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辞書における『ねこ』㈠その1.日本国語大辞典etc.

以前にも辞書に『ねこ』がどのように書かれているかを調べてみた(http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2018/05/27/181043)が、日本国語大辞典(初版、縮刷版)を入手できたので、改めてチェックしてみたい。


まず㈠では国語辞典。


日本国語大辞典・初版(日本大辞典刊行会、1975年、小学館

ねこ【猫】〘名〙(鳴き声に、親愛の気持を表わす「こ」の付いたものという)
①ネコ科に属する飼いネコの総称。野生のネコはヤマネコと総称し飼いネコと区別する。しなやかな体をもち、足指の裏には厚い肉瘤があり音をたてずに歩く。ひげ(触毛)は暗所の活動に役立ち、瞳孔(どうこう)は明暗に応じて開閉する。カイネコはイヌに比べて野性的性質を残し従属性に乏しい。ペルシアネコ・シャムネコなどの品種があり、毛色によって三毛ネコ・黒ネコ・トラネコなどと区別する。古代エジプト時代に家畜化され神聖視されたが、現在では愛玩用またはネズミをとるために飼育される。皮は三味線の胴張りに用いる。ねこま。
✱霊異記−上・三〇「我、正月一日狸(ネコ)に成りて汝が家に入りし時、供養せし宍(しし)、種(くさぐさ)の物に飽く。〈興福寺本訓釈 狸 禰己〉
✱枕−九・うへにさぶらふ御猫は「うへにさぶらふ御ねこは、かうぶりにて命婦おとどとて」
✱名語記−四「ねずみとる獣をねことなづく、如何。答、ねこは、猫也。ねかろの反、ねずみにあへば、かろかろしくはたらく也。又、ねきもの反、鼠にあひてきもきもしき心也」
俳諧・焦尾琴−頌「足跡をつまこふ猫や雪の中」
②表面だけ柔和に見せかけること。知っていても知らないふりをすること、また、そのような人。猫かぶり。「猫をかぶる」。
③魚好きであること。また、その人。
✱雑俳・軽口頓作「きとくな事・あのまあ魚喰(ネコ)が夏精進」
④〘猫の皮を用いるところから〙三味線の異称。
人情本・娘太平記操早引−初・四回「サアサア騒ぎやせう騒ぎやせう〈略〉猫(ネコ)を一疋持って来て、何ぞ唸って」
西洋道中膝栗毛仮名垣魯文〉二・上「三弦(ネコ)を一挺かりこんでくんせへナ」
⑤〘三味線を使う職業であるところから〙芸妓の異称。
✱咄本・芳野山「これかこれかと待ち居けるに、猫一人来り」
✱随筆・守貞漫稿−一九「三絃の皮、猫皮を良とす。故に三都とも弾妓を異名して猫と云、常の方言也」
安愚楽鍋仮名垣魯文〉初「芸妓(ネコ)が一枚とびこむと八右衛門がしらまで浮気になってがなりだすとノ」
⑥(「寝子」からか)私娼の異称。近世、大坂では堀江付近、江戸では本所回向院前などに多かったという。また、転じて江戸ではこれらの岡場所の称。
✱随筆・親子草−一・一一「本所回向院前、一つ目弁天門前、此二か所を猫といふ」
✱洒落本・無飽三才図会−二「江州より出づる猫」
✱つよひ物こわい物見立づくし「ねこがよって客をもてなす堀江茶屋」
⑦「ねこぜ(猫背)」の略。
⑧「ねこひばち(猫火鉢)」の略。
⑨「ねこぐるま(猫車)」の略。
⑩「ねこいらず」の略。
✱多甚古村〈井伏鱒二〉私娼と女給の件「燐のにほひが鼻を衝き、猫を嚥んだなと私は直ぐ感じた」
⑪(根子とも)船具の一つ。和船のまつらの端などの端などの押えや当て物として打ちつける小さい木。
✱和漢船用集−一〇・船処名之部「猫なとと云は木に取付の名」
✱席船諸名集図解「ねこと云、物を当る所に打なり」
⑫ふいごの内側についていて空気の出る穴をふさぐ皮。
✱日葡辞書「Neco(ネコ)〈訳〉鍛冶屋のふいごの内部にある皮で、ふいごを押した時、風が出ないように穴をふさぐ役を果すもの」
⑬情人。また、色男。寛政(一七八九〜一八〇一)頃、江戸吉原遊郭での流行語。
✱洒落本・鄽数可佳妓−一日「『舛楼の客人はねこか』『いいへ、おたんちんのほふサ』」
✱洒落本・恵比良濃梅−後序「色男(ネコ)も権七(おたんちん)も、かよひ廓の仲街(なかのてう)」
⑭猫いらずを飲んで死ぬこと、自殺、また病死をいう、てきや・盗人仲間の隠語。〔隠語構成様式并其語集〕
⑮鼻をいう。盗人仲間の隠語。〔日本隠語集〕
⑯巡査・刑事、また警察署などをいう、盗人仲間の隠語。〔日本隠語集・隠語輯覧〕
[方言]①~⑱省略
[語源説](1)~(10)省略
[発音]省略
[古辞書]字鏡・色葉・名義・下学・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言
[派生語]省略


★精選版日本国語大辞典小学館国語辞典編集部、2006年、小学館)※コトバンクより

ね‐こ【猫】
〘名〙 (鳴き声に、親愛の気持を表わす「こ」の付いたものという)
① ネコ科に属する家畜化された飼いネコのこと。野生のネコはヤマネコと総称し飼いネコと区別する。体はしなやかで、足指の裏には厚い肉球があり音をたてずに歩く。ひげ(触毛)は暗所の活動に役立ち、瞳孔(どうこう)は明暗に応じて開閉する。社会性の強いイヌに比べ、ネコは本来が単独生活者で、飼いネコであっても野外で自力でネズミや小鳥などを捕食し野良ネコ化しやすい。ペルシアネコ・シャムネコなどの品種があり、毛色によって三毛ネコ・黒ネコ・トラネコなどと区別する。古代エジプト時代に野生のリビアヤマネコを原種に家畜化された。日本で猫を飼うようになったのは、奈良時代に中国から渡来してから。一説によると仏教伝来の際、経典を鼠の害から守るために猫を添えたという。皮は三味線の胴張りに用いる。ねこま。
※霊異記(810‐824)上「我、正月一日狸(ネコ)に成りて汝が家に入りし時〈略〉〈興福寺本訓釈 狸 禰己〉」
※枕(10C終)九「うへにさぶらふ御ねこは、かうぶりにて命婦おとどとて」
② 表面だけ柔和に見せかけること。知っていても知らないふりをすること、また、そのような人。猫かぶり。「猫をかぶる」
③ 魚好きであること。また、その人。
※雑俳・軽口頓作(1709)「きとくな事・あのまあ魚喰(ネコ)が夏精進」
④ (①の皮を用いるところから) 三味線の異称。
人情本・娘太平記操早引(1837‐39)初「サアサア騒ぎやせう騒ぎやせう〈略〉猫(ネコ)を一疋持って来て、何ぞ唸って」
⑤ (三味線を使う職業であるところから) 芸妓の異称。
※咄本・芳野山(1773)猫「これかこれかとまちゐけるに、ねこ一人(ひとり)来り」
⑥ (「寝子」からか) 私娼の異称。近世、大坂では堀江(西区北堀江)付近、江戸では本所回向院前(墨田区両国二丁目)などに多かったという。また転じて、江戸ではこれらの岡場所の称。
※随筆・親子草(1797頃)一「本所回向院前、一つ目辨天門前、此二箇所を猫といふ」
⑦ 「ねこぜ(猫背)」の略。
⑧ 「ねこひばち(猫火鉢)」の略。
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉中「置火燵には櫓火燵・行火(あんくゎ)・猫(ネコ)・辻番・大和火燵等の類あり」
⑨ 「ねこぐるま(猫車)」の略。
⑩ 「ねこいらず(猫不要)」の略。
※多甚古村(1939)〈井伏鱒二〉私娼と女給の件「燐のにほひが鼻を衝き、猫を嚥んだなと私は直ぐ感じた」
⑪ (根子とも) 船具の一つ。和船のまつらの端などの押えや当て物として打ちつける小さい木。〔和漢船用集(1766)〕
⑫ ふいごの内側についていて空気の出る穴をふさぐ皮。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑬ 情人。また、色男。寛政(一七八九‐一八〇一)頃、江戸吉原遊郭での流行語。
※洒落本・鄽数可佳妓(1800)一日「『舛楼の客人はねこか』『いいへ、おたんちんのほふサ』」


★国語大辞典(尚学図書、1981年、小学館

ねこ【猫】(鳴き声の擬声「ね」に、親愛の気持を表わす「こ」の付いたものという)
①ネコ科に属する飼い猫の総称。野生のネコはヤマネコと総称し飼い猫と区別する。しなやかな体をもち、足指の裏には厚い肉瘤があり音をたてずに歩く。ひげ(触毛)は暗所の活動に役立ち、瞳孔(どうこう)は明暗に応じて開閉する。飼い猫はイヌに比べて野性的性質を残し従属性に乏しい。ペルシアネコ・シャムネコなどの品種があり、三毛・黒・白などの毛色がある。古代エジプト時代に家畜化され神聖視されたが、現在では愛玩用または鼠退治に飼育される。皮は三味線の胴張りに用いる。ねこま。
②表面だけ柔和にみせかけること。知っていても知らないふりをすること、また、そのような人。猫かぶり。『猫をかぶる』
③魚好きであること。また、その人。
④(猫の皮を用いるところから)三味線の異称。
⑤(三味線を使う職業であるところから)芸妓の異称。
⑥(「寝子」からか)私娼の異称。
⑦「ねこひばち(猫火鉢)」の略。
⑧「ねこぐるま(猫車)」の略。
⑨(根子とも)船具の一つ。和船のまつらの端などの押えや当て物として打ちつける小さい木。
⑩ふいごの内側についていて空気の出る穴をふさぐ皮。
[派生語]省略



🔷さすがに日本国語大辞典は語釈の詳しさでは国語辞典の中でも群を抜いている。
ただ、「ねこ」の初出を「日本霊異記」としているのは誤り。「日本霊異記」の成立は822年とされるが、時代別国語大辞典上代編や岩波古語辞典に用例が引かれている「新訳華厳経音義私記」の現存唯一の写本である小川本には「延暦十三年(794年)書写」と奥書にあり、この時点で既に「日本霊異記」の成立より古いが、上代特殊仮名遣いがほぼ正確に書き分けられていることも考えると原本の成立は奈良時代中期か。
 日本国語大辞典の初版と精選版を比較すると、精選版でより詳しい記述になった部分もあるが、初版にあった記述のいくつかが削除されている。
 国語大辞典は用例がかなり削られるなど簡略化されてはいるが、それでも一冊本としては現在でも最も詳しい辞書と言って良い。


http://nobinyanmikeko.hatenadiary.jp/entry/2019/11/16/044810