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語源を考える~『ぐれる』

【これは以前にはてなダイアリーに書いたもののコピーです】



「悪の道に入る」の意味の『ぐれる』の語源について「暮らしのことば語源辞典」(山口佳紀編、1998年、講談社)には、こう書かれている。


《ぐれる》
不良になる。悪の道に入る。
 語源は、グレハマのグレに活用語尾をつけて動詞化したものという。グレハマはグリハマの転で、グリハマはハマグリ(蛤)をひっくり返して成った語。ハマグリの二枚の貝殻はぴたりと合わさるものだが、ひっくり返すとどうにも合わなくなることから、物事が食い違うことをいう。江戸末期の歌舞伎『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』に「それから、島で窮屈な勤めが嫌さにぐれ始め」の例がある。〚佐々木文彦〛
✻青砥稿花紅彩画 江戸時代の歌舞伎世話物。通称『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』。河竹黙阿弥作。日本駄右衛門・忠信利平・南郷力丸・赤星十三郎・弁天小僧の五人の盗賊を主人公とする白浪物の代表作。文久二年(1862)初演。


またネットの語源辞書「語源由来辞典」にはこうある。


《グレる》
【意味】グレるとは、少年や青年が、反社会的・反抗的な行動をとるようになること。不良になること。
【グレるの語源・由来】
グレるは「ぐれはま」の「ぐれ」に活用語尾「る」を付け、動詞化したものである。
「ぐれはま」は、「蛤(はまぐり)」をひっくり返して成った語「ぐりはま」の転である。
これらの語は、ハマグリの貝殻をひっくり返すと合わなくなることから、物事が食い違うことを意味していた。
江戸時代末期の歌舞伎『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』には、「それから、島で窮屈な勤めが嫌さにぐれ始め」といった例が見られる。


これ、完全に「暮らしのことば語源辞典」のパクリですね。出典ぐらい書いとけよ、全く。
さらにネットの語源辞典。


《ぐれる》
不良になること。
【ぐれるの由来・語源】
「あてが外れる」という意味の俗語「ぐりはま」が訛った「ぐれはま」を略したものに、名詞を動詞化する接尾語『る』をつけたもの。
「ぐりはま」は「ハマグリ(蛤)」をひっくり返した語で、ハマグリの2枚の貝殻はピタリと合わさるものだが、ひっくり返すとどうにも合わなくなることから、物事が食い違うことをいう。また、不良行為・非行行為をするようになるという意味でも、江戸時代から用いられるようになった。
現代ではグレるとカタカナで表記することも多い。
〘由来・語源辞典〙


《ぐれる》
生活態度が悪くなり不良になること。また、見込みがはずれること。
【語源】
〈1〉ハマグリ説
 二枚貝であるハマグリは、対の殻以外とは決して重なりません。その事を利用して、平安末期の貴族の間で「貝覆い」という遊びがはやりました。今のトランプの「神経衰弱」のように内側の絵柄を合わせていくというルールです。ハマグリが合わないことを倒語にして「ぐりはま」と言うようになり、それが「ぐれはま」と訛って、「ぐれはまる」→「ぐれる」という動詞として使われるようになりました。
〈2〉繰る説
 繰る、狂う、という表現が変化して「くる」「くれる」と使われていたのが、悪いイメージに合う濁った音で「ぐれる」と表現されるようになり、一般に広まりました。
〈3〉ぐれぐれ説
 ぐらぐらする、ぐらつく、はずれる、という意味の「ぐれぐれになる」という表現が略されて「ぐれる」となりました。
✻豆知識
 「貝覆い」のことを、現在では「貝合わせ」と混同している人がいますが、両者はルールが全く違います。「貝合わせ」は、中世貴族社会で盛んだった「合わせもの」の流れを汲んだ室内遊戯です。左右に分かれてお互いが持ち寄った珍しい貝を出して、形や色彩等を比べて、それらにちなんだ和歌を詠み「貝と和歌との総合で採点される」という遊びでした。持ち寄る貝の種類は、巻貝だろうが二枚貝だろうが形が美しければ何でもよかったのです。一方、「貝覆い」はハマグリだけを用いた遊びで、ハマグリが対の殻以外とは決して重ならない事を利用してぴたりと合う貝を探すという遊びです。この「必ずお決まりの一対」というハマグリの特徴は、貞節の象徴や夫婦和合の印とされ、近世では貝桶が輿入れの調度品として準備されて嫁入り行列の最初に運ばれるようにもなりました。〘あははっ 語楽〙


《ぐれる》
ぐれるとは不良になること。
【年代】江戸時代〜
『ぐれる』の解説
ぐれるとは「あてが外れる」という意味の俗語『ぐりはま』が訛った『ぐれはま』を略したものに、名詞を動詞化する接尾語『る』をつけたもので、不良行為・非行行為をするようになるという意味で古く江戸時代から使われている。『ぐれはま』自体は「不良」という意味を持っていない。一説にはぐれるという行為が「親が望む子の姿から(あてが)外れた」ということから、動詞化の際に「不良」という意味をもったと言われている。また、現代ではグレるとカタカナを交えた表記を使うことも多い。
〘日本語俗語辞書〙


グレる【ぐれる】の名前の由来語源・成り立ち
【意味】
ぐれるとは、不良になる。生活態度が地道でなくなる。不良化する。
【語源・由来・成り立ち】
ぐれるの語源・由来について、貝のハマグリが起源である。つまりハマグリは一つ一つ微妙に形が違っており、他のハマグリの殻とは合わない。そこから、「貝合わせ」と言う遊びができた。
そこで、ハマグリ(合う)⇒グリハマ(チグハグでかみ合わない)⇒グレハマ⇒グレと変化していった。
江戸時代は、物事が食い違ったり、当てが外れるときに使ったとされる。愚連隊(ぐれんたい)などという表現もこの言葉の変化である。
【実例・用例】
✶別れた妻に送る手紙(1910)〈近松秋江〉「国で卒業して、東京に出てから、ぐれるといふこともあるかも知れぬが」
✶生活の探求(1937〜38)〈島木健作〉四「あいつは、ぐれちゃったらしいんでね」
【漢字辞典】
「グレる」「ぐれる」の漢字表記は不明。
〘ユライカ


こうして見ると〘あははっ 語楽〙だけが自分で調べたり考えたりしている様子が窺えるけど、他はお手軽に他人の書いたものを引用して博学ぶってるだけだね。

一方、日本語源大辞典(前田富祺監修、2005年、小学館)にはこうある。


《ぐれ-る》
▼「ぐれ」の動詞化したもの。「ぐれ」は「ぐりはま」が変化した「ぐれはま」の略。
㈠予期した事が食い違う。見込みがはずれる。✦(初出)人情本・氷縁奇遇都の花 1831
㈡生活態度が地道でなくなる。不良化する。✦(初出)滑稽本浮世床 1813-23
[語源説]
❶ハマグリ(蛤)を逆にしたグリハマという語をグレハマと訛り、それが動詞化されたもの。ハマグリは対でない他の貝と合わせると、食い違うところから〈猫も杓子も=楳垣実〉。
❷マグレルの上略〈大言海〉。
❸クル(繰)から〈俚言集覧〉。
❹ぐれぐれになる、はずれる、ぐらつくの意〈江戸語大辞典=前田勇〉。


ここで気がつくのは㈡の意味の方が㈠よりも初出が早いということ。もしグリハマ由来なら先に㈠の意味が現れて後から㈡の意味が出て来るはずなのにそうなってない。ということは二つの『ぐれる』は同音異義語であって由来が違うのではないかと疑われる。


そこで全国方言辞典(東條操編、1951年、東京堂出版)を見たらこんな語彙が出て来た。


ぐれ…乞食。こじき愛媛県南部・高知県宿毛市
くれーずかし…徒食者。長野県北佐久郡
ぐれたや…浮浪人。群馬県吾妻郡。
ぐれっぱち…うそ。群馬県碓氷郡
くれはし…端。はしくれ。「人間のクレハシ」壱岐
ぐれる…①怠ける。長野県上田。②家を留守にして出歩く。大分。


どうやら元々方言で「遊び歩く」というような意味の『ぐれる』という言葉があり、それが江戸に入って江戸でも使われるようになったのではないか。その場合の『ぐれ』は「はしくれ=取るに足らないもの」の意味だったのではないかと私は考える。