つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

助動詞『り』について⑥

助動詞『り』について⑤
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/06/16/094713




❂新明解古語辞典第二版(金田一京助監修、金田一春彦編者代表、1972年12月初版、1977年12月2版、三省堂
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
重要助動詞活用表
【り】
種類:完了・過去

未然 ら 奈ー鎌
連用 り 奈・平
終止 り 奈ー鎌
連体 る 奈ー鎌
已然 れ 奈・平
命令 れ 奈・平

[備考]
四段・サ変動詞のエ段の音(命令形)につく。

❄「エ段の音につく」は「明解」の記述を引き継いでいるが、「新明解」では「(命令形)」が付け加えられている。  
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 -り(助動ラ変)〘四段・サ変動詞の連用形+動詞「あり」の転から生じた語尾「り」が助動詞化したもの〙(上代では四段・サ変動詞の命令形相当語形に付き、四段動詞の已然形と命令形の区別がなくなった平安時代以後は、四段動詞には已然形に付き、サ変動詞には未然形に付くと考えるのが普通)
❶ある動作・作用が継続中であることを表わす。……テイル。
「荒れ(=激シク)も戦はで、心地ただ痴(し)れに痴れて、まもりあへ[り]」〔竹取〕。
「『雀の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。……』とて、いと口惜しと思へ[り](=思ッテイル)」〔源・若紫〕
❷ある動作・作用が完了して、その結果が残っていることを表わす。……テイル。
「天人の中に持たせる箱あり。天の羽衣入れり」〔竹取〕。
「まさきのかづら跡うづめ[り]」〔方丈〕
❸動作・作用が完了したことを表わす。……タ。
「わが里に大雪降れ[り]」〔万2・103〕
「酒・よき物奉れ[リ]」〔土左〕
❹(状態の発端を表わす動詞に付いて)ある状態にあることを表わす。……テイル。
「女の性(しゃう)は(=女トイウモノハ、生マレツキ)みなひがめ[り](=ユガンデイル)」〔徒然・107〕
[参考]命令形相当語形というのは、たとえば「書けり」「せり」から「り」を切り離して、残った「書け」「せ」がたまたま「書く」「す」の命令形と語形が一致するということであって、命令の意味をもった活用形というこではない。四段動詞の已然形と命令形、サ変動詞の未然形と命令形は同じ語形であるが、「上代特殊仮名づかい」の研究により、上代では区別されていたことが立証されている。後に音韻変化が生じた結果、上代の仮名づかいを考える必要がなくなり、四段動詞には已然形に、サ変動詞には未然形に付くとするのが普通になった。しかし、これらは単にその語形が一致するにすぎないのであって、むしろ四段動詞・サ変動詞のエ段の音に付くという説明の方が妥当である。

❄語釈の前の〘〙内と語釈の後の[参考]は「明解」には無かった新たな記事。
語釈自体は「明解」と同じだが、用例は大幅に増補された。
[参考]の記述にはやや不正確な所がある。四段動詞の接続の場合は上代音から命令形と特定できるが、サ変動詞の接続の場合は「せ」には上代音における甲類・乙類の別は無いので、上代音からは未然形か命令形かを特定することはできない。岩波古語辞典などが命令形としているのは、四段動詞が命令形接続なのでサ変動詞も命令形とした方が整合性がとれるとの理由からである。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
け-り【来り】(自動ラ変)〘「来あり」の転〙来ている。
「たまづさの使ひの━━・れば嬉しみと、あが待ち問ふにおよづれの戯言(たはこと)とかも」〔万17・3957〕
け-り【着り】(他動ラ変)〘「着あり」の転〙着ている。着る。
「このあが━━・る妹が衣の」〔万15・3667〕




三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2001年1月初版、三省堂
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
主要助動詞活用表(承接による分類)

【り】
承接:[特殊]
   四段の命令形
   サ変の未然形

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

活用の型:ラ変型
種類:完了
おもな意味(訳し方):①完了(……タ)
           ②存続(……テアル)
              (……テイル)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
り[完了の助動詞]

【アプローチ】
❶完了、❷㋐存続、㋑継続と大別できるが、❷の㋐㋑は近い。❶は「……た」、❷は「……てある・……ている」と訳すのが基本(❷の場合、連体形なら「……た」と訳してもよい場合もある)。
[接続]
四段動詞の命令形(已然形)、サ変動詞の未然形に付く(類語「たり」は四段・サ変以外にも付く)。
[活用]
ラ変型

[意味]
❶動作・作用が実現・完了したことを表す。
 [訳語]……た
 [用例]「からくして、あやしき歌ひねり出だせ
    [り]」〈土佐〉
 [訳]やっとのことで、変な歌を苦労して作っ
    た。
❷㋐動作・作用が完了し、その結果が存続していることを表す。
 [訳語]……てある
     ……ている
     ……た(連体形)
 [用例]「朝ぼらけ有り明けの月と見るまでに吉
     野の里に降れ[る]白雪」〈古今・冬・
     332・坂上是則
 [訳]ほのぼのと夜が明けそめるころ、有り明け
    の月が出ていると見間違えるほどに、吉野
    の里に降り積もっている白雪よ。
 ㋑動作・作用が継続・進行していることを表
す。
 [訳語]……てある
     ……ている
     ……た(連体形)
 [用例]「そのあたりに、照り輝く木ども立て
    [り]」〈竹取・蓬莱の玉の枝〉
 [訳]そのあたりに、照り輝く木々が立ってい
    る。
【発展学習ファイル】
(1)四段・サ変動詞の連用形に「あり」が付いた
  「咲きあり」「しあり」などが「咲けり」「せ
  り」などに転じ、ここから、「り」が存続・完
  了を表す語として成立するようになったもの
  (存続のほうが本来の用法とみられる)。
(2)四段活用の場合、(1)の「咲けり」の「咲
  け」は命令形と見ることも已然形と見ることも
  できる(上代の万葉仮名の使い方から判断する
  と命令形と見る方が妥当だが、それは形だけの
  ことで、命令の意味を持つわけではない。中古
  だけを考えれば、便宜的には已然形という説明
  でもかまわない)。 

❄同じ語なのに上代は命令形、中古は已然形というのでは整合性を欠くし、命令の意味を持たないのと同様に已然形の確定条件の意味も持たないのだから已然形でも良いという論理的必然性が無い。

(3)❷㋐の例文の場合、「降る」ことはすでに終
  わっていて、「降った」結果つまり「降り積も
  った様子」が残っている。㋑の例文の場合は、
  「立つ」ことが続いている。この違いにより、
  ㋐は(結果の)存続、㋑は(動作の)継続と区
  別することがあるが、この違いはとくに重要で
  はなく、㋐㋑をまとめて「存続」の用法と呼ん
  でもよい。
(4)なお、❶の例文でも、歌をひねり出したあ
  と、そこに歌(への関心)がしばらく残るわけ
  であり、「完了」の用法といっても、その結果
  をとどめる一面がある。それは、「り」が前記
  (1)のように「あり」を起源に成立したため
  である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
け・り【来り】[自ラ変]〘動詞「来(く)」の連
    用形+動詞「有り」=「きあり」の変化
    形〙来ている。
    [用例]「使ひの来れば嬉しみと」
        〈万葉・一七・3957長歌
け・り【着り・著り】[他ラ変]〘動詞「着る」の
    連用形+動詞「有り」=「きあり」の変化
    形〙着ている。
    [用例]「わが背子が着る衣薄し」
        〈万葉・六・979〉



❂東書最新全訳古語辞典(三角洋一・小町谷照彦編、2006年1月初版、東京書籍)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
助動詞一覧(文語)

【り】

 未然 連用 終止 連体 已然 命令
  ら  り  り  る  れ  れ

活用の型:ラ変型
接続:四段の命令・已然形
   サ変の未然形

主な意味:完了(……てしまった)
     存続(……ている)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
り[助動][ラ変型]

〘接続〙サ変動詞の未然形、四段動詞の命令形に付く。ただし、四段動詞の已然形に付くとする説もある。
▶「り」は動詞の連用形に「あり」が付いた形が変化し、成立したとされる。したがって、「存続」がもともとの意である。
❶(完了)……た。……てしまった。
[例]「人を遣りて見するに、おほかた逢へ[る]
   者なし」〈徒然・五〇〉
[訳]「人を行かせて見させるが、まったく(鬼
   に)会ったという者はいない」
❷(存続)……ている。……てある。
[例]「あるいは露落ちて花残れ[り]」〈方丈〉
[訳]「あるものは露が落ちて、花は残っている」
【参考】
四段動詞に付く場合の接続に、已然形・命令形の二説があるのは次のような事情による。「咲けり」を例に取れば、「け」は上代には、已然形と命令形とでは「け」の発音が異なっていて、用いられる漢字も異なっており、その命令形の漢字が用いられていた。これが命令形とする根拠である。一方、已然形とするのは、平安時代になると、発音の区別がなくなり、意味上、命令形より已然形とするほうが自然であるとする考えによる。

❄已然形というのは係結びの場合を除き、接続助詞に接続して確定条件を表すが、「咲けり」「詠めり」「せり」などは接続助詞に接続してもいないし、確定条件を表すわけでも無い。意味上でも已然形扱いが自然だとは言えない。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
け・り【来り】[自][ラ変]〘上代語。「きあり」(動詞「く(来)」の連用形+動詞「あり」)の変化した語〙来ている。やって来た。
[例]「玉梓の使ひの[けれ]ば」
   〈万葉・一七・3957・長歌
[訳]「(都からの)使いが来ているので」
[参考]用例中の「玉梓の」は「使ひ」にかかる枕詞。

け・り【着り・著り】[他][ラ変]〘上代語。「きあり」(動詞「きる(着る)」の連用形+動詞「あり」)の変化した語〙着ている。着る。
[例]「我が背子がける衣薄し佐保風はいたくな吹
   きそ家に至るまで」
   〈万葉・六・979〉
[訳]「私の甥が着ている服は薄い。佐保のあたり
   に吹く風よ、激しく吹かないでくれ、(甥
   が)家に着くまでは」




助動詞『り』について⑦まとめ
http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/06/23/031133