つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

古語辞典比較〜ならなくに

なるべくどの辞書にも載っていて、解釈が分かれる語を比較するのが面白かろうと思い、『ならなくに』を比較してみる。


❄參考古語辭典學生版(江波煕編著、1940年2月、中文舘書店)

★ならなくに 「でないのに」
[例]絲によるものならなくに別れ路の心細くもおもほゆるかな(古今集、羇旅歌)=絲によるものは皆細いが、私の心は絲によるものでないのに、故郷に別れて遠く旅路に出るのは、心細く思はれることよ。


❄明解古語辞典/初版(金田一春彦編修主任、1953年4月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに
㈠……ナイノニ。「み山には松の雪だに消え━━、(ソレニヒキカエ)都は野辺の若菜摘みけり」〔古今〕。
㈡……ナイ以上ハ。……ナイノダカラ。「誰をかも知る人にせん高砂の松も昔の友なら━━(=友デハナイ以上ハ)」〔古今〕。
㈢……ナイノダナア。「もろこしの吉野山にこもるとも、おくれんと思ふ我なら━━」〔古今〕


❄明解古語辞典/改訂版(金田一春彦編修主任、1958年12月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに[ほぼ初版に同じ]
吉野山」を「吉野の山」に変更。


❄新明解古語辞典/第二版(金田一春彦編修主任、1977年12月、三省堂

★ならなくに(連語)
❶……デハナイノニ。「つれづれと空ぞ見らるる、思ふ人天降(あまくだ)り来むもの━━」〔和泉式部集〕
❷……デハナイ以上ハ。……デハナイカラ。「誰をかも知る人にせむ、高砂の松も昔の友━━」〔古今・雑上・909〕
❸……デハナイノダナア。……デハナイモノヲ。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我━━」〔伊勢・1〕


❄新明解古語辞典/第三版(金田一春彦編修主任、1995年1月、三省堂

[第二版に同じ]


❄角川古語辞典/改訂版(武田祐吉久松潜一編、1963年1月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ぬ」の未然形「な」+準体助詞「く」+終助詞「に」〙そうではないのに。それではないのに。「なでしこが花のみ訪(と)はむ君━━」〔万・4447〕「住吉(すみのえ)の松━━久しくも」〔大和〕


❄角川新版古語辞典(久松潜一・佐藤謙三編、1972年12月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞の未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙そうではないのに。それではないのに。「なでしこが花のみ訪(と)はむ君ならなくに」〔万20・4447〕「住吉の松ならなくに久しくも」〔大和11〕


❄旺文社古語辞典/中型新版(今泉忠義・守随憲治監修、鳥居正博編集責任、1965年2月、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。「みちのくのしのぶもぢずり(=序詞)誰ゆゑに乱れそめにし我━━(=アナタ以外ノ人ノセイデ心ガ乱レ始メタ私デハナイノニ)」〈伊勢〉「たれをかも知る人にせむ(=ダレヲ友ニシヨウカ)高砂の松も昔の友━━(=昔カラノ友デハナイノニ)」〈古今・雑上〉[語法]断定の助動詞「なり」の未然形に打消しの助動詞「ぬ」未然形+接尾語「く」がつき、さらに接続助詞「に」がついたもの

❄旺文社古語辞典/新版(松村明今泉忠義・守随憲治編、1981年10月、旺文社)

★ならなくに〔[組成]断定の助動詞「なり」の未然形に、打消の助動詞「ず」のク語法「なく」、接続助詞「に」のついたもの〕……ではないのに。……ではないから。「みちのくの信夫もぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4〉

❄旺文社古語辞典/第九版(松村明・山口明穂・和田利政編、2001年10月、旺文社)

★ならなくに〔[組成]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法「なく」+「に」〕……ではないのに。「みちのくの信夫もぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4〉


❄時代別国語大辞典上代編(沢瀉久孝編者代表、1967年12月、三省堂

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに⇒【項目ナシ】


❄基本古語辞典/改訂版(小西甚一編、1969年11月、大修館書店)

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに〘連語〙
㋑……ないことだのに。……ないのに。「安積山影さへ見ゆる山の井の(ヨウニ)浅き心をわが思は━━(=浅イ心デアナタヲ思ッテハイナイノニ)」〔万葉・巻16〕
㋺……ないことだから。……でない以上は。「今さらに君はい行かじ(=帰ロウトハナサルマイ)春雨の(アナタヲ帰サナイタメ降ッテイル)心を人の知らざら━━(=アナタハゴ存ジナイワケデアリマセンカラ)」〔万葉・巻10〕
㋩……ないことだなあ。「風吹けば黄葉散りつつ(=シキリニ散ッテ)すくなくも(=スコシバカリノ)吾の松原(ハ)清から━━(=美シサデハナイコトダ)」〔万葉・巻10〕〘「すくなくも」は「清からなくに」を修飾する〙


講談社古語辞典(佐伯梅友・馬淵和夫編、1969年12月、講談社

★ならなくに(連語)〔「なら」は断定の助動詞「なり」の未然形、「な」は否定の助動詞「ず」の古い未然形、「く」は接尾辞、「に」は詠嘆の終助詞〕ではないのに。ということはないのに。「一年(ひととせ)に二たびかよふ君━━」〈万・2077〉


❄詳解古語辞典(佐藤定義編、1972年11月、明治書院

★ならなくに(連語)〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞の古い未然形「な」+名詞をつくる接尾語「く」+間投助詞「に」〕……ではないことなのになあ。……ではないのになあ。「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友━━」〈古今・雑上〉


❄新訂詳解古語辞典(佐藤定義編、1982年10月、明治書院

[初版に同じ]


❄最新詳解古語辞典(佐藤定義編、1990年10月、明治書院

★ならなくに(連語)〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞の古い未然形「な」+名詞をつくる接尾語(一説、準体助詞)「く」+間投助詞「に」〕……ではないことなのになあ。……ではないのになあ。「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友━━」〈古今・雑上〉◎文中に用いて「……ではないのに」という逆接条件を表すこともあり、これを接続助詞ととる説もある。


❄新選古語辞典/新版(中田祝夫編、1974年1月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」、打消の助動詞「ぬ」の未然形「な」、準体助詞「く」、助詞「に」より成る。「に」はもと格助詞。文末にある時は、特に詠嘆の意をもつので、終助詞〙……ではないのに。「よそにのみ見てや渡らも(=日ヲ過ゴスノダロウカ)難波潟雲居に見ゆる島━━」〈万・4355〉。「かくしつつ世をやつくさむ高砂の尾上にたてる松━━」〈古今・雑上〉。


❄岩波古語辞典/初版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1974年12月、岩波書店

★ならなくに⇒【項目ナシ】
★なくに〘連語〙《打消の助動詞ズのク語法ナクと助詞ニとの複合》……でないのに。「明日香川川淀去らず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあら━━」〈万325〉。「花だにもまだ咲か━━うぐひすの鳴く一声を春と思はむ」〈後撰36〉


❄岩波古語辞典/補訂版(大野晋佐竹昭広・前田金五郎編、1990年2月、岩波書店

[初版に同じ]


❄角川最新古語辞典/増補版(佐藤謙三・山田俊雄編、1980年1月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙上代・中古の和歌に用いられる。体言・準体言、活用語の連体形に付く。……ではないことだなあ。……ではないことよ。……ではないのに。「幣(まひ)しつつ君がおほせる撫子(なでしこ)が花のみ訪(と)はむ君ならなくに(=アナタデハナイコトダナア)」〔万葉20・4447〕「物思ひの深さ比べに来て見れば夏の茂りも(=夏草ノ茂リノ深サモ)物ならなくに(=問題デハナイコトヨ)」〔蜻蛉・中・天禄二年〕「めづらしき声ならなくに(=声デハナイノニ)ほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀・359〕


❄古語大辞典(中田祝夫・和田利政・北原保雄編、1981年12月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」の未然形「な」+準体助詞「く」+接続助詞「に」〙……ではないのに。「磐畳かしこき山と知りつつも我は恋ふるか同等(なみ)━━[不有爾]」〈万葉・7・1331〉。「幣(まひ)しつつ君がおほせるなでしこが花のみ訪はむ君━━[奈良奈久爾]」〈万葉・20・4447〉。「白妙の浪路を遠く行き交ひて我に似べきはたれ━━」〈土左・12月26日〉


❄例解古語辞典/第二版(佐伯梅友・森野宗明・小松英雄編、1985年1月、三省堂

★ならなくに〈連語〉……ではないことだ。……ではないのに。
[用例]
(a)「陸奥の忍綟摺(=ココマデ序)誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〔伊勢・一段〕
[解]あなた以外の誰のために思い乱れはじめた私ではありませんよ、の意。ただあなたのためなのですと訴えている。
(b)「めづらしき声ならなくに、ほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀〕
[解]「ここら」は、数の多いこと。
[語形]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+上代の助詞「く」+間投助詞「に」。


❄学研新古語辞典(市古貞次編、1986年12月、学習研究社

★ならなくに{[成立ち]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消しの助動詞「ず」のク語法「なく」+「に」}……ではないのだが。……ではないのに。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」〈古今・恋4・724〉


三省堂セレクト古語辞典(桑原博史編者代表、1987年12月、三省堂

★ならなくに(連語)
「なら」は断定の助動「なり」の未然形、「な」は打消しの助動「ず」の古い未然形、「く」は上代の準体助、「に」は間投助。
❶……ではないのに
[用例]「誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢〉
[訳]あなたのほかの誰のために、心乱れようとする私だろうか、そうではないのに(=あなたのために乱れているのだ)。


❄角川必携古語辞典(山田俊雄・吉川泰雄編、1988年11月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+接尾語「く」+接続助詞「に」〙上代・中古の和歌に用いられる。〔接続〕体言・準体言、活用語の連体形に付く。〔意味・用法〕……ではないことだなあ。……ではないことよ。……ではないのに。「陸奥のしのぶもぢ摺(=ココマデ「乱れ」にカカル序詞)誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〔伊勢・1〕「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〔古今・賀〕


❄要語全訳必修古語辞典(平田喜信編、1992年2月、学習研究社

★ならなくに 連語 {断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消しの助動詞「ず」の古い未然形「な」+体言化する接尾語「く」+間投助詞「に」}……ではないことよ。……ではないのに。「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我━━(⇨忍綟摺り)」〈伊勢・1〉


講談社キャンパス古語辞典(馬淵和夫編、1995年11月、講談社

★ならなくに(連語)〘断定の助動詞「なり」の未然形に打消の助動詞「ず」の古い未然形、接尾辞「く」、助詞「に」の付いた形〙……ではないのに。……ということはないのに。「乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉


❄ベネッセ全訳古語辞典(中村幸弘編、1996年11月、ベネッセコーポレーション

★ならなくに ……ではないのに。……ではないのだから。……ではないのだなあ。
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに[百人一首]〈古今集・雑上・909〉
[発展]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」。


❄ベネッセ全訳コンパクト古語辞典(中村幸弘編、1999年11月、ベネッセコーポレーション

[ベネッセ全訳古語辞典に同じ]


❄旺文社高校基礎古語辞典/第二版(旺文社編集部編、1997年、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我ならなくに」〈古今・恋4〉
[なりたち]なら(断定の助動詞「なり」の未然形)+な(打消の助動詞「ず」の未然形の古い形)+く(接尾語)+に(間投助詞)。


❄ベネッセ古語辞典(井上宗雄・中村幸弘編、1997年11月、ベネッセコーポレーション

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」〙……でないのに。……でないのだから。「幣(まひ)しつつ君がおほせる石竹花(なでしこ)花のみ訪はむ君ならなくに」〈万20・4447〉


❄古語林(林巨樹・安藤千鶴子編、1997年11月、大修館書店)

★ならなくに〔助動―助動―接尾―接助〕
❶〜ではないことなのに。〜ではないのに。〜ではないことなのになあ。
[例]糸によるものならなくに別れ路の心細くも思ほゆるかな〈貫之・古今・羇旅〉
❷〜でないのだから。〜ではないからには。
[例]高砂の松も昔の友ならなくに〈古今・雑上〉
❖「なら」は断定の助動詞「なり」の未然形。「なくに」は、打消の助動詞「ず」を名詞化したク語法の語「なく」に接続助詞「に」が付いたもの。▶「に」を格助詞とする説もある。


❄全訳古語例解辞典/第三版(北原保雄編、1998年1月、小学館

★ならなくに〔連語〕〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消しの助動詞「ず」の古い未然形+準体助詞「く」+助詞「に」〙
❶〘文末に用いて〙……ではないことだなあ。……ではないのだよ。
[例]「陸奥のしのぶもぢ摺り誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉
[訳]陸奥で産するしのぶもぢ摺りの乱れ模様のように、(あなた以外の)誰かのせいで思い乱れ始めた私ではありません(みんなあなたのせいなのです)。
❷〘文中に用いて〙……ではないのに。
[例]「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〈古今・賀・359〉
[訳]目新しい声ではないのに、ホトトギスは長年にわたって飽きずに鳴き続けているものだなあ。
[参考]❷の用法の「に」は接続助詞と考える説もある。


三省堂詳説古語辞典(秋山虔渡辺実編、2000年1月、三省堂

★ならなくに ……ではないのに。
[例]「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈古今・恋4・724〉
[訳]陸奥の信夫のしのぶ草ですり染めした模様が乱れているように、あなた以外のだれのせいで心が乱れはじめた私ではないことですのに。
[語構成]
なら(断定の助動詞「なり」の未然形)なく(打消の助動詞「ず」・名詞化)に(格助詞)
        

三省堂全訳読解古語辞典/第二版(鈴木一雄編者代表、2001年1月、三省堂

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い形の未然形「な」+接尾語「く」+終助詞「に」〙
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[要説]上代平安時代の和歌に用いられた表現。
体言や活用語の連体形に接続し、詠嘆・感動の気持ちを表して、文末で終助詞的に(❶)、文中で接続助詞的に(❷)用いられる。
1.……ではないことだなあ。……ではないことよ。……❶
2.……ではないのに。……❷
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
❶(文末に用いられて)……ではないことだなあ。……ではないことよ。
[例]「もの思ひの深さくらべに来て見れば夏の茂りもものならなくに」〈蜻蛉・中〉
[訳]私のもの思いと夏草の繁茂と、どっちが深いか比べてみようと思って(鳴滝に)やって来ましたが、夏草の茂りなど物の数ではなかったことです。
❷(文中に、また倒置法の場合は文末に用いられて、接続助詞的に)……ではないのに。
[例]「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」〈伊勢・1〉
[訳]陸奥で産するしのぶもじずりの乱れ模様のように、あなた以外のだれのために心が乱れはじめた私ではないのに。


❄角川全訳古語辞典(久保田淳・室伏信助編、2002年10月、角川書店

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法+格助詞「に」〙❶(逆接を表し)……ではないのに。[例]住の江の松ならなくに久しくも君と寝ぬ夜のなりにけるかな〈大和・11〉[訳](久しいことの例の)住の江の松ではないのに、久しいあいだ、あなたと寝ない夜となってしまったなあ。❷(文末にあって、詠嘆の意を添える)……ではないのだなあ。……ではないことよ。[例]唐土の吉野の山にこもるとも遅れむと思ふ我ならなくに〈古今・雑躰・1049〉[訳](あなたが)唐の国の吉野の山にこもるとしても、あとに取り残されようと思うわたしではないのだなあ。


❄全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版(菅野雅雄・中村幸弘編、2002年12月、学習研究社

★ならなくに[連語]
❶……でないことだなあ。……ではないのだよ。▷文末に用いる。[古今集]恋4「誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」
❷……ではないのに。▷文中に用いる。[古今集]賀「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」[訳]目新しい声ではないのに、ほととぎす(の声)は長年(聞いても)飽きないものだなあ。
[なりたち]断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+体言化する接尾語「く」+助詞「に」


❄学研全訳古語辞典(小久保崇明編者代表、2003年12月、学習研究社

[全訳用例古語辞典/第二版/ビジュアル版に同じ]


❄旺文社全訳古語辞典/第三版(宮腰賢・桜井満・石井正己・小田勝編、2003年10月、旺文社)

★ならなくに ……ではないのに。……ではないから。
[古今]恋4「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふ我━━」
[なりたち]断定の助動詞「なり」の未然形「なら」+打消の助動詞「ず」のク語法「なく」+助詞「に」
[参考]「に」は格助詞、断定の助動詞「なり」の連用形、接続助詞などの諸説がある。


❄全訳全解古語辞典(山口堯二・鈴木日出男編、2004年10月、文英堂)

★ならなくに〔断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」のク語法+接続助詞「に」〕
❶文末に用いる。〜でないのだなあ。〜ではないことよ。
[例]陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに〈伊勢・1〉
❷文中に用いる。〜ではないのに。〜でないにかかわらず〜なのは残念である。
[例]めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を(=毎年聞いても)飽かずもあるかな〈古今・賀〉


❄東書最新全訳古語辞典(三角洋一・小町谷照彦編、2006年1月、東京書籍)

★ならなくに〘断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形+接尾語「く」+助詞「に」〙
❶……ではないのだなあ。
[例]「もの思ひの深さ比べに来てみれば夏の茂りもものならなくに」〈蜻蛉・中〉
[訳]「(私の)もの思い(の深さ)と(夏草の)深さを比べに来てみると、夏草の繁茂などたいしたことではないのだなあ」
❷……ではないのに。また、……ではないのだから。
[例]「めづらしき声ならなくにほととぎすここらの年を飽かずもあるかな」〈古今・賀・359〉
[訳]「珍しい声ではないのに、ほととぎすは、長い年月の間(私はよく)聞き飽きないものだなあ」