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古語辞典比較~①かみなづき(神な月)

Amazonで購入した「全訳古語例解辞典/第三版」(北原保雄編、小学館)が今日届いて古語辞典が5冊になったので、5冊の記述を比べてみた。

まずは『かみなづき(神な月)』の比較。



❂時代別国語大辞典上代編(上代語辞典編集委員会〈代表・澤瀉久孝〉編、1969年12月初版1刷、三省堂
    
◎かむなづき〈キは乙類〉[十月](名)十月。冬の始めの月。しぐれの季節である。あるいはカミナヅキともいわれたものか。「十月(かむなづき)しぐれにあへるもみち葉の吹かば散りなむ風のまにまに」(万葉1590)「十月(かむなづき)雨間もおかずふりにせば誰が里のまにやどか借らまし」(万葉3214)
【考】神=ナ=月としてナを古い連体格助詞とみる説が普通である。十月に神を祭る習俗が古代朝鮮にあり、また秋の収穫の後に行われるカガヒ(嬥歌会)などとも関連させて、十月に神を祭る風習があったとするのである。



❂岩波古語辞典/初版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月初版1刷、岩波書店

◎かみなづき【神無月】陰暦十月の称。中世の俗説に、十月は諸国の神神が出雲大社に集まって不在となるからという。「━━しぐれしぐれて」〈古今1002〉。
◎かむなづき【神無月】《もと「神の月」の意か。ナは連体助詞であったが、平安時代になると一般に使われなくなったので、無シのナと思われ、「神無月」の俗説を生じたか》陰暦十月の称。「━━しぐれに逢へる黄葉(もみぢば)の」〈万葉1590〉⇒かみなづき kamunadukï
◎かんなづき【神無月】⇒かむなづき。「今日よりや色葉散りぬる━━」〈俳・正章千句下〉



❂例解古語辞典/第二版(佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編著、1985年1月2版1刷、三省堂

◎かみ-な-づき【神無月・十月】〈名〉陰暦十月の称。「かむなづき」「かんなづき」。
[用例]「君がさす(=枕詞)三笠の山のもみぢ葉の色、━━時雨の雨の染めるなりけり」〔古今1010・雑体・旋頭歌・貫之〕[解]「染める」の「る」は助動詞。しみこんでいる、の意。和歌の世界では、時雨が木や草を紅葉させるという発想が定型となっていた。
[要説]「な」はもと上代の格助詞。「神の月」の意かという。この「な」を「無し」と誤解し、諸国の神がみが出雲大社に参集して、諸国に神がいなくなる月という俗説が生まれ、一方、近世以後、特に出雲では「神あり月」とも呼ぶようになった。
◎かむ-な-づき【神無月・十月】〈名〉「かみなづき」に同じ。
◎かん-な-づき【神無月・十月】〈名〉「かみなづき」に同じ。



❂全訳古語例解辞典/第三版(北原保雄編、1998年1月3版1刷、小学館

◎かみな-づき【神無月・十月】〔名〕(「かむなづき」「かんなづき」とも)陰暦十月の称。
[参考]「な」は上代の格助詞で、今の「の」に相当し、「神の月」の意からかという。また、新酒を醸(か)み成す月とする説もある。「な」を「無」と解し、出雲に全国の神が集まり、各地を留守にするからとする俗説は、平安時代末から生じた。なお、近世以後、出雲地方では十月を「神あり月」とも呼ぶようになった。
◎かむなづき⇒かみなづき
◎かんなづき⇒かみなづき



❂旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、2003年10月3版、旺文社)

◎かみな-づき【神無月・十月】(名)「かむなづき」「かんなづき」とも。陰暦十月の称。
[発展]【「かみなづき」の起源】
「かみなづき」の「な」は「の」の意の上代の格助詞で「神の月」の意、また、新穀で酒を醸す月「醸成(かもな)し月」の意など、諸説がある。俗説に、神々がこの月に出雲大社に集まり、各地に神がいなくなるので、この称があるという。一方、出雲(島根県)では、「神有月(かみありづき)」と呼ぶ。
◎かむな-づき【神無月・十月】(名)「かみなづき」に同じ。
◎かんな-づき【神無月・十月】(名)「かみなづき」に同じ。



❄★語源の説明では小学館全訳例解と旺文社全訳に「醸み成し」語源説が取り上げられているが、「醸む」は四段活用で、四段活用の連用形の「醸み」のミは甲類だが「神」のミは乙類なので上代音が合致しない。その点に触れていないのは残念。
★時代別国語大辞典上代編だけが古代朝鮮の風習について触れているのは注目。
★俗説の生まれた時期については岩波古語辞典と小学館全訳例解だけが正確に書いている。
★「な」について時代別国語大辞典上代編は連体格助詞、岩波古語辞典は連体助詞、三省堂例解・小学館全訳例解・旺文社全訳は格助詞としている。
これは学校文法では格助詞の連体格とされているが、橋本文法では学校文法の格助詞・係助詞・副助詞・接続助詞・終助詞・間投助詞という六分類の他に副体助詞・連体助詞・準体助詞・並立助詞の四つを別にして十分類にしており、大野晋氏はそのうち連体助詞だけを橋本文法から受け継いで七分類にしているため。
時代別国語大辞典上代編の連体格助詞はやや曖昧な表現だが格助詞連体格と同じことか。
★時代別国語大辞典上代編と岩波古語辞典は万葉集の用例を「かむなづき」と訓んでいるが、原文は「十月」で、上代においては「かみなづき」または「かみなつき」と訓むべきだろう。
★本来は「かみなづき」または「かみなつき」で、「かむなづき」「かんなづき」はいずれも kamnadukÏ あるいは kamnaduki という音の表記であり、撥音部分の表記に「む」を宛てたか「ん」を宛てたかの違いに過ぎないと思う。