伊勢物語第6段の翻字
★酒田市本間美術館蔵伝民部卿局筆本(ほるぷ出版刊の複製本による)
昔男有けりをんなのゑあふましかりけるを
としをへていひわたりけるにからうしてをん
なのこゝろあはせてぬすみていてにけりあく
たかはといふ河をゐていきけれは草のう
ゑにをきたる露をかれはなにそと
なむ男にとひけるゆくさきはいとゝほく
よもふけけれは鬼あるところともしらて
雨いたうふりかみさゑいといみしうなり
けれはあはらなるくらのありけるに女
をはをくにをしいれてをとこはゆみや
なくひをおひてとくちにはやよもあけ
なむとおもひつゝいたりけるほとに鬼はや
をんなをはひとくちにくひてけりあらやと
いひけれとかみのなるさはきにゑきかさりけ
りやう/\夜のあけゆくをみれはいてこし
女なしあしすりしてなけとかひなし
白玉かなにそと人のとひし時
露とこたゑてけなましものを
これは二条のきさきの御いとこの女御の
もとにつかうまつりひとのやうにていたまへ
りけるをかたちのいとめてたうおはしけ
れはぬすみていてたりけるを御せうとの
ほりかはの大将もとつねの国経大納言なと
のいまた下らうにてうちへまいりたまふ
にいみしうなく人のあるをきゝつけてとり
かゑしたまひてけりそれをかくをにとは
いゑるなりいまたいとわかうてたゝにきさひ
のおはしけるときとや
★国立歴史民俗博物館蔵二条為氏筆本〈通称大島本〉(岩波書店刊の複製本による)
むかしおとこありけり女の
あふましかりけるをとしを
へてよはひわたりけるをから
うして女こゝろをあはせて
ぬすみいてゝいとくらきにきに
けりあくたかはといふかはを
いていきけれはくさのうへにを
きたりけるつゆをかれはなに
そとゝひけれはをとこをに
あるところともしらて神さへ
いといみしうなりあめもいた
うふりけれはあはらなる
くらに女をはをくにをし
いれておとこはゆみやなくひ
をゝいてとくちにをりはや
よもあけなんと思ひつゝゐ
たりけるにをにはやひとく
ちにくひてけりあなやと
いひけれと神のなるさはき
にえきかさりけりやう/\夜
のあけゆくにみれはゐてこ
し女もなしあしすりをし
てもかひなし
しらたまかなにそと人のとひし
ときつゆとこたえてけなまし物を
これは二条のきさいのいとこの
女御の御もとにつかうまつり
人のやうにてゐ給へりけるを
かたちいとめてたくをはし
けるをぬすみてをうていて
たりけるを御せうとほりかは
の大将太郎もとつねのをとゝ
くにつねの大納言またけらう
にてうちへまいり給にいみし
うなく人のあるをきゝつけ
とゝめてとりかへし給ひてけ
りそれをかくをにとはいへる
(或これよりしもなし)
なりまたいとわかうてたゝにて
きさいのをはしけるときの事
とそいとこの女御はそめとのゝ
きさきなり
★鉄心斉文庫蔵二条為氏筆本〈通称通具本〉(築地書館刊の複製本による)
むかしおとこありけり女のえうましかり
けるをとしをへてよはひわたりける
をからうしてぬすみていとくらきにき
けりあくたかはといふかはをゐていき
けれは草のうゑにおきたりける露
をかれはなにそとなんおとこにとひ
けるゆくさきおほく夜ふけにけれは
おにある所ともしらて神さへいといみし
うなり雨もいたうふりけれはあはらなる
くらに女をはおくにをしいれておとこ
ゆみやなくひをおひてとくちにをりはや
よもあけなんとおもひつゝゐたりける
におにはやひとくちにくひてけりあな
やといひけれと神なるさはきにえきか
さりけりやう/\夜もあけゆくにみれ
はゐてこし女もなしあしすりを
してなけともかひなし
しらたまとなにかと人のとひし時
つゆとこたへてけなましものを
これは二条のきさきのいとこの女御の御もとに
つかうまつるやうにてゐたまへりけるをかた
ちのいとめてたくおはしましけれは
ぬすみておひていてたりけるを
御せうとほりかはのおとゝたらうくにつ
ねの大納言また下らうにてうちへまい
りたまふにいみしうなく人あるをき
きつけてとゝめてとりかへしたまう
てけりそれをおにとはいふなりけり
またいとわかうてきさきのたゝ人にお
はしける時とかや