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『ならなくに』の品詞分解

伊勢物語初段に出てくる源融の歌「みちのくの忍もぢずりたれゆへにみだれそめにし我ならなくに」の第五句「我ならなくに」の『ならなくに』の部分の品詞分解について考えてみたい。

まずは参考書を見てみる。

★橘誠著「伊勢物語の文法と解釈」(1957年11月初版、学燈社
日栄社編集所著「要説伊勢物語」(1964年5月初版、日栄社)
★三ツ木徳彦著「文法詳解伊勢物語精釈」(1965年5月初版、中道館)
日栄社編集所著「文法解説伊勢物語」(1973年4月初版、日栄社)
★野口博久・関恒延・中野猛著「武蔵野古典学習講座②/伊勢物語」(1978年5月、武蔵野書院
★原国人著「文法鑑賞伊勢物語新解釈」(1979年5月、有精堂)
★塚田義房著「VITALS SERIES 9/伊勢物語解釈の基礎」(1986年3月、研数書院)
★西谷元夫著「精選古典14/伊勢物語」1986年6月、有朋堂)

なら……助動詞、断定、未然
な……助動詞、打消、未然
く……(名詞化する)接尾語
に……接続助詞

★春山要子著「古典新釈シリーズ4/伊勢物語」(1984年10月初版、中道館)
日栄社編集所著「新・要説伊勢物語」(1998年7月初版、日栄社)

なら……助動詞、断定、未然
な……助動詞、打消、未然
く……準体助詞
に……接続助詞

★長瀬治著「文法詳解伊勢物語精解」(1958年4月初版、加藤中道館)

なら……助動詞、断定、未然
なく……準体言
に……接続助詞

★雨海博洋著「文法全解伊勢物語」(1969年1月初版、旺文社)

なら……助動詞、断定、未然
な……助動詞、打消、未然
く……(体言化する)接尾語
に……終助詞

★奥野光恵著「国語 Ⅰ シリーズ3/伊勢物語」(1982年5月初版、中道館)

なら……助動詞、断定、未然
な……助動詞、打消、未然
く……準体助詞
に……終助詞

★此島正年著「伊勢物語要解/改訂版」(1955年初版改訂版初版発行年次不明、有精堂)
★小西宏著「ニューメソッド国文対訳シリーズ1/伊勢物語」(1961年4月初版、評論社)
★郷衡・田尻嘉信著「明解シリーズ19/伊勢物語」(1972年11月初版、有朋堂)

なら……助動詞、断定、未然
なく……準体言
に……終助詞

★伴久美著「文法設問伊勢物語の解釈と鑑賞」(1958年5月初版、有精堂)

なら……助動詞、断定、未然
な……助動詞、打消、未然
く……(体言化する)接尾語
に……格助詞


『なら』を「助動詞、断定、未然』とする点では総ての参考書が一致しているが、『なく』及び『に』に関しては見解が分かれているようだ。

さらに校注書ではどう書かれているか見てみよう。

★南波浩校註「日本古典全書/伊勢物語」(1960年7月初版、朝日新聞社
★森本茂著「伊勢物語全釈」(1973年7月、大学堂書店)
★中野幸一・春田裕之著「伊勢物語全釈」(1983年7月初版、武蔵野書院

な……助動詞、打消、未然
く……(体言化する)接尾語
に……接続助詞

★小沢正夫校注「日本古典文学全集7/古今和歌集」(1971年4月初版、小学館
★福井貞助校注「日本古典文学全集8/伊勢物語」(1972年12月初版、小学館

な……助動詞、打消、未然
く……準体助詞
に……間投助詞

校注本では特に『に』を助詞とのみ記す本が多く、きちんと品詞分解しているのは上記の書ぐらいだった。

さらに古語辞典を見てみる。

山田俊雄・吉川泰雄編「角川必携古語辞典」(1988年11月初版、角川書店
林巨樹・安藤千鶴子編「古語林」(1997年11月初版、大修館書店)

な……助動詞、打消、未然
く……接尾語
に……接続助詞

★佐藤定義編「新訂/詳解古語辞典」(1972年11月、明治書院

な……助動詞、打消、未然
く……接尾語
に……間投助詞

佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編「例解古語辞典/第二版」(1980年1月初版1985年1月2版、三省堂
★桑原博史編「三省堂セレクト古語辞典」(1987年12月初版、三省堂

な……助動詞、打消、未然
く……準体助詞
に……間投助詞

北原保雄編「全訳古語例解辞典/第三版」(1987万1月初版1998年1月3版、小学館
秋山虔渡辺実編「三省堂詳説古語辞典」(2000年1月、三省堂

な……助動詞、打消、未然
く……準体助詞
に……格助詞

古語辞典も『に』を「助詞」とのみ記したもの、『に』については諸説あるとのみ記して見解を明らかにしていない辞書がいくつかあり、それらは割愛した。



『なく』についても見解が分かれているようだが、ここでは『に』について考えたい。

『に』を助詞とすることではほぼ一致しているようだが、どの助詞とするかでは以下のように見解が分かれている。

【格助詞】
★伴久美著「文法設問伊勢物語の解釈と鑑賞」(1958年5月初版、有精堂)
北原保雄編「全訳古語例解辞典/第三版」(1987万1月初版1998年1月3版、小学館
秋山虔渡辺実編「三省堂詳説古語辞典」(2000年1月、三省堂

【接続助詞】
★橘誠著「伊勢物語の文法と解釈」(1957年11月初版、学燈社
★長瀬治著「文法詳解伊勢物語精解」(1958年4月初版、加藤中道館)
★南波浩校註「日本古典全書/伊勢物語」(1960年7月初版、朝日新聞社
日栄社編集所著「要説伊勢物語」(1964年5月初版、日栄社)
★三ツ木徳彦著「文法詳解伊勢物語精釈」(1965年5月初版、中道館)
日栄社編集所著「文法解説伊勢物語」(1973年4月初版、日栄社)
★森本茂著「伊勢物語全釈」(1973年7月、大学堂書店)
★野口博久・関恒延・中野猛著「武蔵野古典学習講座②/伊勢物語」(1978年5月、武蔵野書院
★原国人著「文法鑑賞伊勢物語新解釈」(1979年5月、有精堂)
★中野幸一・春田裕之著「伊勢物語全釈」(1983年7月初版、武蔵野書院
★春山要子著「古典新釈シリーズ4/伊勢物語」(1984年10月初版、中道館)
★塚田義房著「VITALS SERIES 9/伊勢物語解釈の基礎」(1986年3月、研数書院)
★西谷元夫著「精選古典14/伊勢物語」1986年6月、有朋堂)
山田俊雄・吉川泰雄編「角川必携古語辞典」(1988年11月初版、角川書店
林巨樹・安藤千鶴子編「古語林」(1997年11月初版、大修館書店)
日栄社編集所著「新・要説伊勢物語」(1998年7月初版、日栄社)

【終助詞】
★此島正年著「伊勢物語要解/改訂版」(1955年初版改訂版初版発行年次不明、有精堂)
★小西宏著「ニューメソッド国文対訳シリーズ1/伊勢物語」(1961年4月初版、評論社)
★雨海博洋著「文法全解伊勢物語」(1969年1月初版、旺文社)
★郷衡・田尻嘉信著「明解シリーズ19/伊勢物語」(1972年11月初版、有朋堂)
★奥野光恵著「国語 Ⅰ シリーズ3/伊勢物語」(1982年5月初版、中道館)

【間投助詞】
★小沢正夫校注「日本古典文学全集7/古今和歌集」(1971年4月初版、小学館
★佐藤定義編「新訂/詳解古語辞典」(1972年11月、明治書院
★福井貞助校注「日本古典文学全集8/伊勢物語」(1972年12月初版、小学館
佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編「例解古語辞典/第二版」(1980年1月初版1985年1月2版、三省堂
★桑原博史編「三省堂セレクト古語辞典」(1987年12月初版、三省堂


「新訂詳解古語辞典」には《接続助詞の『に』は活用語の連体形に接続し、終助詞の『に』は動詞の未然形に接続する》とあり、接続の点で接続助詞・終助詞はまず無いと思う。
接続から言えば格助詞か間投助詞だが、ここでは詠嘆の意が含まれることを考えると間投助詞とするのが妥当ではなかろうか。



なお古語辞典で間投助詞『に』を立てていない辞書も多く、間投助詞『に』を立てている辞書は以下の通りだった。

金田一春彦編修主任「明解古語辞典/改訂版」(1953年4月初版1958年改訂版、三省堂
★佐藤定義編「新訂/詳解古語辞典」(1972年11月初版1982年新訂版、明治書院
佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編「例解古語辞典/第二版」(1980年1月初版1985年1月2版、三省堂
★桑原博史編「三省堂セレクト古語辞典」(1987年12月、三省堂
★宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編「旺文社全訳古語辞典/第三版」(1990年11月初版2003年10月3版、旺文社)
《「明解古語辞典」では「感動助詞(間投助詞)」の『に』を立てているが、「新明解古語辞典」では新たに並立助詞『に』を立てる一方「感動助詞『に』」は削除している》