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古語辞典比較~②おはす

『おはす』の各古語辞典の記述。



❂時代別国語大辞典上代編(上代語辞典編集委員会〈代表・澤瀉久孝〉編、1969年12月初版1刷、三省堂
    
◎〚項目無し〛



❂新訂詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月初版1982年10月新訂初版1985年1月新訂7版、明治書院

◎おは・す【御座す】オワス[一](自サ変)①いらっしゃる。おいでになる。存命なさる。おありになる。「あり(存在・所有)」「をり」・「行く」「来(く)」の尊敬語。「われ、朝ごと夕ごとに見る竹の中に━━するにて知りぬ」〈竹取〉「車持(くらもち)のみこ━━したり」〈竹取〉②お…になる。なさる。「おはし+動詞」で尊敬の複合動詞となる。(「おはす」が動詞の下に位置すると、[二]の①になる)「われかのさまにて━━し着きたり」〈源・夕顔〉
[二](補動サ変)①…ていらっしゃる。…ておいでになる。お…になる。動詞の連用形に付く。「かかる人も世にいで━━するものなりけり」〈源・桐壺〉②…でいらっしゃる。…の状態でいらっしゃる。形容詞・形容動詞型活用の連用形に付く。中間に助詞を介することもある。「世に知らず、さとうかしこく━━すれば」〈源・桐壺〉「左兵衛督の、中将に━━せし、語り給ひし」〈枕・二月晦日ごろに〉「すこし勇幹にあしき人にてぞ━━せし」〈大鏡・伊尹〉⦿上代の四段動詞「おほまします」が転じて、中古から「おはします」が生ずるが、ほぼ同じころ(あるいは、やや遅れて)、「おほまします」の「ます」がとれ、上部が独立し、音転して「おはす」となったもの。「おはす」の活用には、サ変説のほかに四段・下二段説があるが、綿密な用例調査の結果では、サ変説を否定する有力なものはないとされる。なお、「おはす」は「おはします」より敬意は低く、また助動詞「す」「さす」に下接する用法もない。→おほまします・おはします



❂岩波古語辞典/初版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月初版1刷、岩波書店

◎おは・し〘サ変〙《「有り」「居り」「行き」「来(き)」の尊敬語として、上代に多く使われたイマシに代って、平安時代に多く使われた語。主に皇族・貴族の動作をいう。現在の「いらっしゃる」にほぼ相当する。四段活用・下二段活用の両用あるとされていたが、平安時代の語としては、サ変の活用と見るのが正しい。しかし、平家物語などになるとオハセシ・オハセシカバなどの形が見えるようになる》①「有り」の尊敬語。「欲しきものぞ━━すらん」〈土佐二月五日〉。「〔性格ガ〕のどめたる所━━せぬ大臣にて」〈源氏・賢木〉。「内侍が腹に一人━━せし〔方〕は、後白河法皇へまゐらせ給ひて」〈平家一・吾身栄花〉②「居り」の尊敬語。「御後見し給ふべき人━━せじ」〈源氏・紅葉賀〉。「〔自分ノ〕殿に━━しても月を見つつ」〈源氏・夕霧〉。「奥によりて東向きに━━すれば」〈枕104〉。「〔二人ハ〕かたみにそばそばしからで━━せよかし」〈源氏・葵〉。「次男宗盛中納言にて━━せしが」〈平家一・鹿谷〉③「行き」の尊敬語。「この御子のおよすげもて━━する御かたち・心ばへ、有りがたく珍しきまで見え給ふ」〈源氏・桐壺〉。「人ゐて━━せ」〈和泉式部日記〉④「来(き)」の尊敬語。「ここを人にも知らせず忍びて━━せよ」〈源氏・東屋〉。「今日はかくて━━すれば」〈更級〉⑤《動詞の連用形について》……ていらっしゃる。「つくろひ━━するさま、親にはあらで」〈源氏・螢〉▷奈良時代の語、オホ(大)イマシ(坐)の約。öFöimasi⇒öFömasi⇒oFowasi⇒oFasi



❂例解古語辞典/第二版(佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編著、1985年1月2版1刷、三省堂

◎おは・す㈠【御座す】〈動サ変41〉①〘「有り」の尊敬語〙いらっしゃる。おありになる。②〘「行く」「来(く)」の尊敬語〙いらっしゃる。おいでになる。
㈡〈補助動詞サ変41〉①〘「あり」の尊敬語〙(形容詞・形容動詞・助動詞の連用形、またはそれに助詞の付いたものに付いて)……いらっしゃる。②(動詞の連用形に付いて)尊敬を表わす。お……になる。……ていらっしゃる。
[用例]㈠①(a)「我、朝ごと夕ごとに見る竹の中に━━するにて知りぬ。ことなり給ふべき人なめり」〔竹取・かぐや姫の生ひ立ち〕[解]「ことなり給ふべき」の「こ」は「子」と「籠(=カゴ)」とをかける。(b)「わ党たち(=オマエサンガタ)こそ、させる(=タイシタ)能も━━せねば」〔宇治拾遺三・六〕②「粟田殿は、露台の外(と)までわななく(=震エナガラ)━━したるに」〔大鏡道長・上〕
㈡①「聞きしにも過ぎて、尊くこそ━━しけれ」〔徒然・52段〕②「うち絶えて、内裏(うち=宮中)・東宮へも参り給はず、籠り━━して」〔源氏・賢木〕
[語形]命令形に「おはせよ」と「おはせ」があり、また、まれに未然形に「おはさ(ば)」があるから、元来は四段と下二段との二様の活用で、のちにそれらが混同し、サ変のような見かけになったらしい。近世の文語では、多く四段活用。



❂全訳古語例解辞典/第三版(北原保雄編、1998年1月3版1刷、小学館

◎おは-す【御座す】
‖相手の動作や状態を尊敬して表現する語。その動作や状態にあたる代表が、あり、居り、行く、来の四語。文脈によってどの語の尊敬語の役割をはたしているか考える必要がある。‖
㈠〔自サ変〕①〘「あり」「居り」の尊敬語〙いらっしゃる。おいでになる。おありになる。[例]「この住吉の明神は、例の神ぞかし。欲しき物ぞ━━すらむ」〈土佐・二月五日〉[訳]この住吉神社の神様は、例の(欲ばりな)神様なのですよ。(このように風を吹かせていらっしゃるのは)何か欲しい物がおありになるのでしょう。
②〘「行く」「来(く)」の尊敬語〙おいでになる。お越しになる。[例]「今出川のおほい殿、嵯峨へ━━しけるに」〈徒然草・114〉[訳]今出川の大臣殿が、嵯峨(=京都市ノ西北)にお越しになった時に。
㈡〔補動サ変〕……ておいでになる。……ていらっしゃる。[例]「中将の君の東面(ひんがしおもて)にうたたねしたるを、あゆみ━━して見給へば」〈源氏・幻〉[訳]女房の中将の君が東側の部屋でうたた寝しているのを、(光源氏が)歩いておいでになってご覧になると。
[要点]平安時代以降「ます」「まします」に代わって用いられた。「おはします」に比べて敬意が低い。四段と下二段の両様に活用したと見る説もある。近世の文語文では四段に活用することが多い。



❂旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、1990年11月初版2003年10月3版2010年重版、旺文社)

◎おは-す【御座す】(自サ変)
①「あり」の尊敬語。いらっしゃる。おありになる。〔竹取〕かぐや姫の生ひ立ち「竹の中に━━する(連体)にて知りぬ。子となり給ふべき人なめり」[訳]竹の中にいらっしゃるのでわかった。(あなたは私の)子におなりになるはずの人であるようだ。[文法]「なめり」は「なるめり」の撥音便「なんめり」の「ん」の表記されない形。
②「行く」「来(く)」の尊敬語。いらっしゃる。おでかけになる。おいでになる。〔源氏〕若紫「御供に、むつましき四五人(よたりいつたり)ばかりして、まだ暁に━━す(終止)」[訳](光源氏は)お供に、気心の知れた四、五人ほどを伴って、まだ夜明け前におでかけになる。
[参考]中古から用いられ、「おはします」に比べて、敬意が低い。
◎おは・す【御座す】(補動サ変)(活用語の連用形、あるいは連用形に助詞「て」の接続したものに付いて)尊敬の意を表す。……て(で)いらっしゃる。……て(で)おいでになる。……て(で)おありになる。お……になる。〔源氏〕帚木「『あなかま』とて、脇息(けふそく)に寄り━━す(終止)」[訳]「ああ、やかましい」と言って、ひじかけに寄りかかっていらっしゃる。〔平家〕五・福原院宣「小松の大臣殿(おほいどの)こそ、心も剛に、はかりこともすぐれて━━せ(未然)しか」[訳]小松の内大臣殿(=平重盛)は、心も剛毅で、知略もぬきんでておいでになったのに。[文法]係り結び「こそ……しか」は、強調逆接となって下に続く。
[参考]訳語としては、「お……になる」「……なさる」よりも、「……て(で)いらっしゃる」「……て(で)おいでになる」「……て(で)おありになる」があてはまる場合が多い。



三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2000年1月1刷、三省堂
◎おは・す【御座す】[自サ変][補動サ変]
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▶中古に発生した、主語を高める尊敬語。
▶「いる」「ある」「行く」「来る」の意をもつ〔㈠〕。補助動詞の用法もある〔㈡〕。
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㈠[自サ変]❶「いる」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。[例]「ただ今おのれ見棄てたてまつらば、いかで世におは・せむとすらむ」〈源氏・若紫〉[訳]たった今私が(死んでしまってあなたを)お見捨てしたら、(あなたは)どうやって世の中にいらっしゃろうとするのか。〘疑問語との呼応〙「いかで→おはせむ(体)」。〘敬語〙「見棄てたてまつらば」→「たてまつる」
❷所有の「あり」の尊敬語。おありになる。持っていらっしゃる。[例]「欲しき物ぞおは・すらむ」〈土佐〉[訳](住吉の明神は)欲しい物がおありになるのでしょうよ。〘係結び〙「ぞ→おはすらむ(体)」
❸「行く」「来(く)」の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。[例]「粟田殿は、露台の外(と)まで、わななくわななくおは・したるに」〈大鏡道長・上〉[訳]粟田殿は、露台(=紫宸殿と仁寿殿の間にある板敷き)の外まで、わななきわななきおいでになったところ。
㈡[補動サ変](動詞・形容詞の連用形や、形容動詞・形容動詞型活用語の連用形などに付いて)「……て(で)いる」「……である」の意の尊敬語。……て(で)いらっしゃる。……て(で)おいでになる。[例]「御衣(おんぞ)の袖を引きまさぐりなどしつつ、紛らはしおは・す」〈源氏・幻〉[訳]お召し物の袖を引っぱりいじりなどし続けて、(涙を)まぎらわしていらっしゃる。
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(1)「いる」「行く」「来る」といった意の尊敬語としては「おはす」のほかに「おはします」があり、「おはします」のほうが敬意は高い。→「おはします」
(2)「おはす」の命令形として、「おはせよ」に交じって少数ではあるが「おはせ」の形も見られる。このことから「おはす」の活用は完全なサ変ではなく、下二段活用と四段活用の混交と見る考えもある。
(3)㈡は、上に付く語との間に、接続助詞「て」や係助詞・副助詞・間投助詞などが入る場合がある。



❄活用について問題になる語。
「岩波古語辞典」は《サ変⇒四段・下二段》、「三省堂例解古語辞典」が《四段・下二段⇒サ変》と逆の見解を示している。
「大辭典」(大辭典編集委員会編、1936年11月発行、平凡社)では『オワス』の項目に《この語『詞の八衢』にサ變と斷定して以來、一般にかく信ぜられたるも、サ變ならば連用形に「おはせ」なる形無し。然るに「おはせ給ひしより(宇津保)」「おはせたれど(榮花)」の如く連用形に「おはせ」の形あるを以てサ變に非ず。また未然形「おはさ」となるは四段にも活用したるなり。故に四段及び下二段とするを可とす。》とある。
元になった『います(坐す)』の活用の変化も考えると、本来は四段活用(自動詞)と下二段活用(他動詞)の二つの活用を持つ語だったのが活用が混同されてやがてサ変活用に変化したのではないか。ということで、「三省堂例解古語辞典」の解説を支持したい。

補助動詞(形式動詞)については、補助動詞(形式動詞)を認めず助動詞とする考え方もある。
『おはす』についても「品詞別日本文法講座8助動詞Ⅱ」(1972年12月、明治書院)~「転化の助動詞」(林巨樹著)では助動詞として扱っている。