つらつら思うこと

特にテーマは決めずに書きます

古典文法書比較①助動詞「り」

初心者向け古典文法書も少し数が増えて来たので、内容の比較をしてみたい。

対象とする本は以下の各書。

❂【古文解釈のための國文法入門】(松尾聰著、1952年1月、研究社学生文庫)
❂【古典文法/新修版】(松村明編著、1976年1月、明治書院
❂【簡明文語文法/新訂版】(成田杢之助編、1976年1月、京都書房)
❂【解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版】(金子金治郎・鈴木一雄監修、江口正広著、1988年1月、尚文出版)
❂【古典にいざなう新古典文法】(北原保雄編著、1992年4月、大修館書店)
❂【読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版】(浜本純逸監修、黒川行信編著、1996年2月、数研出版
❂【精選古典文法/改訂版】(築島裕・白藤禮幸監修、稲沢好章・浅田孝紀・窪谷徹・皆河洋編著、1999年1月、明治書院
❂【完全傍訳・やさしく詳しい古典文法】(水野左千夫編、2000年1月、尚文出版)
❂【シグマベスト/標準新古典文法】(山口堯二著、2000年1月初版1刷2007年12刷、文英堂)
❂【よくわかる新選古典文法/改訂版】(小町谷照彦監修、安達雅夫・池田匠・芝崎正昭・福島公彦編著、2001年2月、東京書籍)
❂【解釈のための必携古典文法/改訂版】(萩原昌好監修、2005年1月、中央図書)
❂【基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版】(桐原書店編集部編、2006年11月、桐原書店
❂【望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編】(望月光著、2007年4月、旺文社)
❂【読解をたいせつにする体系古典文法/七訂版】(浜本純逸監修、黒川行信編著、2008年11月、数研出版
❂【シグマベスト/読解のための必修古典文法】(宇都宮啓吾・横田隆志・西川兼司編著、2009年1月、文英堂)
❂【新修古典文法/二訂版】(荻野文子編著、2010年1月、京都書房)
❂【基礎から解釈へ・新しい古典文法/四訂新版】(岩淵匡・坂梨隆三・林史典監修、有座俊史・豊島秀範・宮下拓三・山田繁雄編著、2010年11月、ピアソン桐原)
❂【古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法/新版二訂】(金子彰・野村貴郎・山口豊編、2012年1月、第一学習社
❂【読解をたいせつにする体系古典文法/八訂版】(浜本純逸監修、黒川行信編著、2013年11月、数研出版



❄助動詞「り」の接続について(異説にも触れているか)


❖四段活用の命令形とサ変活用の未然形に接続するとするもの


★「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)

「四段の已然形・サ変の未然形につく」とする考えや、「四段・サ変の命令形につく」とする考えもある。(P66)

★「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)

「り」はサ変には命令形に、四段には已然形に付くとする説もある。(P51)

★シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)

「り」は、四段動詞には已然形に付くとする説と、命令形に付くとする説とがある。
奈良時代には已然形と命令形とで少し発音の違う語があり、「り」が命令形に付いていたことがわかるため、命令形接続説のほうが主流になっている。ただし、平安時代以後はそれらも同音になるので、奈良時代を除けば、已然形接続としても差し支えない。(P60)

★「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)

サ変・四段とも命令形接続、あるいは、サ変は未然形・四段は已然形接続という説もある。(P44)

★「よくわかる新選古典文法」(小町谷照彦監修、2001年)

四段活用の已然形に接続するという説もある。(P47)

★「完全傍訳やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)

「り」は四段動詞につく場合、命令形につくとする考えと、已然形につくとする考えがある。(P63)

★「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編著、1992年)


❖四段活用の已然形とサ変活用の未然形に接続するとするもの

★「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)

「り」の接続については、四段・サ変活用動詞の命令形につくという説もある。(P48)

★「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版」(浜本純逸監修、1996年)

四段・サ変の命令形に接続するという説もある。(P58)

★「読解をたいせつにする体系古典文法/七訂版」(浜本純逸監修、2008年)
★「読解をたいせつにする体系古典文法/八訂版」(浜本純逸監修、2013年)

四段活用の命令形、サ変活用の命令形に接続するという説もある。(P58)

★「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法」(金子彰他編、2012年)

サ変動詞および四段動詞の命令形に接続するという説もある。(P50)

★「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)

なお、「り」は四段活用の已然形につくと言われているが、上代の特殊仮名遣いからいうと、命令形につくというのが正しいと橋本進吉博士は説いて居られるが、今、語の解釈の上には、直接影響がないから、くわしくは述べないでおく。(P85~86)

★「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)

「咲け」を已然形とする説と命令形とする説がある。(P68)

★「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)

※四段の接続は命令形説も。(P66)

★「基礎から解釈へ・新しい古典文法」(岩淵匡他監修、2010年)

※四段動詞の命令形に接続という説もある。(P56)

★「古典文法新修版」(松村明編著、1976年)
★「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
★「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)


🔴四段動詞については命令形接続説と已然形接続説とに分かれたが、サ変動詞への接続について命令形接続説をとるものは無かった。

サ変動詞への命令形接続説があることを注記しているのは
●「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)
●「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)
●「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版〜八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)
●「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
●「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)
●「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法」(金子彰他編、2012年)
の各書だった。
異説をきちんと紹介しているという点ではこれらの書は評価できる。
一方で異説のあることに全く触れていない
●「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編著、1992年)
●「古典文法新修版」(松村明編著、1976年)
●「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
●「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)
は評価できない。

異説がある中で、何故その接続説を取ったのかについて述べている本が一つも無いのは残念。上代音からみて、上代においては已然形接続は有り得ないことを、命令形接続説の本ですら触れていない。

それでも四段動詞の命令形接続説を取り、かつ異説もきちんと紹介している
●「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)
●「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
●「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)
は、助動詞「り」の接続に関する記述では一番高く評価したい。



❄助動詞「り」の成立起源について触れているか


❖触れているもの

★「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)

「り」も「あり」からできた語といわれ、たとえば「行けり」は「行きあり」の約だと考えられる。(P82)

★「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)

「り」は、四段活用動詞の連用形に「あり」がついてできたものである。(例えば、「行きあり→行けり」)(P65)

★「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編著、1992年)

〈り〉置き+あり→置け+り(P56)

★「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)

「り」は「咲きあり」の kiari の ia が e に変わった「咲けり」などの「り」。(P51)

★シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)

「り」は、〈「咲き」+「あり」→「咲けり」〉のように、動詞の連用形がラ変動詞「あり」を伴って約まったもののうち、「り」を助動詞と見なしたものである。(P60)

★「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)

咲き saki +あり ari →咲けり sakeri
◇「り」の場合は、もともと「あり」の語尾の部分だけを取り出して助動詞としており、「咲け」を已然形とする説と命令形とする説がある。(P68)

★「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)

完了の助動詞「り」は、強引に考えるとほとんどが存続でとれます。なぜかというと、「り」の語源が「あり」だったからなんです。(P97)

★「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)

り……動詞の連用形+「あり」が融合し、やがて「り」が独立。
[例]「書く」+「あり」→「書きあり」→「書けり」(P67)

★「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)

「咲くあり⇨咲きゃり⇨咲けり」で「り」が生まれました。語源に「あり」を含むので、ラ変型で活用し、存続「……てある・……ている」の意味を持ちます。(P60)

★「基礎から解釈へ・新しい古典文法」(岩淵匡他監修、2010年)

「り」……四段・サ変動詞の連用形+「あり」の融合形から「り」を分離して成立。(P56)


❖触れていないもの

★「古典文法新修版」(松村明編著、1976年)
★「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)
★「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版~八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)
★「完全傍訳・やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)
★「よくわかる新選古典文法」(小町谷照彦監修、2001年)
★「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)
★「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法」(金子彰他編、2012年)


🔴成立の起源については触れているに越したことはないのだが、本来連用形接続であり、母音融合の結果としてたまたま命令形(・已然形)・未然形と同じ語形になっただけで、命令や未然等の意味は無いのだということまで書いている本が皆無であったのは残念。

また「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)の記述は全く文献上の事実に基づかないもので、ほとんどトンデモ本レベルの酷いもの。


❄存続の意が基本であることを書いているか。


❖書いているもの。


★「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)

「り」も「あり」からできた語といわれ、たとえば「行けり」は「行きあり」の約だと考えられる。したがってこれも「テイル」または「テアル」と口訳してほゞ当る。つまり「存在」または「継続」の意味をあらわす。(P82)

★「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)

「テイル・テアル」の存続の意がもとで、活用も「あり」と同じラ変型となる。(P65)

★「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編著、1992年)

基本的意味は、存続。(P56)

★「完全傍訳・やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)

「り」は存続の意が基本である。(P63)

★「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)

「り」は完了の助動詞としてまとめられているが、存続の意味の用例が多い。訳すときは、まず存続の訳「……テイル・……テアル」を優先し、ふさわしくないときは完了の訳をあてはめるようにするとよい。

★「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)

完了の助動詞「り」は、強引に考えるとほとんどが存続でとれます。なぜかというと、「り」の語源が「あり」だったからなんです。(P97)

★「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)

「り」は状態を表す動詞「あり」の性質が強く、基本的な意味は存続が中心。(P67)

★「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)

語源に「あり」を含むので、ラ変型で活用し、存続「……てある・……ている」の意味を持ちます。(P60)

★「基礎から解釈へ・新しい古典文法」(岩淵匡他監修、2010年)

「り」は動詞「あり」の性質を強く残しており、意味の中心は存続である。(P56)


❖書いていないもの。

★「古典文法新修版」(松村明編著、1976年)
★「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)
★「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版~八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)
★「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
★シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)
★「よくわかる新選古典文法」(小町谷照彦監修、2001年)
★「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)
★「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法」(金子彰他編、2012年)


🔴これも書いているに越したことはない。「あり」に由来するのが原因であることを記している
●「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)
●「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
●「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)
●「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)
●「基礎から解釈へ・新しい古典文法」(岩淵匡他監修、2010年)
を評価したい。


❄四段活用・サ変活用動詞以外との接続について触れているか。


❖触れているもの。

★「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)

中古語が口語から離れて行った後世
一樓の名月に雨初めて霽れ(下二段)り(謠曲羽衣)
などと誤用していることに注意せられたい。


❖触れていないもの。

★「古典文法新修版」(松村明編著、1976年)
★「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)
★「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)
★「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編著、1992年)
★「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版~八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)
★「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
★「完全傍訳・やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)
★シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)
★「よくわかる新選古典文法」(小町谷照彦監修、2001年)
★「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)
★「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)
★「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
★「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)
★「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)
★「基礎から解釈へ・新しい古典文法」(岩淵匡他監修、2010年)
★「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法」(金子彰他編、2012年)


🔴一部の古語辞典では、上一段活用の「着る」やカ変活用の「来(く)」に「あり」が接続して母音融合を起こした『着(け)り』・『来(け)り』はラ変動詞として扱われているが成立起源から言えば助動詞『り』の場合と同じであることが述べられているが、残念ながら初心者向け古典文法書でこの件に触れている本は無かった。
「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)は『着(け)り』『来(け)り』については触れていないが、下二段接続の誤用例に触れている点で他の本よりは評価できる。


🔵結局助動詞『り』関係の記述では、文法書の中で比較的評価できるのは以下の書あたりか。

●「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)
●「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)
●「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
●「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)