つれづれ思うこと

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助動詞「む」の未然形について②

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🔷未然形は「(ま)」とするもの
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▲「基本古語辞典・初版」(小西甚一、1966年3月、大修館書店)
 ◎未然形の「ま」は、奈良時代にすでに単独では使われなくなり、いつも「まく」(「く」は接尾語)の形だけが現われる。
梅の花(ノ)散ら[ま]く惜しみわが園の竹の林に鶯鳴くも」〔万葉・巻五〕
「海(わた)の原寄せくる波の(ヨウニ)しばしばも見[ま]くのほしき(=見ルコトガ欲セラレル)玉津島かも」〔古今・雑上〕「まくほし」は助動詞「まほし」の原形。
 ◎まく〔連語〕(推量の「む」の古代未然形「ま」に接尾語「く」の付いた形)……であろうこと。……ようということ。……ようなこと。
「君を思ひわが恋ひ━━は(=恋イ慕ウダロウコトハ)あらたまの(=枕詞)立つ月ごとに避(よ)くる日もあらじ(=例外ノ日ナシデショウ)」〔万葉・巻15〕
 ◎ ━━ほ・し〔連語〕〘「まく」に形容詞「ほし」の付いた形。間に「の」がはいることもある〙……ことがしたい。……でありたい。
「紅に衣染(し)め━━・しけども(=染メタイノダガ)着てにほはばか(=美シカッタラ)人の知るべき(=人ガ気ヅクダロウカ)」〔万葉・巻7〕
「……独りか寝(ぬ)らむ問はまくのほしきわぎもが家の知らなく(=家ガドコカワカラナイコトダ)」〔万葉・巻9〕
 ※「改訂版」(1969年11月)「三訂版」(1974年)も同じ。

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🔷未然形「ま」を認めないもの
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▲「明解古語辞典・初版」(金田一春彦、1953年4月、三省堂
 ◎上代には「まく」という名詞形があった。
 ◎ま・く〘助動詞「む」の名詞形〙……ヨウトスルコト。……ヨウナコト。
「時つ風(枕言葉)吹か━━知らに」〔万〕。
「大宮人の見━━ほしさに」〔勢語〕
 ※「改訂版」(1958年11月)も同じ。

▲「明解古語辞典・新版」(金田一春彦、1962年10月、三省堂
 ◎ま・く〘助動詞「む」に接尾語「く」の付いた形〙……ヨウトスルコト。……ヨウナコト。
「時つ風(=潮時ノ風)吹か━━知らず」〔万・1157〕。
【まく欲し】(「まく」に形容詞「欲し」が付いたもの)……スルコトガシタイ、……アリタイの意。
「しめはへて(=シメナワヲハッテ)守(も)ら━━・き梅の花かも」〔万・1858〕。
「老いぬればさらぬ別れのありといへば、いよいよ見━━・き君かな」〔伊勢〕
 ※「修訂新装版」(1967年11月)も同じ。

▲「新明解古語辞典・初版」(金田一春彦、1972年12月、三省堂
 ◎む(助動特活)〘未然形に「ま」を認める説もある〙
 ◎ま・く〘助動詞「む」の連体形+「あく」の転。また、助動詞「む」の未然形に「ま」を認め、「ま」+接尾語「く」とも解する〙……ヨウトスルコト。……ヨウナコト。
「大原の古(ふ)りにし里に(雪ガ)降ら━━はのち」〔万2・103〕。
 ◎ ━━欲し〘「まく」に形容詞「欲し」が付いたもの〙……スルコトガシタイ、……アリタイの意。
「しめはへて(=シメナワヲハッテ)守(も)ら━━・き梅の花かも」〔万10・1858〕。
「老いぬればさらぬ別れのありといへば、いよいよ見━━・き君かな」〔伊勢・84〕
 ※「第二版」(1977年12月)も同じ。

▲「新明解古語辞典・第三版」(金田一春彦、1995年1月、三省堂
 ◎む(助動特活)
【語誌】未然形に「ま」を認める説もある。
 ◎ま・く
(【語誌】助動詞「む」の連体形+形式名詞「あく」の転。また、助動詞「む」の未然形に「ま」を認め、「ま」+接尾語「く」とも解する)……ヨウトスルコト。……ヨウナコト。
「大原の古(ふ)りにし里に(雪ガ)降ら━━はのち」〔万2・103〕。
 ◎ ━━欲し
(【語誌】「まく」に形容詞「欲し」が付いたもの)……スルコトガシタイ、……アリタイの意。
「なははへて(=シメナワヲハッテ)守(も)ら━━・き梅の花かも」〔万10・1858〕。
「老いぬればさらぬ別れのありといへば、いよいよ見━━・き君かな」〔伊勢・84〕

▲「角川全訳古語辞典」(久保田淳・室伏信助、2002年10月、角川書店
 ◎む[補説](2)「む」のク語法に「まく」があった。これを未然形「ま」と扱う必要はない。
 ◎まく(上代語。推量の助動詞「む」のク語法)……であろうこと。……ようなこと。
[例]
「我ワが里に大雪降れり大原オホハラの古フりにし里に降らまくは後ノチ」〈万葉・2・103〉
[訳]
わが里には大雪が降った。あなたがいる大原の古びた里に降るの(=降るであろうこと)は、もっと後のことだろう。

▲「古典基礎語辞典」(大野晋、2011年10月、角川学芸出版
 ◎む[解説]未然形のマを立てる説があるが、これは「言はまく」「見まく」などのク語法のマであって( ifa+ mu + aku ⇒ ifamuaku ⇒ ifamaku , mi +mu + aku ⇒ mimuaku ⇒ mimaku )、厶の未然形とはいえない。
 ◎まく[解説]推量の助動詞厶のク語法。厶の連体形厶に、「(本来居る)所」とか「事」の意を表す名詞のアクが付いたムアクが、 u と a と母音が二つ続くため、母音の連続を避ける上代語の特性で前のほうの母音が脱落し、その結果生じた語がマクである( mu + aku ⇒ muaku ⇒ maku )。マクは「万葉集」に多くあり、宣命などでも使われている。
中古以降は、用法が固定化し、ほとんどが、……したい、……することが望ましい意の「……まく欲ホし」、または、……するのが残念だ、もったいないの意の「……まく惜し」の形で使われるようになる。
このうち「まく欲し」は一語化して希望を表す助動詞マホシとなる。
 [語釈]……だろうこと。……しようとすること。……ようなこと。
「わが宿の梅の下枝シヅエに遊びつつ鶯鳴くも散らまく〔麻久〕惜しみ」〈万葉842〉。
「卿等マヘツキミタチ、百官人等モモノツカサノヒトドモ、天下百姓アメノシタノオホミタカラの念へらまく〔麻久〕も、恥ハヅカし、かたじけなし」〈宣命54〉 

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