しこしこ書くブログ

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金井直の詩(高島ツネに捧げた二編)

金井直の年譜の昭和19年には《夏から叔父の事務所に勤務する。ボードレールなどを読む。同僚の高島ツネを愛するようになる。ツネは、ぼくより五才年上だった。ツネの影響で、樋口一葉を読み、クラシック音楽にも興味をもつようになる。》とある。
そして、昭和20年の年譜には《空襲が激しくなる。三月十日、本所千歳町でツネ戦災死。死体のるいるいたる焼跡を探しまわったが、ついにツネの死体は発見できなかった。その体験は、「白い花」「木琴」「あじさい」などのモチーフとなる。》と書かれている。



★白い花

静かに魂のなげく夜
焼野は月の光に濡れ
道に落ちて動かない
私の影
恐ろしい紅薔薇の燃える前の日
また明日と言って別れたまま
もう地上では逢えぬ人よ
かぎりない追憶にさそわれて
頬に散る白い花



★木琴

妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない

お前はいつも大事に木琴をかかえて
学校へ通っていたね
暗い家の中でもお前は
木琴といっしょにうたっていたね
そして よくこう言ったね
「早く街に赤や青や黄色の電燈がつくといいな」

あんなにいやがっていた戦争が
お前と木琴を焼いてしまった

妹よ
お前が地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてからまもなく
街は明るくなったのだよ

私のほかに誰も知らないけれど
妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない