つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

露出形と被覆形

【これは以前にはてなハイクに書いたもののコピーです】



日本語の名詞の中には単独で使われる場合と複合語として使われる場合とでは語形が異なる名詞がある。

狂言『舟ふな』ではシテと太郎冠者が「ふね」が正しいか「ふな」が正しいかで言い争いをしているように、この現象は古くから注目されて来た。

昭和になって国語学者有坂秀世によって単独でも使われる語形は露出形、複合語の中にだけ現れる語形は被覆形と名付られた。

ところが何故か国語学大辞典にも露出形・被覆形の項目が無いので、此処で私の考えを書いておきたい。


露出形・被覆形の組合せには幾つかのパターンがある。

①露出形の語尾ë〜被覆形の語尾a

酒sakë〜saka(酒屋)
影kagë〜kaga(鏡←影見)
竹takë〜taka(篁←竹叢)
毛kë〜ka(白髪…連濁によりsiraka→siraga)
目më〜ma(眼←目な子)等

また舟hune〜huna(船乗り)手te〜ta(手綱)のように露出形e〜被覆形aの組合せになっているものも古くは露出形ë〜被覆形aであったと推定して同タイプと考える。

②露出形の語尾 ï 〜被覆形の語尾u

神kamï 〜kamu(神さぶ)
身mï 〜mu(鰻mu+nagiナギは長)
木kï 〜ku(果物…木ダ物。ダは連体助詞)等

③露出形の語尾ï 〜被覆形の語尾ö

木kï 〜kö(梢)

④露出形の語尾o〜被覆形の語尾a

白siro〜sira(白菊)



【本来は被覆形だった語形が露出形としても使われるようになって本来の露出形が死語化したものもある。
粒は本来は露出形tubï 〜被覆形tubuだったが被覆形のツブが露出形でも使われるようになってツビは死語になった。
赤akë〜akaも被覆形のアカが露出形でも使われるようになってアケは露出形としては使われなくなり、逆に人名の朱実(あけみ)など被覆形的な使い方がされるようになった】




何故露出形と被覆形という二つの語形が生じたかについては現在のところ二つの説が出されている。

A説(母音交替説)

被覆形の方が古い語形であり、a→ëの母音交替によって露出形の語形に変わった後も古い語形が複合語の中に残ってしまったと考える。

B説(i 添加説)

雨空のアマには形容詞的な働きがあり、これに「こと」「もの」の意味を持つ i を加える事で名詞化した結果ama+ i →amëのように語形変化した。



母音交替説の場合は母音交替が起きた理由を明確に説明できないのが難点。また坂はサケにならずに酒がサケになったのは何故かなども説明困難。

i 添加説の場合は、①②③のケースは説明出来ても④のケースは被覆形+ i はëになってしまうので説明出来ない。また普通形容詞より名詞の方が先に成立するものだと思う。



そこで私の考えだが、露出形の語尾が全て合成母音である事に注目した。

おそらく4〜5世紀頃だろうが日本語から連母音が消えるという現象があった。この時にui 及びöi → ï 、ia→e、ai →ë、au及びua→oという母音の合成が行われ日本語の母音が8母音になった。

しかし新しく生まれた合成母音は母音調和に馴染まなかったので複合語の中には入り込む事ができず、複合語の中では第二母音の脱落という形を取ったので露出形とは違う語形=被覆形になった。こう考えれば①〜④全てを合理的に説明できます。


①sakai→連母音の合成→sakë
 sakai→第二母音の脱落→saka
②kamui →連母音の合成→kamï
 kamui→第二母音の脱落→kamu
③köi →連母音の合成→kï
 köi →第二母音の脱落→kö
④sirau→連母音の合成→siro
 sirau→第二母音の脱落→sira


http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2019/02/23/012125