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古語辞典比較~にしきぎ(錦木)の記述

「明解古語辞典」で一つだけ金田一京助氏が書いた項目があって、それが『にしきぎ(錦木)』なのだと言う。春彦氏は京助氏が書くと随筆になってしまうので辞書の編纂は京助氏には向かないと述べていたそうだが、さて春彦氏の指摘は的中しているかどうか。


★「明解古語辞典/改訂版」

にしきぎ【錦木】(名)みちのくのえびすにあった風習で、男が思う女へ、手紙をやる代りに女の家の戸へ立てたという、三〇センチばかりの木の棒。もし女が承知ならばそれを内へ取り入れ、不承知ならば取り入れないが、懲りずに三年の間立て続けて、千束にも及ぶと、実意があるものとしてたいてい承知したという。今のアイヌの削り花などのようなものであったか。
「思ひかねけふ立て初むる━━の」〔詞花〕。

★「新明解古語辞典/第二版」

にしきぎ【錦木】(名)今の奥羽地方にあった風習。男が思う女へ手紙をやる代わりに、女の家の戸へ立てたという、三〇センチばかりの木の棒。もし女が承知ならばそれを内へ取り入れ、不承知ならば取り入れないが、懲りずに三年の間立て続けて、千束にも及ぶと、実意があるものとしてたいてい承知したという。
「思ひかねけふ立て初むる━━の千束(ちづか)もまたで逢ふ由もがな」〔詞花・恋上〕
[参考]アイヌ人の用いる「削り花」のようなものであったかと思われる。



他の辞書では。

★「岩波古語辞典/補訂版」

にしきぎ【錦木】陸奥地方で、男の恋心を示すために女の家の門口に立てたという木片。
「━━の千束(ちづか)も待たで逢ふよしもがな」〈詞花190〉。
陸奥国の奥の夷(えびす)は、男、女をよばはんとする時、文をやることはなくて、一尺ばかりなる木をまだらに色取りて其の女の家の門に立つるに、逢はむと思ふ男なれば、其の━━を程なく取り入れつ、遅く取り入るれば、しひてなほ立てて、千束をかぎりに立つれば、まことに心ざしありけりとて、其の時に取り入れて逢ふといへり」〈袖中抄18〉

★「古語林」

にしきぎ【錦木】〔名〕陸奥(現在の東北地方)の風習で、男性が思いを寄せる女性の家の門に立てたという、五色に彩った木の棒。女性がそれを家に入れると、男性を受け入れるしるしとされた。
[例]錦木は立てながらこそ朽ちにけれ〈後拾遺・恋一〉

三省堂詳説古語辞典

にしきぎ【錦木】[名]陸奥の風習で、男が思いを寄せる女の家の門に立てた、一尺(約三〇センチメートル)ほどの五色に彩色した木のこと。女が男の思いを承諾すれば家中に取り入れられるが、取り入れられないと男は毎日一束ずつ重ね、千束になるまで誠意を示したという。


❄項目を立てている辞書が少なく、「明解」「新明解」以外では三種の古語辞典のみだった。
内容はどの辞書も袖中抄をなぞったような記述だが、「明解」「新明解」がアイヌの風習との関連を述べているのが金田一京助らしさが出ているか。