つらつら思うこと

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『あた』か『あだ』か④

『あた』か『あだ』か③
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三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2001年1月初版、三省堂

あた【仇・敵・賊・寇】[名](「あだ」とも)
❶敵。自分に敵対する者。
[例]「運に乗じて敵を砕く時、勇者にあらずといふ人なし」〈徒然・80〉
❷害。
❸恨み。
[例]「なにのあたにか思ひけむ」〈伊勢・31〉
〔仇の風〕逆風。
[例]「仇の風吹きて、三つある船、二つはそこなはれぬ」〈宇津保・俊蔭〉
〔仇を鬼に作る〕恐ろしく悪い状態を設定するたとえ。
[例]「いみじき仇を鬼につく・りたりとも、おろかに見棄つまじき人の御ありさまなり」〈源氏・浮舟〉
〔仇をなす〕恨みに思う。仕返しをする。
[例]「あたをな・して嘆き悲しみける程に」〈今昔・二四・20〉

あだ【仇】[名](近世語)「あた(仇)」に同じ。

あだ[・なり]【徒】[形動ナリ]
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[アプローチ]
▶実のない、むなしいさまが原義とされる。
▶そこから、たよりない、はかない、不誠実だ、いい加減だ、役に立たない、浮気だなどの意が生じた。
▶語幹の「あだ」は、不誠実・無駄の意で、「あだごころ」「あだごと」など、造語成分どなる。
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❶誠意がない。浮気なさま。
[例]「あだ・なりと名にこそ立てれ桜花年にまれなる人も待ちけり」〈古今・春上・62・よみ人しらず、伊勢・17〉
[訳]桜の花は、散りやすくあてにならないと評判になっておりますが、一年のうちにたまにしかおいでにならない人のことを散らずに待っていたのですよ。
❷はかない。かりそめなさま。
[例]「露をなどあだ・なるものと思ひけむ我が身も草に置かぬばかりを」〈古今・哀傷・860〉
[訳]露をどうしてはかないものと思ったのだろう。わが身も露のように草の葉に置かないだけで、はかないことは同じだった。
❸いい加減なさま。疎略なさま。
[例]「御枕上に参らすべき祝ひの物にはべる。あなかしこ、あだ・にな」〈源氏・葵〉
[訳](この箱は)御枕もとへ差し上げるべき祝儀のものでございます。決して、疎略にしないでくださいよ。
❹無駄なさま。むなしいさま。
[例]「倭歌の道は、ただまごころ少なく、あだ・なるすさみばかりと思ふ人もやあらむ」〈十六夜
[訳]和歌の道は、ただもうまごころが少なく、無駄な気なぐさみに過ぎないと思う人も いるだろう。
〔徒の戯れ〕うわついてまじめな心のないふざけ方。悪ふざけ。
〔徒の名〕浮気だという評判。

あだくらべ【徒比べ】[名]はかなさを競い合うこと。また、男女が互いに相手を浮気だと思うこと。

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❂全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版(金田一春彦監修、菅野雅雄・中村幸弘編、1996年12月初版2002年12月2版、学研)

あた【仇・敵・賊】名詞
❶敵。外敵。
万葉集4331]「しらぬひ(=枕詞)筑紫の国はあた守る鎮(おさ)への城(き)そと」
[訳]筑紫の国は外敵の来襲を防ぐしずめのとりでだぞと。
❷かたき。仇敵。災いのもとになる憎むべき存在。
伊勢物語・31]「ある御達の局の前を渡りけるに、何のあたにか思ひけむ」
[訳](男が)ある身分の高い女房のつぼねの前を通ったときに、(男を)どういうかたきに思ったのだろうか。
❸害。
酒呑童子・御伽]「丹波の国大江山には鬼神がすみてあたをなす」
[訳]丹波の国の大江山には鬼が住んでいて(人々に)害を加える。
❹恨み。恨みの種。
今昔物語集・二四・20]「年来棲みける妻(め)を去り離れにけり。妻、深くあたを成して嘆き悲しみけるほどに」
[訳]長年連れ添った妻を離縁した。妻はこれを深く恨みに思って嘆き悲しんでいたうちに。
〚注意〛近世以降、「あだ」というようになる。「あだ(徒)なり」は別語。
〚参考〛「当たる」の語幹から派生した語で、自分に向かってくるものの意。

あだ・なり【徒なり】形容動詞・ナリ
❶はかない。もろい。
徒然草・137]「会はで止みにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち」
[訳]会わないで終わってしまったつらさを思い、はかない約束について愚痴を言い。
❷誠実でない。いいかげんだ。浮気だ。
紫式部日記・消息文]「そのあだになりぬる人の果て、いかでかはよく侍らむ」
[訳]そういう不誠実な性質になってしまった人(=清少納言)の末路が、どうしてよいでありましょうか、よいはずがありません。
❸疎略だ。
源氏物語・葵]「確かに御枕上に参らすべき祝ひの物にて侍る。あなかしこ、あだにな」
[訳]確かに枕もとに差し上げなければならない祝いのものです。決して疎略に扱ってはいけません。
❹無駄だ。無用だ。
堤中納言虫めづる姫君]「蝶になりぬれば、いともそでにて、あだになりぬるをや」
[訳](絹をとる蚕が)蝶になってしまうと、(人は)まったくおろそかにして無用なものになってしまうのよね。

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❂全訳全解古語辞典(山口堯二・鈴木日出男編、2004年10月初版、文英堂)

あた【仇・敵・賊】[名]こちらと敵対する相手をさすのが原義。江戸中期以降「あだ」。
❶自分に害をなすもの。自分が倒さなければならないもの。敵。かたき。
[例]筑紫の国はあた守るおさへの城(き)そと(=筑紫の国は敵を監視する鎮めの砦であるぞと)〈万葉 ・20・4331〉
❷害。危害。損害。
[例]大江山には、鬼神が住みてあたをなす〈御伽草子酒呑童子
❸恨み。遺恨。また、恨みの種となるもの。
[例]形見こそ今はあたなれこれなくは忘るる時もあらましものを(=思い出の品も、今となっては恨みの種であることだ。これがなかったら、あの人を忘れることもあるだろうになあ)〈古今・恋四〉
[読解]心変わりした恋人をいっそ忘れたいと嘆く恋の末期の歌。
[語誌]
▶江戸中期から「あだ」と濁音に変化した。「あだ(徒)」や「あだ(婀娜)」と混同されることがある。
▶「あた」と「かたき」
「あた」が個人の価値判断に基づく言葉であるのに対し、類義語「かたき」は、「かたきどうし」という言葉があるように相互間の概念である。〈鈴木宏子

あだ【徒】[形動](ナリ)花が実を結ばずに散ってしまうように、一時的・表面的なさまをいう。
❶浮気だ。誠意がない。
[例](男ハ)いとまめにじちようにて、あだなる心なかりけり(=たいそうまじめで実直で、浮気な心がなかった)〈伊勢・103〉
❷はかない。一時的だ。
[例]

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❂東書最新全訳古語辞典(三角洋一・小町谷照彦編、2006年1月初版、東京書籍)

あた【仇・敵・賊】[名]《後に「あだ」ともいう》
❶自分に危害を加えるもの。敵。かたき。
[例]「しらぬひ筑紫の国はあた守るおさへの城(き)そと」〈万葉・二〇・4331・長歌
[訳]「筑紫の国は敵を防ぐ防御のとりでなのだと」
[参考]用例中の「しらぬひ」は筑紫にかかる枕詞。
❷害。危害。
[例]「丹波の国大江山には鬼神がすみてあたをなす」〈伽・酒呑童子
[訳]「丹波の国の大江山には鬼がすんでいて(人々に)危害を加える」
❸恨み。恨みのたね。
[例]「形見こそ今はあだ(ママ、誤植か?)なれこれなくは忘るる時もあらましものを」〈古今・恋四・746〉
[訳]「愛情の思い出の品は今となっては恨みのたねであることだ。これがなかったならば(あの人のことを)忘れられる時もあるだろうに」
[参考]語源には諸説あるが、「当たる」の語幹が変化した語といわれ、自分に敵対するものの意とされる。また、「あだ(徒)」は、別語であるので、注意が必要。

あだ【徒】[形動][ナリ]
▶空虚で中身がない状態を表す。対義語は「実(まめ)」。
❶まことのない。誠実でない。浮気だ。
[例]「そのあだになりぬる人の果て、いかでかはよく侍らん」〈紫式部日記
[訳]「そのような誠実でなくなった人(=清少納言)の終わりが、どうしてよいでしょうか(いや、よいはずはありません)」
❷はかない。かりそめである。
[例]「露をなどあだなるものと思ひけむ我が身も草に置かぬばかりを」〈古今・哀傷・860〉
[訳]「露をどうしてはかないものと今まで思っていたのだろうか、自分自身も(露のように)草(の上)に置かないだけ(で露と同じはかない存在)なのに」
❸むだだ。かいがない。
[例]「蝶になりぬれば、いともそでに、あだになりぬるをや」〈堤中納言虫めづる姫君
[訳]「(蚕も)蝶になってしまうと、まったくおろそかにして、かいがなくなって(死んで)しまうよ」
[参考]「徒」の対義語は「実(まめ)」であるが、それぞれの語幹「あだ」と「まめ」は接尾語「めく」や「だつ」が付くと「あだめく」「まめだつ」という動詞になり、語幹を重ねて形容詞「あだあだし」「まめまめし」ともなる。

あだ-くらべ【徒比べ】[名]
(一組の男女の)浮気のとがめ合い。また、浮気の競い合い。
[例]「あだくらべかたみにしける男女の」〈伊勢・50〉
[訳]「浮気のとがめ合いを互いにしていた男女が」

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