真王・小野恭靖・兼築信行・気多恵子・高松寿夫・玉川満・中田大成・人見恭司・満田達夫・安田吉人・吉井美弥子
《編修補助》
市川次郎・伊藤好英・木村義之・笹原宏之・高松正毅
《図版》
(考証)五味充子・藤本正行(作成)伊藤礼子・南波忠雄・信定孝郎・安田鏡子

平成六年十二月
編者代表 金田一春彦

【第三版付記】
 新明解古語辞典は三省堂側の人としてこれまで倉島節尚氏が専ら面倒を見て下さっていたが、今回ははじめて加賀山悟氏の担当となった。彼は寝食を忘れて何から何までお世話をして下さったので、同氏の家の方には足を向けて寝られない思いがする。
平成六年十二月
春彦生記