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助動詞『り』について④

助動詞『り』について③
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/06/07/093024




❂明解古語辞典改訂版(金田一京助監修、金田一春彦編修主任、1953年4月初版1958年3月改訂版、三省堂
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【重要助動詞活用表】
完了・過去 り 

未然 連用 終止 連体 已然 命令
ら  り  り  る  れ  れ

※連用・已然・命令は奈良~平安期。未然・終止・連体は奈良~院政・鎌倉期。

《四段活用・サ行変格動詞のエ段の音につく。上代の名詞形「らく」。》

❄敢えて已然形・命令形・未然形といった書き方をせず、エ段の音につくとしたのはなかなか考えた表現だが、高校の文法の試験では活用形で書くことを求められると思うので、高校の教師からはこういう書き方は低評価になるのだろうな。
こういう学問的にいろいろな学説が出ている問題について、ただ一つの学説だけを正しいと教え、違う回答は✕にしてしまうような教育はおかしいと私は思うが。
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 -り(助動ラ変式)㈠ある動作・作用が継続中であることを表わす。……テイル。「春霞立てるやいづこ」〔古今〕。
㈡ある動作・作用が完了して、その結果が残っていることを表わす。……テイル。「まさきのかづら跡をうづめり」〔方丈〕。
㈢動作・作用が完了したことを表わす。……タ。「酒・よき物奉れリ」〔土佐〕。
㈣(状態の発端を表わす動詞につき)ある状態にあることを表わす。……テイル。「女の性は(=女トイウモノハ、生マレツキ)みなひがめり(=ユガンデイル)」〔徒然〕
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け-り【来り】(自動ラ変)〘「来あり」の転〙来ている。「たまづさの使の━━・れば、嬉しみと」〔万〕

け-り【着り】(他動ラ変)〘「着あり」の転〙着ている。着る。「このあが━━・る妹が衣の」〔万〕

❄この辞書も「転」を使っているが、「転」の概念が曖昧なので「音韻変化」と書いた方が良いと思う。



❂基本古語辞典改訂版(小西甚一著、1966年3月初版1969年11月改訂初版、大修館書店)

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【助動詞活用表】

完了・存続 り

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ
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り (グレイドⒶ)〘助動〙(四段・サ変動詞および四段・サ変型活用の助動詞の命令形に付く)〔完了〕
❶過去に始まった行為・状態が現在なお継続中であることを表わす。……ている。
「手ごとに物ども染めたり(=染メテイル)。槽(ふね)どもに女の子どもおり立ちて、染め草洗へ[り](=洗ッテイル)」〔宇津保・吹上上・絵詞〕
「楠の木は、木立ち多かる所にも、ことに(=別ニ他ノ木ト)まじらひ立て[ら]ず(=イッショニ立ッテイナイ)」〔枕・40段〕
❷過去におこった行為の結果または影響だけが現在話点まで存続していることを表わす。……である。……た。
「女手に(=仮名デ)書きたまへ[り](=オ書キニナッテアル)」〔蜻蛉・上〕
「かしこには、今日しも宮わたりたまへ[り](=オコシニナッタ)」〔源氏・若紫〕
〘「書く」「わたる」は過去における行為だが、そのあと「筆跡として存在する」「宮がそこに身をおく」という状態が結果として現在話点まで続いている〙
❸ある行為が現在話点の直前におこったことを表わす。……た。
「ただ今なむ帰りたまへ[る](=チョウドオ帰リニナッタトコロデス)」〔蜻蛉・中〕

〘(1)従来は四段の已然形とサ変の未然形に付くとされたが、古代特殊かなづかいの研究により、ともに命令形に付くことが明らかとなった。
(2)中世以後、誤用で四段・サ変以外の動詞に付くこともあった。
「一楼の明月に雨はじめて晴れ[り]」〔謡曲・羽衣〕
(3)従来は完了の助動詞とよばれ、英文法でもPerfect Tence とよばれるので、本辞書も便宜的にその名称を用いたが、むしろ存続の助動詞というのが適切であろう。Perfect を「完了」と訳し、その「完了」という字面にひかれて、従来は「り」「たり」に動作の終わる意を認めたが、そのような用例はないと思われる。英米の文法書でも、最近 Perfect Tence に「終わる」という意味を認めていない。
(4)「り」と存続の「たり」は、共に動詞「あり」に関係して生まれたので、成立の過程に差はあるが、結局は同じ意味に用いられた。

❄サ変への接続も命令形接続であると述べた最初の辞書か。英文法との比較論などは他の辞書には無い独自の見解。
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❄ラ変動詞「来(け)り」「着(け)り」の項目は無し。



❂角川必携古語辞典(山田俊雄・吉川泰雄編、1988年11月初版、角川書店

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【助動詞活用表】
5. 四段活用の命令形(一説、已然形)、サ変の未然形に接続するもの。

完了・存続 り

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

接続:四段・サ変動詞
意味・用法:完了(タ・テシマウ)
      存続(テイル・テアル)
      ◯もともと動作・作用の完了した状態
       が続いている意。
      ◯平安時代以降は命令形の用例がな
       い。
活用の型:ラ変型

❄「平安時代以降は命令形の用例がない」と書かれているが、例解古語辞典には落窪物語の『今宵はただに臥し給へれ』が載っているし、旺文社全訳古語辞典には梁塵秘抄の用例も載っている。
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【り】助動ラ変型
〔接続〕四段動詞の命令形(または已然形)、サ変動詞の未然形に付く。
〔意味・用法〕本来、動作・作用の完了した状態が続いていることを意味する。
❶存続。
動作・作用が終わって、その結果が存在・継続している意を表す。……ている。……てある。……た。
「去年焼けて、今年作れ[り]」〔方丈記
[訳]去年焼けて、今年(新しく)作ってある。
「朝ぼらけ有り明けの月と見るまでに吉野の里に降れ[る]白雪」〔古今・冬・332 坂上是則
[訳]夜のしらじらと明けそめるころ、まるで有り明けの月の光かと思われるほどに、ここ吉野の里に降っている白雪よ。
❷継続。
動作・作用が継続・進行の状態にある意を表す。……ている。……(し)続けている。
「白珠は人に知らえず知らずともよし知らずとも我し知れ[ら]ば知らずともよし」〔万葉・6・1018〕
[訳]真珠は(その真価を)知られない。知られなくてもよい。人が知らなくても自分が知っていれば、人が知らなくてもよい。
「かの白く咲け[る]をなむ夕顔と申しはべる」〔源氏・夕顔〕
[訳]あの白く咲いているのをユウガオと申します。
❸完了。
動作・作用が終わっている意を表す。……てしまう。……た。……てしまった。
「春立ちける日、詠め[る]」〔古今・春上・詞書〕
[訳]立春になった日に詠んだ。
「御髪上(みぐしあげ)の内侍なども、やがてこなたに参れ[り]」〔源氏・梅枝〕
[訳]御髪上げ役の内侍なども、まっすぐこちらに参上した。

❄どうも、この辞書の説明では存続と完了の違いが判りにくい。

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✲「り」の成立と接続のしかた
㈠「り」の成立と語義
 「り」は四段・サ変動詞の連用形にラ変動詞「あり」が付いて変化したもの(たとえば「行きあり」→「行けり」、「しあり」→「せり」など)の、「り」の部分を取り出したものである。「たり」などとともに完了の助動詞に分類されているが、「り」は「存在・継続」の意を表すのが本義である。
㈡「り」の接続のしかた
(1)(四段動詞の命令形または已然形、サ変動詞の未然形に付く理由)㈠のように成立し、「り」の上接部分が四段動詞の命令形(または已然形)、サ変動詞の未然形と一致するため、「り」は四段動詞の命令形(または已然形)、サ変動詞の未然形に付くと説かれる。「り」の接続のしかたが他に例がないのはこのため。
(2)(上代の「り」の接続のしかた)上代には、母音の違いによって甲類・乙類のかなを使い分ける「上代特殊かなづかい」があり、四段動詞の已然形には乙類のかな、命令形には甲類のかなが用いられていた。「り」は甲類のかなに付いているので、上代では四段動詞の命令形に付くと説かれる。また、サ変動詞には命令形「せ」があったことから、上代ではサ変動詞にも命令形に付くとする説がある。
(3)(中古の「り」の接続のしかた)上代特殊かなづかいのなくなった中古では、四段動詞の已然形・命令形は同形で区別がつかない。「り」はどちらに付くともいえるが、上代を基準にして命令形に付く説に従う。一説には、命令形よりも上位に位置する已然形に付くとすべきともいう。また、サ変動詞は「せ」の形が命令形になくなったので、未然形に付くとする。
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❄ラ変動詞「来(け)り」「着(け)り」の項目は無し。



三省堂セレクト古語辞典(桑原博史・三省堂編修所編、1987年12月初版、三省堂

り(助動)
[接続]動四の命令形、動サ変の未然形につく。
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 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ
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❶(存続)……ている
[用例]
「二日。なほ大湊に泊れ[り]」〈土佐〉
[訳]
 二日。やはり大湊に泊まっている。
▶「存続」には「結果が現に存在している」意と「動作・作用が継続している」意の両方の意を含んでいる。
❷(完了)……た
[用例]
「酒、よき物たてまつれ[り]」〈土佐〉
[訳]
やおいしい食べ物を献上した。
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❄ラ変動詞「来(け)り」「着(け)り」の項目は無し。

❄収録語数5,500語の高校生向けの辞書ということで記述はこれだけ。存続と継続をまとめて一つにしているのが目につく点か。




助動詞『り』について⑤
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/06/16/094713