つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

助動詞『り』について⑤

助動詞『り』について④
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/06/10/090107




❂全訳用例古語辞典ビジュアル版第2版(金田一春彦監修、菅野雅雄・中村幸弘編、1996年12月初版2002年12月第2版、学習研究社
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完了 り

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

活用型:ラ変型
主な意味・用法:存続(テアル・テイル・タ)
        完了(タ)
接続:四段動詞の命令形(上代。中古以降は、已然
   形と見てもよい。)、サ変には未然形。
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り 助動詞・ラ変型
  〈接続〉四段動詞の命令形とサ変動詞の未然形
      に付く。
㈠〔完了〕……た。……てしまった。
竹取物語]蓬莱の玉の枝
 「くらもちの皇子(みこ)は優曇華うどんげ
 の花持ちて上り給へ[り]」
[訳]
 くらもちの皇子は優曇華の花を持って都へお上り
 になった。
㈡〔存続〕
❶……ている。……てある。▶動作・作用の結果が残っていることを表す。
伊勢物語]九
 「富士の山を見れば、五月(さつき)のつごもり
 に、雪いと白う降れ[り]」
[訳]
 富士山を見ると、五月の下旬だというのに、雪が
 とても白く降り積もっている。
❷……ている。……てある。……し続けている。▶動作・作用が現在続いていることを表す。
万葉集]4292・大伴家持
 「うらうらに照れ[る]春日(はるひ)に雲雀
 (ひばり)上がり心悲しも独りし思へば」
[訳]
 うららかに春の日の光り輝いている中を、ひばり
 が空に上がっている。このような日に一人で物思
 いにふけっていると、何とも悲しい思いになる。
【注意】
(1)助動詞「たり」と同様の意味を表すが、接続が異なる。
(2)四段・サ変の動詞の活用語尾の音が、五十音図でいうエ段の音であれば、それに接続する「ら・り・る・れ」はこの助動詞である。
【参考】
(1)助動詞「り」の成立
助動詞「り」は、上代に四段・サ変動詞の連用形に動詞「あり」が付いて融合し、音変化して成立した。たとえば、四段では「咲き+あり」⇒「咲けり」、サ変では「し+あり」⇒「せり」となった。その「り」の部分を助動詞と認めたものである。
(2)「り」の接続
 連用形   已然形
行き+あり⇒行け+り
       命令形

「り」の上につく動詞が四段活用である場合、四段活用は已然形も命令形も同形であるので、已然形接続説と命令形接続説とがある。しかし、成立の上からは、いずれも当たらないので、便宜的に、命令形接続とする。

❄この説明だと上代音の問題をスルーしているので、何故命令形とするのか説明になっていない。

❄ラ変動詞「来(け)り」「着(け)り」の項目は無し。

金田一春彦監修とあって、「はじめに」も金田一春彦が書いているが、同じ金田一春彦編の明解古語辞典とは内容に大きな違いがあり、明解は金田一春彦の学者としてのスタンスを前面に出していたのに対して、こちらは学校文法準拠で高校生の学習用辞典という性格になっている。



❂古語林(林巨樹・安藤千鶴子編、1997年11月初版、大修館書店)
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完了 り

主な意味:存続・完了

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

活用型:ラ変型
主な接続:四段の命令形・サ変の未然形
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り〔完了の助動詞〕

♢槽(ふね)ともに女の子どもおり立ちて、染め草洗へ[り]〈宇津保・吹上上〉?
[訳]いくつかの水槽(の中)に女の子らが降り立って、染料にする草を洗っている
[意味]❶存続Ⓐ動作や働きが進行中である
[訳し方]〜ている

♢その辺りに、照り輝く木ども立て[り]〈竹取〉
[訳]その辺りに、きらきら光る木々が立っている
[意味]❶存続Ⓑ動作や働きの結果の状態が引き続き残っている
[訳し方]〜てある

❄「訳し方」と実際の訳が違っているが……。

♢酒・よき物奉れ[り]〈土佐〉
[訳]酒や、おいしい食べ物を献上した。
 からくしてあやしき歌ひねりいだせ[り]〈土佐〉
[訳]やっとのことで変な歌を苦心してつくり出した
[意味]❷完了(ある動作や働きが完全に実現・終了している)
[訳し方]~た
     〜てしまう
     〜てしまった
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[接続]四段活用動詞の命令形、およびサ行変格活用動詞の未然形に付く。他に、「四段・サ変ともにその命令形に付く」とする説や「四段の已然、サ変の未然に付く」とする説もある。⇒【探求】[3]
[活用]ラ変型
    命令形「れ」は上代のみに見られる。

❄命令形の用例は落窪物語梁塵秘抄など中古以後にもあるのだが。

【ポイント】
[1]「り」の中心的意味は存続
 「り」は完了の助動詞として分類されているが、
 その中心的な意味は完了よりむしろ存続の方にあ
 る。⇒【探求】[1]
[2]動詞の活用語尾との識別に注意
 「り」は一字の助動詞であるため、動詞の活用語
 尾と紛れやすく注意を要する。⇒⦿「れ」の識別

【探求】
[1]「り」の成り立ち
  「り」はもともと四段動詞とサ変動詞の連用形
 に「あり」が付いた[━━ i+ari ]が[━━ eri ]
 と変化したことから成立したという説が有力。
 つまり「思ひ+あり」「為(し)+あり」など
 が、「思へ[り]」「為(せ)[り]」となり、
 この「り」だけを助動詞としたものである。
  助動詞「つ」「ぬ」が完了を中心の意味とする
 のに対して、同じ完了の助動詞「り」が完了より
 存在・継続の方を中心の意味とするのは、「あ
 り」という動詞を取り込んで成立しているためで
 ある。

[2]「り」と「たり」の違い
 「り」の意味は、同じラ変型活用の完了の助動詞「たり」とほぼ同じであるが、一般的傾向として、次のような特色が認められる。
 り……〔中心となる意味〕
    存在・動作が現存・進行中であることを表
    す場合が多い
    〔成立の時期〕
    古い時期(記紀歌謡に見える)に成立して
    いる
たり……〔中心となる意味〕
    動作の結果の状態が引き続き残っているこ
    とを表す場合が多い
    〔成立の時期〕
    「り」よりは後(『万葉集』など以後)
    に成立している

[3]接続についての異説
  従来、「り」の接続は「サ変動詞の未然形と、
 四段動詞の已然形に付く」とされ、「サミシイ
 (サ・未、四・已)」などと覚えることがあった
 が、最近、万葉仮名(上代特殊仮名遣い)の研究
 などから「四段・サ変の動詞には、ともにその命
 令形に付く」という説が行われている(ただし、
 この命令形は、命令の意をもつということではな
 くて、活用表の六段めの活用の形を指しているだ
 けである。

❄「最近の研究」とあるが、橋本進吉上代音では命令形であることを指摘したのは戦前のことなので「最近」とは言えないと思うが。

[4]「り」の変遷
  「り」は上代を中心として、同様の用法をもつ
 助動詞「たり」とともに多用され、平安時代には
 いってからも物語や女流日記などの和文や漢文訓
 読体の文章で多く用いられたが、次第に「たり」
 の方が優勢となり、「り」は衰退の道をたどっ
 た。
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け・り【来り】〘自ラ変〙来ている。
 [例]蓑笠着ずて[ける]人や誰〈万・一二〉
  ✲動詞「く(来)」の連用形「き」に、動詞
   「あり」が付いた「きあり」が変化した語。
け・り【着り】〘他ラ変〙着ている。
 [例]吾妹子が形見の衣我下に[けり]〈万・
    七〉
  ✲カ行上一段活用動詞「きる(着る)」の連用
   形「き」に、ラ行変格活用動詞「あり」が付
   いた「きあり」が変化した語。




❂ベネッセ全訳コンパクト古語辞典(中村幸弘編、1999年11月初版、ベネッセコーポレーション
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完了 り

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

活用型:ラ変型
接続:四段動詞の已然形、サ変動詞の未然形に付く
語義:❶継続・進行
   ❷結果が状態として存続している
   ❸完了
訳語:❶……ている。
    ……てある。
   ❷……ている。
    ……てある。
    ……た。
   ❸……た。
    ……てしまった。

❄このシリーズは今一番売れている古語辞典らしいが、四段動詞への接続を已然形としているのは今では珍しい。
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基本助動詞20
【り】動作や状態が存在し継続していること(存続)を表す

❶(継続・進行を表し)……ている。……てある。
 ▶野中に、丘だちたる所に、ただ木ぞ三つ立て
  [る]。〈更級日記・門出〉
 [訳]野原の中で、丘のようになっている所に、
    ただ木が三本立っている。
  ✎四段動詞「立つ」の已然形に付いている
   例。上に係助詞「ぞ」があるので、係り結び
   の法則により、結びは「り」の連体形「る」
   になっている。
❷(結果が状態として存続している意味を表し)……ている。……てある。……た。
 ▶富士の山を見れば、五月の晦(つごもり)に、
  雪いと白う降れ[り]。〈伊勢・9〉
 [訳]富士山を見ると、陰暦五月の下旬で、(夏
    だというのに)雪がたいへん白く降り積も
    っている。
  ✎四段動詞「降る」の已然形に付いている
   例。
❸(完了を表し)……た。……てしまった。
 ▶講師、むまのはなむけしに出でませ[り]
  〈土佐日記・十二月二十四日〉
 [訳]国分寺の住職が、送別の宴をしにいらっし
    ゃった。
  ✎尊敬の四段動詞「出でます」の已然形に付い
   ている例。
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▶語の成り立ち
「り」の構造
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▶文法のポイント
「り」

①「り」の接続
  四段動詞の已然形+「り」
  サ変動詞の未然形+「り」
 助動詞「り」はエ段音に接続する
     _    _
 例)おもへり おはせり
      ┃     ┃
     エ段音  エ段音

(1)四段動詞の已然形とサ変動詞の未然形に接続
   するということは、言い換えると、助動詞
   「り」は、エ段音にしか接続しないというこ
   とである。
(2)ただし、助動詞「り」は、上代には、四段動
   詞の已然形ではなく、命令形に当たる万葉仮
   名に付いていたことがわかっている。現代で
   は、已然形と命令形の活用語尾は同じ仮名だ
   が、当時は使い分けられていた。
    しかし、中古になると、已然形と命令形の
   仮名の使い分けがなされなくなったので、助
   動詞「り」は一般的には、四段動詞の已然形
   に接続するものとして取り扱う。

❄中古以後は已然形として扱う論拠が何も示されず、「一般的には已然形として扱う」だけでは説得力が無い。(古語辞典に関しては、今は命令形接続とする辞典の方が一般的だし)

(3)もともと、「り」の中にすでにラ変動詞か含
   まれているので、原則としてラ変型の活用語
   には接続しない。→語の成り立ち
(4)類義の助動詞に「たり」がある。「り」に比
   べ、「たり」はラ変動詞以外のすべてに接続
   するので、活用の幅が広い。そのため、中世
   以降は「り」よりも「たり」のほうが盛んに
   使われるようになった。これが現代語の
   「~た」につながっていく。

②完了の助動詞の使い分け
 (省略)
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❄ラ変動詞「来(け)り」「着(け)り」の項目は無し。




助動詞『り』について⑥
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