つらつら思うこと

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『あた』か『あだ』か②

『あた』か『あだ』か①
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さて、『あた』と『あだ』の違いを古語辞典はどう記述しているだろうか。

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❂参考古語辞典(松下大三郎監修、江波煕編著、1940年2月発行、中文館書店)

あた〔仇〕「仇敵」「害をなす」 後世はこれを濁って[あだ]と言ふ。
「運に乗じてあたをくだく時」(徒然草、80段)=敵
「近頃材智は身のあたといふこゝろを中院通躬卿の御歌とて承り侍りし」(昭和五年、奈良女高師)=身に害をなすもの

あだ〔仇〕[あた]に同じ
「その道をもてあだ報いきといふも」(花月草紙)

あだ〔徒〕
㈠「いたづら」「無駄」
「和歌の道はたゞまこと少く、あだなるすさびばかりと思ふ人もやあらむ」(十六夜日記)=和歌の道は全く眞實な精神に乏しく、いたづらな慰さみに過ぎないと思ふ人があるかも知れない」
㈡「かりそめ」「はかない事」
「はかなくあだなる様かくの如し」(方丈記
「人間のあだなるならひ、今更に驚くべきに候はねども、御ありさま見参らせ候に、せん方なくこそ候へ」(平家物語、灌頂卷)=人間のはかない習ひ
㈢「軽薄」「浮氣」
「あだなりと名にこそたてれ櫻花年にまれなる人もまちけり」(古今集、春歌上)=櫻の花は浮氣で散り易いと評判になつてゐるが、しかし實際はさうではなく、一年の内にたまにしか來ない人をさへ、散らずに待つてゐる。

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❂明解古語辞典/改訂版(金田一京助監修、金田一春彦編修主任、1953年4月初版1958年12月改訂版、三省堂

あた【仇・賊】(名)
①こちらに害をなすもの。
「━━の風吹きて、三つある舟、二つは損はれぬ」〔宇津保〕。
②こちらに攻めて来るもの。敵。
「筑紫の国は、━━守るおさへの城(き)ぞ」〔万〕。
③恨みの種。
「形見こそ今は━━なれ」〔古今〕。
④恨みを報いるべき相手。あだ。
【賊守る】〘上代、筑紫に兵を置いて外国の侵入を防衛させたことから〙「筑紫」にかかる枕言葉。
「━━筑紫に至り」〔万〕

あだ【仇】(名)
「あた(仇)」の転。
「━━討」。
【仇を鬼につく・る】非常に悪いものをいう語。
「いみじき━━・りたりとも」〔源・浮舟〕

あだ【徒】(形動ナリ)
①まごころがないこと。うわついていること。
「いとまめに、実様にて、━━なる心なかりけり」〔勢語〕。
②はかないこと。
「(人ノ死ヲイタンデ)花よりも、人こそ━━になりにけれ」〔古今〕。
③むだだ。かいがない。
「あすよりは━━に月日を送らじ」〔玉葉〕。
④役にたたない。つまらない。
「荒れたる軒に生ひたる━━なる草(=雑草)なれど」〔十訓〕。
【徒の契り】かりそめの契り。はかない契り。
「━━も仇にせず心の底に結び置く」〔近松・薩摩歌〕。
【徒の悋気(りんき)】自分に関係のないことにヤキモチをやくこと。オカヤキ。
「誰をか恋の祈りぞと、━━や法海寺」〔近松・曽根崎〕
【徒やおろか】「あだおろそか」に同じ。
「━━なことではないにせよ」〔三馬・浮世風呂

あだ−おろそか(形動ナリ)
なみたいてい。
「━━には、儲かりませぬ」〔三馬・浮世風呂

あだ−くらべ【徒比べ】(名)
互に相手をまごころがないと思うこと。
「━━かたみにしける男女の」〔勢語〕

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❂角川古語辞典/改訂版(武田祐吉久松潜一編、1958年3月初版1963年1月改訂初版、角川書店

あた【仇・賊・寇】名
①害をなすもの。損害。不利。
「ヒトニ━━ヲナス」〔日葡〕
「━━となる益なき事をすき好むは、大きなるぐち(=愚カ)なり」〔こんてむつすむん地〕
②敵。賊徒。
「━━守る筑紫(=九州)に至り」〔万・971〕
③仕返しをする相手。
「『よし。━━は徳をもってとぞいふなる』とて取らせつ」〔宇津保・藤原君〕

あだ【徒】形動ナリ
①はかない。
「命をば━━・なるものと聞きしかど」〔新古今・恋〕
「━━・なる契りをかこち」〔徒然・137〕
②うわついている。実がない。
「━━・なることはまだならはぬものを」〔源・葵〕[対]まめ。
③むだだ。無用なことだ。
「形見こそ今は━━・なれこれなくは忘るるときもあらましものを」〔古今・恋〕
④いいかげんだ。
「━━・な御酒はござらぬが、けふのは取りわき結構に覚えまする」〔狂・悪太郎

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❂基本古語辞典/改訂版(小西甚一著、1966年3月初版1969年11月改訂版、大修館書店)

あた[仇・敵]Ⓓ
❶害をなすもの。
「━━の風、大いなる波にあひて」〔宇津保・俊蔭〕
❷仇敵。敵。
「いみじき━━を、鬼に作りたりとも」〔源氏・浮舟〕
❸しかえし。
「『よし、━━は徳をもちてとぞ言ふなる』とて取らせつ」〔宇津保・藤原君〕〘近世後期は「あだ」と濁音〙

あだ[徒・虚]Ⓐ〔+形動ナリ〕
〘「空虚」という意味が根底にある〙
❶はかない。たよりない。
「人間の━━・なる習ひ、今更驚くべきにはあらねども」〔平家・六道之沙汰〕
「これは━━・なる玉の緒の長き別れとなりやせむ」〔謡・熊野〕
❷存在しない。死の状態。
「花よりも人こそ━━・になりにけれいづれを先に恋ひむとか見し」〔古今・哀傷〕
❸まごころがないこと。
「永き世の(=永久ニ尽キナイ)恨みを(ワタシトイウ)人に残しても(ソノ原因ハ)かつは(=一方デハアナタノ)心を━━と(=浮気ノタメダト)知らなむ」〔源氏・賢木〕
❹かいのない。
「━━・なる契りをかこち」〔徒然・137段〕
❺役に立たない。
「━━・にただ涙はかけじ(=役ニモ立タナイ涙ハ流スマイ)旅ごろも心のゆきて(=目的ヲトゲテ)たち帰るほど」〔十六夜
❻ちょっとした。
「ただ釈阿(=藤原俊成)・西行のことばのみ、かりそめに言ひちらされし━━・なる戯れごとも、哀れなるところ多し」〔芭蕉・柴門の辞〕
❼くだらない。つまらない。
「これを思ふに(カネヲ)━━・に使ふべき物にはあらず」〔西鶴・永代蔵・巻三ノ一〕

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講談社古語辞典(佐伯梅友・馬淵和夫編、1969年12月初版、講談社

あた【敵・仇】(名)〔江戸時代の初めごろまで「た」は清音〕
自分に害・不利益を与えるもの。てき。〈万・4331〉[記][万][古][蜻][源][徒]

あだ【仇】(名)⇨あた(敵)
━━を為・す……害を加える。
「主人に━━す悴(せがれ)どもゆゑ、打ち殺せとの仰せ付けられ」〈伎・幼稚子敵討・5〉

あだ【徒】(名・形動ナリ)
①はかないこと。かりそめなこと。
「うぐひすの━━に出行かむ山辺にも」〈蜻蛉・天暦九年〉
②実のないこと。移り気。
「かつは心を━━と知らなむ」〈源・賢木〉
③いたずらなこと。むだなこと。
「年月を━━にちぎりて我や住まひし」〈伊勢・21〉[伊][古][蜻][源][徒]

あだ-くらべ【徒競べ】(名)うわ気を互いに比べ合うこと。
「━━かたみに(=オ互イニ)しけるをとこ女の」〈伊勢・50〉[伊]

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⇒『あた』か『あだ』か③
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