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古典文法書比較③助動詞「らゆ」について

上代の助動詞「らゆ」についての記述を比較してみる。


❖用例が「寝」に接続する「寝らえ」のみであることを明記しているもの

●「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版~八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)

接続:「寝」の未然形にのみ接続する。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「らゆ」は平安時代の「らる」に相当する助動詞である。
用例:ほととぎすいたくな鳴きそ独り居て寝の寝らえぬに聞けば苦しも〈万葉集・1484〉
(P76)

●「完全傍訳やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)

接続:「寝」の未然形につく。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「らゆ」は「寝らえぬ」という可能の用例しかない。
(P79)

●シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)

接続:四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に付く。
活用表:「らえ・らえ・らゆ・らゆる・らゆれ・らえよ」を全て記す。
注:「らゆ」の『万葉集』における実例は、「寝(い)の寝(ね)らえぬに」と使われた未然形しかない。

●「よくわかる新選古典文法/改訂版」(小町谷照彦監修、2001年)

接続:「寝(ぬ)」「寝(い)ぬ」の未然形に接続する。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「らゆ」は「寝」「寝ぬ」の未然形に付き、下に打消の語を伴って不可能の意を表す用例しかみられない。
用例:妹を思ひ眠の寝らえぬに〈万葉集・3665〉
(P70)

●「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年) 

接続:「寝」(一語のみ)の未然形
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
(P68)

●「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)

接続:ナ行下二段「寝」の未然形のみ
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「ゆ・らゆ」は平安時代の「る・らる」に相当する。
「らゆ」は「寝(い)の寝(ね)らえぬ」の形のみで、可能の意味しかない。
(P91)

●「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)

接続:下二段動詞「寝」の未然形
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:活用形の実例は、未然形の「寝の寝らえ」の形でのみ見られる。
用例:妹を思ひ寝の寝らえぬに〈万葉集・3678〉
(P84)

●「基礎から解釈へ新しい古典文法/四訂新版」(岩淵匡他監修、2010年)

接続:下二段動詞「寝」の未然形に。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「らゆ」は、『万葉集』に「寝の寝らえ」の形で見られる。
用例:ほととぎすいたくな鳴きそ独り寝の寝らえぬに聞けば苦しも〈万葉集・1484〉
(P74)

●「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法/新版二訂」(金子彰他編、2012年)

接続:「寝」の未然形のみに接続。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
用例:妹を思ひ寝の寝らえぬに暁(あかとき)の朝霧隠り雁がねそ鳴く〈万葉集・3665〉
(P74)


❖四段・ナ変・ラ変以外の動詞に接続するとしているもの


●「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)

接続:四段・ナ変・ラ変動詞の未然形。
活用表:未然形に「らえ」、連用形に「(らえ)」、終止形に「(らゆ)」、連体形に「(らゆる)」、已然形に「(らゆれ)」、命令形に「(らえよ)」を記す。
注:「らゆ」の用例は、受身・可能・自発を通じて「ねらえぬ」だけである。
用例:妹を思ひ伊能禰良延奴爾(イノネラエヌニ)秋の野にさを鹿鳴きつ妻おもひかねて〈万葉集・3678〉
(P30〜32)

●「古典文法/新修版」(松村明編著、1976年)

接続:右(四段・ナ変・ラ変)以外の動詞の未然形。
活用表:未然形に「らえ」、連用形に「(らえ)」、終止形に「(らゆ)」、連体形に「(らゆる)」、已然形に「(らゆれ)」、命令形に「(らえよ)」を記す。
注:「らる」に相当するものとして奈良時代に用いられた。
括弧のある活用形の用例は見当たらない。「らえ」は「寝の寝らえぬ」の用例だけ残る。
用例:妹を思ひ寝の寝らえぬに暁(あかとき)の朝霧隠り雁がねぞ鳴く〈万葉集・3665〉
(P60)

●「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)

接続:「らゆ」は「らる」(四段・ラ変・ナ変型以外の活用語の未然形に接続)と同じ。
活用表:未然形に「らえ」、連用形に「(らえ)」、終止形に「(らゆ)」、連体形に「(らゆる)」、已然形に「(らゆれ)」、命令形に「(らえよ)」を記す。
用例:夜を長み寝の寝らえぬにあしひきの山びことよめさを鹿鳴くも〈万葉集・3680〉
(P42)

●「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)

接続:四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形につく。
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
注:「らゆ」は意味も活用も「ゆ」に準じて考えられるが、確かな用例は「寝らえぬに」とある可能の一例だけである。
(P59)

●「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編、1992年)

接続:四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に付く。(捨て・らゆ)
活用表:未然形「らえ」のみ記す。
用例:ほととぎすいたくな鳴きそ独り居て寝の寝らえぬに聞けば苦しも〈万葉集1484〉
(P78〜79)


❖「らゆ」についての記述が無いもの

●「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
●「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
●「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)



🔵「古語大辞典」(中田祝夫・和田利政・北原保雄編、1983年、小学館)によれば、平安初期の訓点資料には「らゆ」の連用形・連体形も確認されているそうだが、そこまで触れている書が無いのは致し方無いか。
万葉集には「寝の寝らえぬ」という用例が五例ある〈品詞別日本文法講座・吉田金彦〉そうだが、ここに出ている三例以外は未確認。

実際には「寝」に接続する例しか無いのに《四段・ナ変・ラ変以外の動詞に接続する》としている
●「古文解釈のための國文法入門」(松尾聰著、1952年)
●「古典文法/新修版」(松村明編著、1976年)
●「簡明文語文法/新訂版」(成田杢之助編、1976年)
●「解釈・読解のための新明解古典文法/改訂新版」(江口正広著、1988年)
●「古典にいざなう新古典文法」(北原保雄編、1992年)
助動詞「らゆ」に全く触れていない
●「精選古典文法/改訂版」(築島裕他監修、1999年)
●シグマベスト/標準新古典文法(山口堯二著、2000年)
●「望月光の超基礎がため古文教室・古典文法編」(望月光著、2007年)
●「新修古典文法/二訂版」(荻野文子編著、2010年)
及び実際には用例の無い「寝ぬ」に接続する用例があるかのように書いている
●「よくわかる新選古典文法/改訂版」(小町谷照彦監修、2001年)
は評価を下げざるを得ない。

という事で、助動詞「らゆ」に関する記述では
●「読解をたいせつにする体系古典文法/三訂版~八訂版」(浜本純逸監修、1996年~2013年)
●「完全傍訳やさしく詳しい古典文法」(水野左千夫編、2000年)
●「解釈のための必携古典文法/改訂版」(萩原昌好監修、2005年)
●「基礎から学ぶ解析古典文法/改訂新版」(桐原書店編集部編、2006年)
●「シグマベスト/読解のための必修古典文法」(宇都宮啓吾他編著、2009年)
●「基礎から解釈へ新しい古典文法/四訂新版」(岩淵匡他監修、2010年)
●「古文解釈のための総合力を養う完全マスター古典文法/新版二訂」(金子彰他編、2012年)
を評価したい。