つらつら思うこと

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「かきつばた……」の歌について

伊勢物語第九段の「から衣きつゝなれにしつましあれは はる/\きぬるたひをしそ思」(by静嘉堂文庫本)は、古今和歌集巻第九羇旅の410にも「唐衣きつゝなれにしつましあれははる/\きぬるたひをしそ思」(by伊達家旧蔵本)とあり、古今和歌集には「在原業平朝臣」と作者名が掲載されているので業平真作として扱われ、それを疑うようなことを書いた人を知らない。

しかし、本当にこの歌が業平作かどうかは疑わしいと私は思う。
この歌には折句・序詞・縁語といった技巧が使われ、極言すれば技巧だけで成り立っているような歌だ。

貫之が「その心あまりてことばたらず」と評したように、「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」のようなあまり技巧を使わずに心情をストレートに表現した歌こそが業平らしい歌だとすれば「から衣……」の歌はおよそ業平らしくない歌だと思う。

こういう技巧的な歌を得意にした人となるとまず思い浮かぶのは紀貫之だ。原伊勢物語の作者として貫之の名を挙げる人もいるけれども、原伊勢物語の作者かどうかはともかくとして、「から衣……」の歌の作者が紀貫之である蓋然性は高いと思う。